輝ける星






星々の明かりがあってさえ宇宙は仄暗く、まるで一度沈み込んだら二度と戻ることのできない底なし沼のような深淵を思わせる。静寂・・・という言葉が何より似合う場所。
ソルジャーとして日課となっている午後の講義の後、ジョミーは一人、回廊に面した大きな窓からシャングリラの外を眺めていた。
遠く瞬く星々の輝きが、何万光年も先から届いていると習ったのはいつだったっけ。
数えようもない、想像もできないほどの年月に不思議な気持ちがしたのを覚えている。
そして、同時にとても悲しくて。とても切なかった。

ああ、あれは・・・。

そうか。

「・・・そう、なんだ・・・」

(何がそうなんだい?)

ぽつりと零れ落ちた言葉に、問いかけられ驚いたジョミーの脳裏に笑い声がくすくすと響いた。

「ブルー?」

(ごめん。ちょうど今目が覚めたところなんだが、君の言葉が真っ先に飛び込んできたものだから)

「・・・って、寝ていなきゃダメじゃないか!」

(大丈夫だよ。それに寝すぎても身体に悪いんだ)

怒らないでくれと言われれば、黙るしかなくて。ジョミーはそっと窓に手をついた。
磨き上げられた硝子に、ジョミーの緑の瞳が映る。

(で、何がそうなんだい?)

再度の問いかけに、ゆるゆると瞳を閉じた。少しの逡巡の後、開いた瞳は、どこか懐かしむような・・・切ないような色を湛えていた。

「ブルーはプラネタリウムって知ってる?」

(ああ。天文を擬似的に体験し、習得する施設のことだろう)

「うん・・・そう」

(プラネタリウムが、どうかしたのかい?)

耳ではなく身体の内に響く柔らかな声に促されるように言葉を紡ぐ。

「小さい頃・・・サムとスウェナ・・・あ、幼馴染なんだけど」

(知っているよ。とても仲の良い友人だったのだろう?)

「うん。その三人で遊びに行ったことがあるんだ。本当は子供だけじゃ行ったりしてはいけないんだけれど。こっそり・・・ね。見つかったら怒られるのは当然だったから渋る二人を説得してさ」

(ジョミーらしいな)

軽い笑い声に、もう、茶化さない!と眉間に皺を寄せれば、伝わる謝罪の思念。
それにまぁ、いいけどと返して続ける。

「仄青い非常灯だけがぼんやり隅に浮かぶ真っ暗な空間で、最初は何もなかったんだ。なのに、ぽつん、と中央に輝く星が浮かんだと思ったら後はあっという間に一面星空でさ。面白かったんだ。すごく。春、夏、秋、冬・・・全部違うんだよ、星の位置が。夢中で見た」

シリウスに、オリオン。
白鳥に、大熊、小熊。
蠍のアンタレスはとても、とても綺麗だった。

(それは・・・ひょっとしてテラの星空?)

「そう。僕たちの祖先がずっと見上げていた、テラの星空」

目の前に広がるどこまでも果てしない宇宙の闇と、時折瞬く星の光が優しい気持ちにさせる。

(ジョミー・・・?)

「あの時、僕は・・・星空がすごく綺麗で、すごく嬉しくて、すごく切なかったんだ」

胸に落ちる痛いほどの想い。
小さな心では、それが何かを理解するにはまだ足りなくて。
ただ流れ落ちる涙に、慌てるサムとスウェナに抱きしめられた。

泣かないで。
泣かないで。
泣かないで。

ああ、あの優しい友人たちはどうしているだろう?
もう逢うこともない。
もう逢えない、大切な友人たち。
元気でいてくれるといいのだけれど。

不意に浮かんだ優しい笑顔をそっと大切にしまい込んで続けた。

「切なくて切なくて。今考えると、あれはきっとあなたの想いだったんじゃないかな」

あの時・・・傍にいたでしょう?

それは疑問ではなく、確信。
だから問いかけではなく断定。

(・・・まだ、あの頃の君には力の発現などなかったのに)

息を呑んだような驚く思念に、笑う。

「僕だって今気付いただけだよ。あの時は、何も分からないままただ悲しくて、切なくて泣いただけ」

振り返った先。淡く青い燐光を放つブルーの姿に、そっと手を伸ばす。
思念体だから触れることなどできはしないけれど、滑るように頬を撫ぜる。

「そんなに悲しかった?」

そんなにテラが恋しかった?

そんなにテラに立ちたかった?

(ジョミー・・・僕は)

「いいよ、言わなくても分かってるから。ブルーにとってどれだけテラが大切で、どれだけテラに焦がれていたのか。全部・・・全部知ってるから」

あなたの記憶を受け継ぐ者だよ、僕は。

(ジョミー)

ふわりと、微笑んだジョミーの笑顔にブルーの真紅の瞳が揺れる。

「あなたは、ずっとテラを想っていた。あなたにとってテラがポーラスターなんだね」

(ポーラスター・・・?)

「テラの星空におけるすべての星の中心」

変わり行く星々の中で、動かない輝ける星。
たった一つ静かにテラを見つめる天空の玉座に座るもの。

だけどね。

「僕にとってのポーラスターは、あなただよ、ブルー」

震える肩を、触れることの叶わないと知っていて抱きしめるように腕を回した。

「テラでもない。誰でもない。あなたなんだ、ブルー」





幾千幾万の星の中。

あなただけが、たった一つの輝ける星。












END




一人脳内ジョミブル祭りを開催中。あ、でもブルジョミ祭りも同時開催(笑)いやぁ、もうブルー大好きだー!!(≧▽≦)

ブルーは皆に(特にジョミーに)大切にされていると良い。


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