蒼い、蒼いあの星で [12] 僕は願った。 それに君は笑って応えてくれた。 僕の果たせなかった願いを。想いを。 大切な者たちの未来を。 ただ君は笑って背負ってくれた。 その先に待つものが、苦しみと困難、そして悲しみしかないと分かっていても。 だけど・・・だけど僕は知っているんだ。 笑わなくなった君を。 すべてを背負った厳しい横顔を。 「だから言っただろう」 『・・・キース・・・』 聞き慣れた声に顔を上げると、書架に持たれるように本を開いたキースがブルーを見ていた。しん・・・と静まりかえった薄暗い場所。天井近くまでずらりと立ち並ぶ書架と、独特の埃っぽい空気。見覚えのあるここは・・・図書館の一角か。薄暗い場所を照らすように、まだ自分の身体が青い燐光を放っていた。自分は図書館まで”跳んだ”のだろう。突然現れた自分にさして驚く様子もなくキースが持っていた本を閉じた。 「逃げて、それでお前はどうしたいんだ?」 『僕は・・・』 「あいつが怖かったか?」 『・・・』 「それともあいつに知られるのが怖かったのか?」 『キース、僕は・・・』 ひたりと見据える薄水色の瞳が問うように細められた。 遙か昔より語り継がれる神の瞳のように。 それは真実を射抜く眼差し。 「あいつがいずれ目覚めることなんて分かっていたんだろう?」 記憶と記憶の連鎖。 そう、自分という存在がジョミーにとってすべてを目覚めさせる鍵となることなど分かっていた。今までのキースがそうであったように。リオがそうであったように。 それでも分かっていて、なお・・・。 「近づいたのはブルー、お前だ」 聞きたくない言葉に瞳を閉じる。 脳裏に浮かんだ、最後に見たジョミーの顔。 深い色を湛えた、緑の瞳に心が揺れる。 すべてが塗り替えられてしまった。 ただの16歳のジョミーではなく、ソルジャーの記憶を受け継ぐジョミーという存在に。 軽やかな笑顔も。 あの歳相応の表情すら、今はもう。 後悔と絶望に胸が締め付けられる。 こんなことを望んだわけではない。 望んだわけではなかったのに・・・。 我がままだと分かっていたんだ。本当は。 願うことさえ許されないことなんだと。 君をあんな過酷な運命に巻き込んだ自分が、どの面を下げて君の前に立てるんだと。 幼い頃から見る夢が、ただの夢なんかじゃないと知った時に僕は決めたはずだったのに。 それなのに、僕は。 あの時君に出会って、君を見つけて。 願ってしまった。 眩しいほどに輝かしい、金の太陽。 彼の傍にいたいと。 屈託なく笑う彼が自分を覚えていないことに、心から安堵した。 彼の笑顔に翳りなどなく、幸せに愛されて育ったのだろうと伺えて何より嬉しかった。 幸せで良かった。 幸せで良かった。 幸せで良かった。 その気持ちに偽りなどなかった。 だけど。 今度こそ君の人生に幸あれと願いながら、それでもどこかで期待していた自分がいた。 ―――記憶がなければ傍にいられる、と。 多くは望まない。 彼が今度こそ幸せな人生を歩んで行く姿をただそっと見守れたらと。 そんなささやかな願いだったのに。 彼の瞳が僕を映す。 それが泣きたいほど嬉しくて。 泣きたいほど切なかった。 僕を覚えていない、彼。 それでも交わす言葉に、はにかむ笑顔に心震えた。 それだけで良かったのに。 だけど、彼に変化が現れた。 倒れるほどに夢に苦しむ姿に、心が痛んだ。 ほんの少し話をしただけで彼の中で起こる急速な変化。 自分自身に疑問を持ち始めた彼に応えることなどできるはずもなかった。 そして恐れていた瞬間がやって来る。 『僕は・・・』 「本当に馬鹿者だな、お前は。・・・忘れてはいけないことがあるはずだろう?」 『キー・・・ス・・・』 先ほどとは違う、どこか柔らかな瞳がブルーを見ていた。ゆっくりとキースが言葉を紡ぐ。 「あいつが望んだのは何だ?」 あいつが求めたものは・・・。 そんなことは分かっている。 誰に言われなくても自分が一番よく分かっている。 『だが・・・僕にそんな資格などないんだ!』 彼の傍に、こんな僕などいていいはずがない! だから、僕は。 ジョミー、僕は・・・。 「ブルーっ!!」 偽りの静寂すべてを破る声が、響いた。 END 今回はブルーさん視点。それにしてもキース・・・何者だ、お前は(笑) →ブラウザのバックボタンでお戻りください。 |