蒼い、蒼いあの星で [13] 焦がれ続けた蒼い光。 やっと見つけたと、伸ばした手さえ届かなくて。 せめてこの想いだけでもあなたに届くだろうか。 消える瞬間。見えた揺れる真紅の瞳。 かすかに光って見えたのは涙だろうか。 ブルーのいない場所で。 呆然と、ただ呆然とするしかなくてジョミーはその場に腕をついた。白く光るリノリウムの床の冷たさに、よりはっきりと彼の存在を思い出す。 唇に残る温もりも。 腕に抱きしめた身体の温もりも。 こんなにもはっきりとこの身体に残っているのに。 「何故なんですか、ブルー・・・」 やっと会えた。 やっと傍にいられる。 そう思ったのに。 「ブルー・・・」 苦しくて、悲しくて。 何故とだけが繰り返される。 『失礼します、ソルジャー。遅くなってすみません。医務室の帰りにヒルマン教授にお会いしたんですが・・・』 扉の開く音とともにリオの思念が響く。 「リ、オ・・・」 のろのろと上げた顔が、驚いたようなリオを見て歪んだ。今にも泣きそうで、だけど泣けない表情にリオが眉を顰めた。 『ジョ・・・ミー・・・?あなたは・・・』 目覚めたんですね? 問いかけというよりは確認の意思でもってジョミーの傍らに歩み寄ったリオに、小さく頷く。立ってくださいと差し伸べられた腕に俯き首を振る。それに構わずジョミーの腕をとったリオが、近くにブルーの姿がないのに気づき何があったのかを悟ったようだ。 『ジョミー』 「・・・僕は・・・僕は・・・彼の願いを叶えることができなかったから・・・だから・・・」 俯き独り言のように零れ落ちた呟きに、リオは再度名を呼ぶ。 『ジョミー』 「ブルー・・・あなたの役に立てなかったから・・・だからなんですか・・・?」 『それは違います!ジョミー!!』 「リ・・・オ・・・?」 堪えきれずに叫んだリオにようやくジョミーが顔を上げた。そこに懐かしい緑の瞳を見つけリオは嬉しさと懐かしさ、そして同時に泣くことさえできない呆然とした瞳に痛ましさを覚えた。 『違います、ジョミー・・・ソルジャーは、あの方は』 『「だけどあの人は僕を拒絶したんだ!」』 『・・・っ』 血を吐くような叫びを直接思念で受け止め、リオは歯を喰い縛った。彼の思念は強烈過ぎる上目覚めたばかりでコントロールさえままならない。だけどそれに変わらない彼を見つけて痛みに耐えながら小さく微笑んだ。柔らかな光を放つ金の髪の眩しさに、いつかの日、紅い大地を背に立つ彼を思い出す。もう遠い過去のことだけれど。 『聞いてください、ジョミー。あの方はずっとあなたを探していたんですよ』 「嘘だ・・・」 『いいえ。あの方にとってあなたほど大切な存在はいないのですから』 「・・・なら・・・ならどうして!」 『あの方はずっとあなたに背負わせた運命に苦しんでいたんです。自分はあなたの前に立つ、ましてや傍にいる資格などない・・・と』 思いもしないリオの言葉にジョミーの瞳が見開かれる。 「資格・・・?」 責・・・任だって・・・?そんなことのためにあの人はこの腕から逃げたのか? 「馬鹿じゃないのか」 自分にとって重要なことは、ブルーが生きていてくれたこと。 ブルーの傍にいたいということ。 たったそれだけ。 でもそれだけが全てを凌駕する重要なことで。 そんな大切なことを見落としている大馬鹿者が、それでもやっぱり一番愛しい自分に小さく笑った。 「本当に馬鹿だよ、ブルー・・・」 『ええ、だから。ジョミー』 それをあの方に教えてあげられるのはあなただけなんです。 柔らかなリオの微笑みに、ジョミーの瞳に光が戻る。 決意を秘めきらきらとした光を反射する緑の瞳は、まるでサファイヤのようで。ああ、綺麗だとリオは感歎のため息を知らず吐いていた。 ゆっくりとジョミーが立ち上がる。 「行くよ」 あの人の下へ。 『はい。では私はとびっきりのお茶を用意してお待ちしてますね』 そう微笑んだリオを、ジョミーは黙って抱きしめた。 『ジョミー?』 あの厳しく苦しい戦いの中、傍らで自分を支え続けてくれたのは、この人で。 何度崩れ落ちそうな心を救われただろう、彼の優しさに。 それに今だって。 彼がいなければ自分は子供のように同じ言葉を繰り返すだけだっただろう。 あの人の気持ちなど知ることもなく。 「ありがとう、リオ」 『ジョミー・・・』 触れる温もりに少しだけ泣きそうに歪んだリオに、ジョミーが笑った。 「すぐ戻るから」 『はい。あの方の居場所は・・・もうお分かりですね』 それに頷いたジョミーの身体が眩しいほどの蒼い光を放つ。 次の瞬間、ブルーを追い、消えたジョミーにリオは祈るように瞳を閉じた。 『どうか・・・どうか・・・今度こそ』 幸せになってください。 そう、互いの心はこんなにも惹かれあっているのだから。 END 12話よりほんの少し前。ジョミさん復活。そして12話に続くのです。 個人的にリオとジョミーが最期に会えなかったことを悲しんでいたんで、こっそり色々詰め込んでみました。 →ブラウザのバックボタンでお戻りください。 |