サクラ、サク。






「ぼくとけっこんしてください!」



突然の言葉に驚けば、下から見上げるきらきらした緑の瞳とぶつかる。
ふわふわの金の髪に、透き通るように鮮やかな緑の瞳。
水色のスモッグから伸びた小さな手足が幼さをよりいっそう強調させていた。
見かけない子だ。

「ええと、君は・・・?」

戸惑いながらもしゃがみ込んで目線を合わせたブルーに、真っ赤に頬を染めながらはっきりと答える。

「ほしぐみ、ジョミー」

名札を見れば、確かにそれは”ほしぐみ”と書かれており、今日まさに、ここ、私立シャングリラ幼稚園で入園式を迎えようとする子供たちの一人だと知れた。

「ジョミーくんか」

「はい!」

元気な声が可愛らしい。
微笑ましくてつい微笑んだブルーに、ジョミーの顔がさらに真っ赤になり、まるで熟れたトマトのようになった。そして再度、ぐぐっと小さな拳を握り締めブルーの瞳をまっすぐに見た。

「けっこん、してください!!」

あまりに一生懸命なその姿が可愛らしくて、思わずくすりと笑ってしまう。
途端、ジョミーの顔がくしゃりと歪んだ。
ぽろぽろと大きな瞳から涙が零れ落ちたので、慌ててジョミーの頬を両手で包む。
しかし、いやいやと言うように俯いてしまった様子に、どうも自分の行動が小さな男の子の矜持を傷つけてしまったのだと気がついた。

「君を笑ったわけじゃないよ。あんまり君が可愛いから」

泣かないで、と覗き込むと潤んだ緑の瞳が揺れた。
涙のとまった大きな瞳にふくふくの頬を赤く上気させ、じっと見つめるジョミーに微笑む。

「入園、おめでとう。君がここに来てくれて嬉しいよ。さあ、皆が講堂で待ってるから行こうね」

そうして立ち上がり、ジョミーの手を取り歩き出そうとしたら、くんっと後ろへ引っ張られた。
振り返ると、小さな足で地面に踏ん張る姿がそこにはあった。

「・・・へ、へんじは?」

子供特有の甲高い声でも、さらに上ずった声でジョミーがきっとブルーを見つめる。
妙な緊張感がその場に満ちた。
ブルーの真紅の瞳が数回瞬き、ジョミーに真っ直ぐ向き直る。

「ジョミーは僕のことが好きなのかい?」

「うん!」

優しく尋ねられ、まったくその通りなので勢いよく頷いたジョミーにブルーが再度尋ねた。

「まだ会ったばかりなのに?」

「大好き!」

迷いのないはっきりした答えに、ブルーがふわりと微笑んだ。

「ありがとう。だけどまだ結婚するには早いかな」

「な、なんでっ?」

どうして?とショックを隠しきれないジョミーの頭をそっと撫ぜながらブルーが笑う。

「だって僕たちお互いのことなんて何も知らないだろう?」

順序は大切だと思うのだけど?と言われ、それもそうかとジョミーの心にすとんと落ちる。
でも分かったからと言って、このままでは終われない。
だって自分はこの人が大好きなのだ。
今も自分を見つめる優しい真紅の瞳に、穏やかな風に靡く綺麗な綺麗な銀の髪。
こんな綺麗な人見たことない。
何かを考えるよりも先に、言葉が飛び出してしまうぐらいに惹かれて惹かれてしょうがないのだ。

「じゃあ、いつになったらけっこんしてくれるの?」

大好き大好き大好き!という想いを全身に滲ませて見上げる幼子にブルーも思案する。

「君がもっと大きくなったら。その時まだ僕を好きでいてくれたら」

いいよ、と微笑んだブルーにジョミーがにっこり笑った。

よかった。
おとうさん、ぼくがんばったんだよ。

「じゃあ、こいびとだね、いまから」

「え?」

けっこんのまえにはみんなこいびとってものだから。

「こいびとなんだ」

満面の笑みを浮かべるその姿があまりにも可愛らしくて、ブルーはまぁいいかと思った。
いずれ大きくなったら分かることだから。
今はこのままでも。

それになんだかこの子は目が離せない。

「さあ、もう入園式が始まってしまうよ」

行こうかと手を引けば、今度はしっかりと握り返しブルーに付いて来る。
腰近くで揺れる金の髪が、まるでお日様みたいに煌めいた。



―――ねぇ、なまえは?まだおしえてもらってないよ?

―――僕はブルー。ブルーだよ、ジョミー。



桜舞い散る木の下で。
交わした約束は永遠に、永遠に。










END




保父さんブルーと幼稚園児ジョミー、初めての出会い。
実はジョミー・・・「いいか、ジョミー。大好きな人ができたら迷わず手に入れろ。一瞬でも迷ったら負けだ」という父親の教えを実行していたりするんですが、それはまた別のお話です(笑)


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