蒼い、蒼いあの星で


[10]







キースが出て行った後、しばらくしてようやく身体を起こすことを許された。

自分としては倒れたと聞いてもあまりぴんと来ないから、少し大袈裟じゃないかとも思ったが、それでも純粋に心配してくれるブルーの気持ちが嬉しかったし、それに憧れのソルジャーの研究室に今自分がいるということがなんだか役得なような気がしていた。

もちろん去り際のキースとブルーの会話は気になってはいたが、それでもそれについて言及することなどできるはずもなく、とりあえず頭の隅へと追いやることに決めた。
ブルーは何も話す気はないようだったし、それに、倒れた最たる原因の寝不足で、夢の中にあなたが出てくるんです、なんてそんな突拍子もないことを言われても困るだけだろう。

だから。

今はただ傍にいられることだけで・・・。






・・・?

・・・傍、に?

何だろう・・・何か、大切なことを・・・僕は・・・?






「すごい量の本ですね」

ブルーの研究室は、とにかく本が多い。
壁際に設置された本棚にはぶ厚い専門書がずらりと並び、それでも入りきらない本が研究室内の到る場所に平積みされていた。よく見れば書類もあちこちに挟まったり、置きっぱなしになっていたりしているようだ。
物珍しさから周囲を見回すジョミーに、ブルーが恥ずかしそうに視線を逸らす。

『すまない。ちらかっていて』

「あ、いえ、そんなこと・・・」

『気を遣わなくていいよ。きちんと整頓してくださいねとリオにはいつも怒られてばかりなんだ。僕はどうも整理整頓が苦手らしくてね・・・。せっかくリオが片付けてくれてもあっという間にご覧の通りで・・・』

どうしようもない奴だよねと笑って肩を竦めたブルーに、ジョミーも笑う。

「僕もですよ。いつもマムに怒られてました」

ジョミー、使い終わったら元の場所へちゃんと戻しなさい!何度言ったら分かるの!って。

母親の口調を真似たジョミーに、ブルーが眼を丸くして、そしてくしゃりと笑った。

『あはは、そうか。一緒だね』

「はい、そうですね」

こんな他愛のないことが可笑しくて、そして嬉しくて。二人、顔を見合わせてくすくすと笑い合う。楽しそうに笑うブルーは本当に少年のようで、とても60年も生きている年長者には見えない。

・・・そう言えば、この人のこんな笑顔は初めてだと思う。

―――アノコロハタダホホエムバカリデ―――

何も含まない・・・屈託のない笑顔がどうしてこんなにも胸に響くんだろう。

―――ズットズット・・・ワラワセテアゲタカッタカラ―――

だから。

『ジョミー・・・?』

「・・・え?あ、れ?・・・え?」

心配そうに名を呼ばれて初めて。
頬を伝う涙に気がついた。

その涙の理由も分からず、慌てて手の甲で拭う。

『ジョミー』

拭っても拭っても溢れる涙に困り果てたジョミーを、ブルーがそっと抱きしめた。安心させるようにゆっくりと背を撫ぜる手の感触に、どうしてかまた涙が溢れる。

「すみません・・・どうして、こんな・・・」

『いいんだ。ジョミー・・・』

悲しいのか、嬉しいのか、それすらも分からないままジョミーは抱きしめる腕の温かさに促されるようにブルーの肩口に顔を埋めた。

身体に感じるブルーの鼓動と、自分の内側に響く鼓動。

重なって、そして。

顔を上げると、ブルーの真紅の瞳がすぐ傍にあった。
どこか痛みと切なさを閉じ込めたような緋色に、吸い込まれるように気がつけば。

『!?』

重ねた唇に、ブルーの瞳が驚きで見開かれた。










END




ジョミー・・・なんだか泣いてばかりのような・・・あれ?
いや、これ一応ジョミブルなんで。ブルジョミじゃないですよ!
・・・と、自分に言ってみる。

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