アタタカナ、テ。





「それでケンカの原因は何だったんだい?」

泥まみれで擦り傷だらけ。
ぐずぐずと涙と鼻水でぐちょぐちょの男の子と、頬を真っ赤にしながら口をへの字に曲げて立つ男の子を前に、ブルーはため息交じりに問いかけた。






「せんせぇ、ジョミーくんがまたケンカしてます」

と、呼びに来られたのはもう入園してから何度目か。
元気で明るくて皆から好かれるジョミーだが、怒ると如何せん手が早かった。

それもブルーに関することで特に。

しかも決して身体は大きくないのに滅法強くて。
たいてい相手が泣かされているところへ、知らせに来た女の子たちに連れられて駆けつけるということになるのだ。

今もまさにそんなところで。

大泣きに泣く男の子―――星組で一番大柄なのだけれど―――と、擦り傷は多少あれど気の強い瞳で見上げるジョミーを前に保父としての力量を試されていた。

「ジョミー?」

「・・・から」

ブルーに促され、ぐっと拳を握りながらジョミーが俯いた。
ぽつりと零れた言葉は、しかし小さくてよく聞こえない。

「聞こえないよ、ジョミー」

ようやく話す気になってくれたかと、内心嬉しくても表面上は渋い顔で再度促す。

「だって・・・ブルーとけっこんできないっていうから」

「・・・え?」

慌てて俯くジョミーを覗き込むと、ジョミーの気の強い瞳に涙が浮かびかかっていた。

「おとことおとこはけっこんできないって。だから・・・」

そんなのいやだもんとぽろぽろと涙を零したジョミーに、ほんのりと心が温かくなる。
小さな子供なりに心を痛めての行動だと思うと、それ以上は何も言えない。
だけど、けじめはけじめ。

「そうか。それが原因だったんだね」

「ブルー・・・?」

まだ涙が溢れるままに、ブルーを緑の瞳が見上げた。

「でも、それが本当なことだったらジョミーは僕のことを諦めるのかな?」

大好きだって言ってくれたのに?と悲しそうに眉を寄せたらジョミーが慌てて叫んだ。

「そんなことないっ!あきらめないもん!」

ぶんぶんと頭を振るその姿に、にっこり微笑んでブルーが抱き上げた。

「じゃあ、ちゃんと謝らないと。叩いてごめんなさいって。いいかい、どんな時でも力に訴えてはいけないんだよ」

むぅ・・・と眉間に皺を寄せたジョミーが、ブルーを見て、泣かせた男の子を見る。
考えるように黙り込んだジョミーの髪を撫ぜて、ほらとブルーが笑えばそれに弱いジョミーに抵抗する術はない。
下ろされ、側へと近づく。
先ほどのケンカのせいか、びくりと身を震わせた男の子に、ジョミーがそっぽを向きながらぼそりと言った。

「・・・ごめん」

「ジョミー?」

謝る時は?優しいけれど有無を言わせないブルーの声音に渋々まっすぐ男の子を見る。
鮮やかな緑の瞳が、お日様の光を受けてきらきら輝いた。
あんまり綺麗で見惚れて涙が止まった男の子に、ジョミーがぶんっと頭を下げた。

「たたいてごめんなさい!でした」

「はい、よくできました」

ブルーがにっこり笑ってジョミーの頭を撫ぜる。そうして、泣き止んだ男の子の顔を持っていたタオルで拭いてあげた。
拭かれながらも、男の子の目が隣でつまらなそうに小石を蹴飛ばすジョミーを追い掛けるのに、おや?と思う。そうか。好きな子の気を引きたいのは皆一緒なんだと微笑ましい気持ちになる。

「さあ、ケガの手当てもしないとね」

立ち上がり、左手に男の子の手を、右手にジョミーの手を握り救急箱の置いてある部屋へと向かう。歩きながら、ぽつりとジョミーが呟いた。

「・・・き?」

「うん?」

「ブルーは・・・ぼくのこと、すき?」

ケンカが一段落したからか、先ほどの話を気にしているのだろう。心なしか元気のないジョミーの手をそっと力を込めて握った。

「今まで僕がジョミーを好きじゃないことなんてあったかい?」

「!」

くしゃりと顔を綻ばせ、そっと返すように力の込められた小さな手がとても温かくて。
ブルーはにっこり微笑んだ。


この手を離せと言われても。
離せる人間などいるものか。










END




いつかは通る道。まあ、でもまだ本当の意味で真実に辿り着いてはいない感じ?(笑)
ところでブルーに一途なジョミーですが、ジョミーを好きで気を引きたい子だっているんです。
これはそんな男の子の精一杯の意思表示だったりして。


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