カワラナイ、オモイ。






「ジョミー!今日の部活、先生が急用でなしになったってさ」

「え?本当か?」

五限目終了後、ホームルームが終わったらすぐにグラウンドへ出られるよう机の中の教科書類を鞄にしまうべく引っ張り出していたら、同じサッカー部仲間に言われその手を止めた。
机の傍に立った仲間を見上げるために揺れた金の髪から、草原のような鮮やかな緑の瞳が覗く。

「珍しいな。もうすぐ大会なのに」

「うーん・・・よく分からないけれどなんかやけに慌ててたらしいぞ」

「ふーん・・・」

あの練習練習と口うるさく厳しい先生がね。

「とりあえず連絡事項、伝えたからな」

「ああ、サンキュ」

更に隣のクラスの仲間に伝えるべく教室を出て行った仲間の後姿を見送り、ジョミーは小さくため息を吐いた。

「まぁ、部活できないんじゃ仕方ない・・・か」

大会まで日が近いから、できれば一日だって無駄にはしたくない。だけど監督する顧問がいなければ部活動は安全上の問題から休みになるのは仕方がないことだ。ならば、とジョミーの脳裏にある人の笑顔が浮かんだ。

そうだ、会いに行こう。

ここのところ部活が忙しくて会いにいけないかったからと思い、久々に会える喜びに自然と口が綻んだ。






「ブルー!!」

「やあ、ジョミー」

名を呼び駆け寄れば、いつものように笑顔で迎えてくれる。
秋の穏やかな風に揺れる銀の髪に宝石のように美しい真紅の瞳。
それは出逢った頃からずっと変わらない。卒園して六年にもなるが、ジョミーにとって、ここ、シャングリラ幼稚園は特別な場所だった。それは大好きで大切なブルーがいるからだ。いつだって優しく自分を迎えてくれる彼がいるから。だから。

「久しぶりだね、今日は部活いいのかい?」

「今日は部活が休みだったんだ。ブルーは花壇の手入れ?」

見れば、花壇の手入れをしていたのか、片手にはスコップ。片手には球根。
桃色のエプロンはブルーによく似合っているけれど、ところどころ土で汚れていた。

「ああ、秋の花が終わってしまったから来春のために植え替えているところなんだよ」

「手伝おうか?」

申し出たら、いいのかい?君も汚れてしまうよ?と聞かれ頷く。ブルーの傍にいられるならなんだっていい。というか、傍にいたいのだ。汚れぐらいなんだというのだ。

「ありがとう。じゃあ、このスコップを使うといいよ」

「ブルーは?」

それはブルーが使っているものじゃないかと問うように見上げれば、後ろのバケツからもう一つのスコップを取り出して笑った。

「これがあるから大丈夫」

「え?でもそれは古くて錆びてて使いにくいよ。そっちを僕が使う」

「いいから、いいから。せっかく手伝ってくれるのに。新しい方を使って?」

ね?と微笑まれ、渋々ブルーから貰ったスコップを使う。
本当はブルーの役に立ちたいからなのに、これじゃあなんだか邪魔してるみたいじゃないか。でもブルーに微笑まれたら否とは言えないのだから仕方がない。使い難いものを使わせてしまう代わりに、自分がその分頑張ろう。うん。そうしよう。心の中で決めて早速作業に取り掛かる。
土いじりなんて久しぶりで、球根を触るのだって久しぶりだ。バケツの中にあるからそれを植えて欲しいと言われ、言われた通り間隔を空けて植えて行く。

「部活、頑張ってるみたいだね。今度大会でレギュラーに抜擢されたんだって?すごいじゃないか!」

この間君のお母さんに、街でたまたま会って教えてもらったんだよ。

手を動かしながらブルーに言われ、頷く。ちょっと誇らしい気持ちだ。
中学に上がってからサッカー部に入部した。ジョミーの中学は有名なサッカー強豪校で、毎日練習練習練習ばかり。その分ブルーに会える時間が減ってしまったけれど、サッカーが好きだし、それにブルーに褒めてもらえると嬉しくてたまらない。

「もうすぐ大会なんだ。再来週の日曜日」

「再来週か・・・僕も応援に行ってもいいかい?」

「本当!?本当に来てくれるの!?」

思わぬ言葉にばっと振り向けば、ブルーが目を細めて頷く。

「もちろんだよ、ジョミー。君が初レギュラーで出る試合なんだから」

それとも行かない方がいい?

「そんな、ち、違うってば!来てくれるなんて思ってもみなかったから、だから」

やった!ブルーが来てくれるなんて!僕頑張るよ!と頬を紅潮させて言い募るジョミーにブルーが優しく微笑んだ。

「ああ、楽しみにしてるよ」

やっぱりブルーの笑顔は綺麗だ。笑わなくたって十分綺麗だけど、笑うともっといい。思わず見惚れたジョミーに、ブルーがバケツから球根を手に取った。

「さあ、残りを植えてしまおうか。そうしたらお茶にしよう」

部活の話とか、聞かせてくれるんだろう?

「うん!」

頷き、ジョミーもスコップを握りなおした。






「よし、終了!」

最後の一つを植え付け振り向けば、ブルーも丁度植え終わった所だった。真新しく掘り返された土がこげ茶色に盛り上がっている。
さあ、お茶にしようかと手を差し出され、自分の土で汚れた手に少し躊躇うと、大丈夫、僕の手だって土まみれなんだからと言われ、その手を取った。
以前は大きいと思った手も、今ではジョミーより少し大きいぐらいだ。それでも包み込むような優しさは変わらない。伝わる温もりに、まだ幾らか自分より背の高いブルーを見れば、行こうかと微笑まれる。頷き歩き出した二人の背後で、かさりと落ち葉が舞った。



「そういえばあれって何の球根なの?」

「あれかい?チューリップだよ」

「チューリップ?あれって春に咲く花なのに、今から植えるんだ?」

「そうだよ。春には真っ赤なチューリップが咲くんだ」

いつか・・・君がくれたチューリップのように。



遠い記憶の中。
いつだってあの時の思い出は鮮やかに。









END




≫≫≫リク内容
幼稚園シリーズ。もう少し大きめで頑張っている中学生なジョミー。


77777HITのキリリクSSです。い、如何なものでしたでしょうか、シキさま・・・(汗)つたないお話ですが、少しでも楽しんで頂けたのなら嬉しいです。


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