空には微かに残った夕焼け。
遠くにきらりと光った一番星。

だあれもいない校舎の屋上で。

にっこり笑った先輩の笑顔。





君とね。







「夕焼け・・・綺麗だったね〜」
「そうですね」
「もう終わりだなんて残念・・・」
「そうですね」
「あ、でも一番星だよ」
「そうですね・・・って不二先輩!」
「え?何?どうかした?」


ちゃん


頬にこの日最後の夕陽を受けてにっこりと微笑んだ2歳年上の先輩に、は内心の動揺を押し隠して言葉を続けた。


「ど、どうしたもこうしたもないですよ!こんな時間に呼びだしたのは先輩じゃないですか」
用事があるなら早く言ってくださいね!


うがーっと一息で続けた言葉に息をついたを、少し困ったような微笑みで不二が見つめた。

「・・・ちゃんは、僕と一緒にいるのが嫌なのかな?」
「そんなことは・・・ないですけど・・・」
「良かった」

論点のずれた言葉に思わず答えてしまったに、嬉しそうに微笑んだ不二の笑顔。
その、誰もが見惚れるであろう笑顔に、の顔が真っ赤に染まる。
慌てたように熱くなった頬を押さえ、は顔を伏せた。

そこで赤くなったらダメだってば!自分!!

泣きたいような情けないような気持ちで思う。
そう・・・どうせ人の悪いこの先輩は、自分のこんな反応を見て笑っているに違いないのだ。
いつもいつも。
引っかかる自分に、いい加減学習能力の有無を疑ってしまう。



は今年の春、青学に入学したばかりの1年生。
運動はからきしダメで、成績も中の上・・・。
どこといったとりえのない、ごく普通の女の子である。
ただ自他共に認める無類の本好きではあった。
本が好きで本が好きで・・・委員になるなら絶対図書委員!
そう決めていたぐらいの本好きだった。

もっとも意気込んで入った図書委員会ではあるが、そこでの彼女はもっぱらある人物のオモチャと化していた。その人物とは、テニス部ではレギュラーの位置を不動のものにし、さらには部内においてはNO.2とまでも言われる3年の不二周助、その人である。

この、いつも微笑んでいるんだかなんだかよく分からない先輩に、は委員会が初めてあった4月半ばから、「ちゃん」と呼ばれてはからかわれ続けていた。

う〜からかったりしなければいい先輩なのに・・・

ちらりと見上げた先で、不二が、何?とばかりににっこり笑う。
ぐっとつまったを楽しそうに見つめながら、不二が空に視線を移した。

「今日は旧暦の七夕なんだよ?知ってたかな、ちゃんは」
「・・・はい、一応は」
「ふふ、恋人たちの一夜の逢瀬・・・なんてロマンチックだよね」
「え〜と・・・先輩がそう言うと、なんだか別の意味に聞こえてきそうなんですが・・・」
「酷いなぁ・・・でも別の意味って何?」
ちゃんが教えてくれるのかな?

そうにっこり微笑んで、少し背を屈めた不二。
次の瞬間、唇に触れた柔らかなものに、の動揺指数はいっきにはねあがった。

「・・・っ!!な、なな何するんですかーっ!!」
「だってロマンチックな逢瀬でしょ?」
「いや、なんかそれ違いますし!!」

いきなり人の唇奪っておいてそのセリフはなんですか〜〜〜!!
真っ赤になって叫ぶに、不二が困ったように微笑んだ。

「う〜ん・・・まだ早かったかなぁ・・・でも夜はこれからだしね」
「何言ってるんですか、もう!」
「あはは、こっちのこと」
それより見て

綺麗だね・・・天の川。

「え・・・ああ!すごい!!」

不二が指し示したもうすっかり暗くなった夜空を見上げて、は思わず声を洩らした。
が見上げた先に広がる一面の星々。
それはまさに銀河を流れる天の川。
瞬く星のきららかさに魅入ったに、不二がにっこり笑った。

「ふふ、今夜は晴れだって天気予報で言ってたからね」


だからどうしてもちゃんと一緒に見たかったんだ


「え・・・不二先輩・・・?」
それってどういう・・・

聞きかけたは、はっとあることに気付いてしまった。

「せ、先輩!先輩のお気持ちはとっても嬉しいんですが・・・あの・・・」
「あれれ?どうかしたの?ちゃん」

焦ったように、言葉を発したに、不思議そうに――だけど楽しそうに――首を傾げた不二が聞く。そんな不二に、は一生懸命言い募った。

「こんな時間までここにいて、どうやって帰るんですか!!?」
校舎に鍵が・・・出れないですよ〜!!
「ああ、それ?大丈夫だから!」

慌てて右往左往しているに、とびきりの笑顔で不二が微笑んだ。


「お泊りグッズはしっかり準備してあるから」


「あ、そうなんですか・・・って、そういう問題じゃないでしょうがーっ!!」


頷きかけて、はっと気付き力いっぱいに叫んだの声は、にこにこ笑う不二がいる屋上に空しく響くだけだった・・・。





結局、その夜そこで一夜を明かした
いたく満足げな不二とは反対に、はかなり疲れてきっていたとかいないとか・・・。
そこで何があったか・・・なんて聞くだけ野暮ってもんでしょう!










END




軽い感じを目指してみました。
災難なのは主人公ですね(笑)
まぁ、頑張ってくださいv


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