蒼い、蒼いあの星で


[2]







蒼い星、地球。

それはかつて人が生まれ、育まれ、生きていた星。
遠い遙かな昔に、人々の愚かな行為のために生命が生きていくには適さない星になってしまったその星は、一度は人の手へと取り戻したこともあったけれど、今はまた、人を、生命を拒んでいる。

大地は火山活動を繰り返し、渦巻く気流に海は唸り荒れ狂う。
今、地球は狂ってしまったバランスを取り戻すため、自然の力による浄化作業を行っているらしい。長い、長い・・・それこそ気の遠くなるほど長い年月をかけて、自らの傷を癒そうとしているのだ。
人はただそれを見守ることしかできないけれど。

それでも、人は願う。
人の故郷たるこの美しき星へいつか・・・いつの日か、還れる日が来ることを。



「見て、フィシス!すごいね、ここはこんなにも地球に近いんだ!」

「ジョミー!気をつけて。走ると転んでしまいます」

一面硝子張りのロビーを、待ちきれないとばかりに走るジョミーの後ろを、フィシスが心配そうに続く。硝子の向こうに蒼く輝く星が静かに浮かんでいた。

「地球だ!地球だよ、フィシス!」

夢にまで見た星が、今、目の前にある。
ジョミーの心はまるで壊れたメトロノームのようにどきどきしっぱなしだった。

もっと傍で。
もっと近くで。
あの星を見てみたい。

想いに突き動かされるように走る。

「そこの君!ステーション内は走ってはいけないよ!」

警備の人にじろりと睨まれジョミーは肩を竦めた。
ほら、ご覧なさいとフィシスもため息を吐く。

「はしゃぎ過ぎです、ジョミー。他の方の迷惑になってしまうわ」

「そんなこと言ってもさ。嬉しくて仕方ないんだ!やっとここまで来れたんだから」

くるりと振り返りフィシスに手を差し出す。

「ジョミー、顔が緩んでます」

くすりとフィシスも笑い、ジョミーの手を取った。

「そう言うフィシスだって」

自分だけじゃないはずなのに、と拗ねたように唇を尖らせたジョミーの傍らに立ち、フィシスも地球を見つめた。

「ふふ、そうですね。私も、浮かれています」

でもそれとこれとは話が別です、とフィシスが笑う。

「これでは数ある大学でも特に名高いシャングリラ大学に飛び級をする、天才少年には見えませんよ」

「いや、そもそも天才じゃないし」

それに・・・と言葉を区切って地球を見つめる。

「天才って言うのは、きっとあの人のことを言うんだよ、フィシス」

「ソルジャー・ブルー・・・ですね」

疑問ではなく確定の言葉に頷く。

「そう。このSYG88の建設発案者にして、テラプロジェクトの主任研究者。いったいどんな人なんだろう」

ソルジャー・ブルー。
テラプロジェクト開始当初、その研究のためにSYG88の建設を発案し、実行に移した天才科学者。しかも当時ブルーは弱冠16歳だったというから驚きを通り越して驚嘆するしかない。あまりのすごさについた異名が「ソルジャー」。今の自分の年齢から考えたらどれだけすごい人なのか・・・比べることすらおこがましい気がする。

「一切表には出てこない方ですからね。でも・・・」

「でも?」

「ひょっとしたら会えるかもしれません。私たちはあの方の研究室がある大学へ入学するんですから」

「そうだね。会えたら光栄だなぁ」

「なんにせよ楽しみですね。ジョミー」

まったくもってその通りなので、ジョミーは頷く代わりに微笑んだ。










END




皆そのままの名前で出てきます。シャングリラ大学・・・自分で書いてて笑えました(をい)
ちなみに”SYG88”は「エスワイジーダブルエイト」と読みます。なんだか補記しておかないと自分が忘れそうなので。


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