ずっと、ずっと。






手を伸ばせば届くと信じていた。

例え今は届かなくとも。

いつか、いつの日か。

あなたに届くと・・・・信じていたんだ。






そっと触れた頬が想像よりも冷たくて、思わず僅かに開く唇に指を当てる。触れた指先に微かにかかる吐息にほっと息を吐いた。青白い灯りに照らされたこの部屋には、今、自分とブルーの二人しかいない。辺りを包む静寂よりも、いっそう静けさを纏うブルーの姿に不安だけが募る自分に自嘲の笑みを浮かべた。

アルテメシアを旅立ってもう何年が経ったのだろう。あの時、自分の暴走を止めるために力を使い果たし、こうして深い眠りにつかざるを得なくなってしまったブルー。彼が眠る間、ソルジャーとしての責務を果たそうと必死で努力を続けた。

そうすることで、彼の願いに応えられると信じて。

なのに、自分にできることなど数えるほどしかなくて。それだって、決して誇れるようなことではなかった。あまりにもソルジャーとして未熟な自分。壁にぶつかる度、ブルーの偉大さを思い知り、焼け付くような焦燥に胸が痛む。

それでも、悩む度。迷う度。

こうしてブルーの下へ訪れることで、次の一歩を踏み出す力に変えた。

だけど何度訪れても、ブルーが目を覚ますことはなく。鮮烈な輝きを放つ、美しい真紅の瞳は今も閉じられたままで、長い睫毛が頬へ薄っすらと陰を作っていた。

それはまるで、昔お伽話に聞いた眠り姫のように。
眠り続ける、美しい人。

「ブルー・・・」

祈るように、柔らかな銀の髪を梳いた。手を伸ばせば届く距離にいながら、その距離はあまりにも遠くて。時折、胸にどうしようもない切なさが込み上げる。

「あなたに伝えたいことがあるんです」

いつか・・・あなたが目覚めたら。

その時は。

だから、ブルー・・・。

応えることのない眠れる人へ、触れるか触れないかの口付けをそっと残し、ともすれば溢れ出しそうな想いを振り切るように部屋を後にした。






だけど。

伝える間もなく、目覚めた彼は皆を助けるために自ら戦闘へと向かう。

惑星をも破壊する兵器へと赴いた彼が、ここへ戻ることは二度となかった。

補聴器とともに託されたのは、ミュウの未来。ブルーの想い。切なる願い。

そして。

僕は零れ落ちた涙の意味を考えることを放棄した。






崩れ落ちる瓦礫の音が辺りに響く。

グラン・パと泣く愛し子に引き継がれた想いを託し、ようやく肩の力を抜いた。
やっと終わったんだ・・・と、小さく笑みを浮かべる。
静かに、だけど止まることなく身体から流れ行く紅い血。
痛みなどとうに麻痺していた。

だけど。

今まさに生命尽きようとも、後悔など欠片もない。
あるのは安らぎにも似た達成感。

約束は果たしたよ、ブルー・・・。

これで、これで、僕は・・・。



―――ジョミー・・・。



訪れる深い闇の中、確かに聞こえたのは。



ああ、あなたは。



「・・・ブ、ルー・・・」



眩い光の中、ゆっくりと差し出された手。
すでに力など入らない腕を必死に伸ばして、その手を掴む。



―――ジョミー、ありがとう。



鮮やかな真紅の瞳が、焦がれて恋した美しい宝石が優しく微笑んだ。
触れ合った指先から伝わるあたたかさに堪えていた涙が零れ落ちる。



「ブルー・・・!」



崩れ行く瓦礫とともにすべてが消えて行く。
願いも、祈りもすべて連れて。
胸に抱くは、あなたへの想いだけ。






ねぇ、ブルー、聞いてください。

あなたに、ずっと伝えたかったことがあるんです。

僕は・・・あなたのことを。

あなたのことを・・・。










END




今更、な辺りは見逃してください。ただ、書きたかっただけです。そして、ブルーともっと話して欲しかったよ、的な辺りのジレンマを発散。

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