蒼い、蒼いあの星で


[8]







「・・・ミー、ジョミー?」

「・・・え?・・・」

名前を呼ばれて顔を上げる。
テーブルの正面、心配そうに伺うフィシスがいた。

「どうかしました?先ほどから呼んでいましたのにぼーっとして」

そうだ、そう言えば今日は一緒に昼食を食べていたんだっけ。
専攻が違うためになかなか会えないから久しぶりに一緒に昼食をって。
それなのに・・・。

「・・・ごめん」

「気にしないでください。でも大丈夫ですか?なんだか顔色が悪いみたいですけれど・・・」

それに食も進まない様子。

視線の先、ジョミーの手元にあるトレーの上、ほとんど手をつけられていない定食を見てフィシスがため息を吐いた。
ダメですわ、ちゃんと食事は取らないと!細い眉をしかめて叱られる。

「ご、ごめんなさい・・・」

しゅんっと肩を落としたジョミーにフィシスがますます心配そうな顔をした。

「本当に・・・大丈夫ですの?」

「・・・うん。大丈夫、だよ。最近ちょっと眠りが浅いだけ・・・だから」

それは本当。
眠りが浅いというよりは、夢ばかり見ていると言い換えた方がいいのかもしれないけれど。
繰り返される夢と。繰り返される言葉。
今までと違うことは、その夢に彼・・・ソルジャー・ブルーが出てくることだろうか。
あの真紅の瞳に射抜かれる度、よく分からない焦燥にただただ気持ちだけが逸ってしまう。
この押さえようのない焼け付くような焦燥感。
苦しくて苦しくて仕方がないけれど、フィシスを心配させる訳にはいかない。
彼女はひどく繊細な心の持ち主だから。

「それに、さっき間食しちゃってさ。」

少し食べ過ぎたみたいなんだ。

口の端をどうにか持ち上げて、安心させるように笑ったジョミーに、これ以上は聞いても答えてくれないだろうとフィシスはため息でもって不承不承頷いた。

「そう・・・ですか。でもあまり無理はなさらないでくださいね」

自分のできることなどたかがしれている。
見ているだけでも辛そうなのが分かるのに、何もできない自分があまりに無力で悲しいけれど、ジョミーは他人に弱音を吐くような人ではないからと、とりあえずは見守ることにした。
それでもこれだけは言っておかなければ。

「ジョミー・・・何かあったらいつでも・・・」

「分かってる。ありがとう、フィシス」

少しだけ和らいだ緑の瞳が、普段よりもとても深い緑に見えて、フィシスは知らず息を呑んだ。それは・・・いつかどこかで見た緑だったのかもしれない。



なおも心配しつつも、食堂で午後の講義があるフィシスと別れた後、とりあえず一週間後に提出予定のレポートのために調べものをしなくてはとジョミーは図書館に向かった。
色々な学部の学生が集る食堂は、だいたい大学構内の中心に位置しているが、図書室はまだシャングリラ大学が一学部しかなかった頃からあるため、構内でも外れの方に位置している。初めて図書室に行った時など、あまりの外れ具合に本気で辿り着けるのかと思ったものだ。

一本道でしかない図書館への道には、ちらほら人の姿がある。恐らく自分と同じくレポートのためなどに図書館を利用しようとする者たちだろう。

「あっつ・・・」

見上げた緑の木々が眩しい。
そう言えば季節は初夏に入ろうとしていたなと暑さのためかうまく思考しない頭で思う。

それにしても、なんでこんなに暑いんだろう?

今日はやけに陽射しが暑く感じられるなとジョミーはため息を吐いた。
ここは天候や温度湿度の管理全てを人工的にコンピュータで管理されているはずの月面都市なのに。

「咽喉が、やけに乾く・・・」

こめかみを伝う汗を拭い、乾きを訴える咽喉に手を当てる。
温度差でひやりとしたのも一瞬で。すぐに熱を持ったものに変わった。

ああ、暑い。本当に、なんでこんなに・・・。

もう一度目に入りそうだったこめかみの汗を拭おうとした時、目の前を歩く人の背中が、ぶれた。

あ、れ・・・?空が回って・・・る?
ぐにゃりと不自然に揺れた視界に、意識が急速に遠のく。
最後に見えたのは、紅い、色。

「・・・い!おいっ!大丈夫か!?」

「・・・ルー・・・」

風に掻き消えそうなほど小さな呟きに、ジョミーを受け止めた男の目が見開かれた。










END




倒れちゃったよ、ジョミー!!Σ( ̄д ̄;)


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