蒼い、蒼いあの星で


[7]







声が聞こえる。

繰り返し、繰り返されるあの言葉。

ああ、またあの夢かとぼんやり思いながら、ふと、いつもと違うことに気がついた。
いつもならぴくりともしない身体が、動く?
驚いて目を開けると、眩しいほどの光の中に誰かがいるのが分かった。
だけど、逆光でその人が誰かなんて分からない。
それなのに胸を焦がす狂おしい程の渇望。

誰?

誰なんだ?

あなたは!?

込み上げた切なさと苦しさに、思わず両手を伸ばす。
光は遠くて遠くて、届かないのかと。
また、離れてしまうのかと悲しみに胸が締め付けられた時。

光から手が差し出された。

もがくように必死で伸ばし、互いの手が互いの手を掴む。
掴んだ瞬間、そのまま渾身の力で腕を引いた。

引かないと、今、手に入れないと!!

あなたはまたいなくなってしまう!!

祈るように引き寄せた身体。
現れた真紅の瞳に、衝撃が走る。

「・・・え?」






ピピピピピピピピピ・・・・!
薄暗い部屋の中、目覚ましの音が鳴っていた。
おまけに外では喧しいぐらいの小鳥の囀り。
ブラインドの隙間から差し込む光が眩しくて思わず目を細めた。

「・・・?」

右手を見る。
確かに掴んだはずのその手には何もなく、呆然としたまま上半身を起した。
くしゃりと髪をかき上げ、周囲を見回せば、そこは見慣れた自分の部屋で。

「ゆ、め・・・?」

相変わらず鳴り続ける目覚ましを無意識に止め、ベッドにもう一度沈み込んだ。ブラインドから零れる陽の光に手を翳し、瞳を閉じる。
脳裏に浮かんだ、真紅の瞳。

「・・・なんで・・・」

どうして・・・あの人が。

混乱したままの頭では正しい答えなんて導き出せるはずもなくて、ジョミーはただただ困惑していた。



そう、ずっと憧れていたソルジャー・ブルーの特別講義を受けたのはつい先日のこと。もちろん彼が実は初講義の日に出会った人であったとか、ミュウだったとか、自分とそう変わらない年齢に見えるとか、驚くべきことはいっぱいあったけれど、彼が実際に行った講義に比べたらなんてことはなかった。と思う。

柔らかな印象を受ける一人の青年に付き添われ、彼が壇上に立った時ざわめいた講義室も、彼が講義を始めた途端静まり返った。

響いたのは、声ではなく、思念。

身体の奥深くに響くような、彼の思念波がその場にいた者全員に届く。
それはまるで乾いた大地にしみ込む雨水のように、静かに、だけど急速に浸透していった。

始まりは地球がいかに汚染され、何故今に至ったのかという概略からだが、講義の中心を占めたものは、主に現在の地球における環境復興についての長年の研究とこうじるべき具体的な対策についてだった。どれもこれも見たことも聞いたこともない、ましてや考えたこともない話だった。

『それがいかに困難な、不可能なことだったとしても、我々にはそれを成し遂げねばならない義務がある』

そう、最後に締めくくった彼の横顔は、どこまでも純粋に地球への労わりと憧れを表していた。

だからかもしれない。

机にぱたりと落ちた涙の理由は。

どうして、とか。
なんで、とか。

自分の身体の中のどこを探したって見つからないけれど、この零れ落ちる涙はとても自然なものに思えたのだ。



窓の外。
一際高く響いた鳥の声に身じろいだ瞬間、ベッドが軋んだ音を上げる。
・・・不意に頬を滑り落ちた熱いものに、ジョミーははっと瞳を開けた。

「あ、れ・・・?」

知らず溢れた涙がシーツに染みを作っている。

「だから、どうして涙なんか・・・!?」

脳裏に浮かぶ蒼い星。

自分の・・・心臓の鼓動がやけにうるさいのはどうしてだろう。

・・・行かなくては。
あそこへ、あの蒼く輝く奇跡の星へ。

―――ソレガ、アノヒトトノヤクソクナノダカラ―――

「っ!?」






誰かに、名前を呼ばれた気がした。










END




今までのコメディ調が嘘のようにちょいシリアスになってます。え?突然過ぎます?(汗)
やや、えと、それは、それ。これはこれですよ!(意味不明)


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