ダイスキ、ダイスキ。 [1] トォニィの大好きな人は、お日様みたいな金髪に、いくら見ていても飽きない綺麗な緑の瞳を持っている。自分より一つ年上のその人が、大好きなパパやママより大好きで。トォニィと名前を呼ばれるだけで嬉しくなってしまう。 それなのに。 最近ちっとも遊んでくれないのはなんで? 「ジョミー!」 玄関を出ようとしたところで、突然視界に飛び込んできた灼熱色の髪。その勢いのまま小さな身体がぎゅっとジョミーに抱きついた。突然のことに驚きながらもなんとか踏みとどまれたのは、その子がジョミーよりも小さかったからと、相手がジョミーのよく知る子だったから。 「トォニィ?どうしたの?」 離さないとばかりにぎゅうっと自分の水色のスモッグの裾を握り締める一つ下の従弟に首を傾げる。と、そこに少し遅れて優しげな風貌の女性が現れた。 「こんにちは、ジョミー」 「あ、カリナおばさん」 こんにちは、と小さな頭を下げてなんとか挨拶をする。こうもしがみつかれたままだと動き難くて仕方がないけれど、一生懸命なトォニィに離れてとも言えず、困ったようにカリナを見上げた。カリナはジョミーの母、マリアの二つ下の妹だ。鳶色の優しい色合いの髪が風にふわりと揺れた。 「まぁ、カリナ!久しぶりね。元気だった?」 「マリア姉さん」 仕事へと夫を送り出し、そして今から幼稚園へとジョミーを送り出そうと玄関へと出てきたマリアがカリナを見て、そしてジョミーとジョミーに抱きついたままのトォニィを見る。 「ふふ、トォニィもこんにちは」 甥にあたるトォニィを覗き込みながら挨拶すると、灼熱色の髪を持つ子供はいやいやするように首を振った。顔をジョミーの胸に擦り付けるように隠してしまったので一瞬だったけれど、琥珀色の瞳に大粒の涙が盛り上がっていたようでマリアは首を傾げた。 「あらあら、どうしちゃったのかしら?」 「そう、それなのよ、マリア姉さん」 カリナが少し困ったように微笑んだ。愛おしそうにトォニィの髪を撫ぜながら言葉を続ける。 「マリア姉さんの所のジョミーが今年から幼稚園に上がったでしょう?前みたいに遊びに来てくれないって駄々捏ねるのよ」 「そう言えばトォニイ、うちのジョミーにすごく懐いてくれていたものね」 ジョミーの後をいつも一生懸命追いかけていた姿を思い出し、その微笑ましさに笑う。笑い事じゃないのよ、これがとカリナが困ったようにマリアを見る。 「今日もね、ジョミーに会いたい!ジョミーと遊ぶ!って言って聞かなくて・・・ジョミーは幼稚園に行かないといけないからトォニィとは遊べないのって言ったら、この通り。マリア姉さん、私、どうしたらいいのかしら・・・」 ぐずぐずとジョミーの胸に顔を押し付けているトォニィの姿に、そうねぇと考え込む。トォニィがジョミーを慕ってくれるのは、親として嬉しい。でもだからと言って、どうしてやるのが一番いいのか・・・。二人して考え込む。その時、トォニィが顔を上げた。 「ぼくもようちえんにいく!」 「トォニィ?」 「・・・あらあら」 「ジョミーといっしょにいく!」 涙に潤みながらも、きりりとカリナを見つめる橙色の瞳に、カリナが瞳を彷徨わせる。 「あ、あのね、そうは言ってもまだトォニィはちっちゃくて、幼稚園には通えないのよ」 「やだ!いっしょにいく!」 「トォニィ・・・」 きっぱりと決意を胸に言い切るトォニィに、カリナが途方に暮れたようにマリアを見た。誰に似たのか、言い出したら聞かない子だ。うちのジョミーもだから、きっと私達姉妹の家系がそうなんだろう。その時、ジョミーがトォニィを覗き込んだ。小さな手が優しくトォニィの背中を抱きしめる。 「トォニィ、ようちえんにいきたいの?」 「うん!ジョミーといっしょがいいんだもん!」 久方ぶりのジョミーの鮮やかな緑の瞳に、どきどきしながらトォニィは精一杯主張した。ジョミーが大好きだから、一緒にいたいから。だから。 少し考え込んで、ジョミーはマリアを振り返った。 「おかあさん、ぼく、トォニィといっしょにいく」 「え?でも、トォニィは・・・」 「だいじょうぶ。ブルーもゆるしてくれるよ、きっと」 ね?とにっこり笑って、トォニィの自分よりも小さな手をそっと握る。ぱああっと顔を輝かせたトォニィが、嬉しそうにジョミーを見上げた。カリナが、どうしましょうとマリアを見る。マリアもしばし悩んだようだが、心を決めて顔を上げた。 「いいわ、私から先生に話します。でもね、トォニィ」 名を呼ばれ、振り仰いだ甥に、マリアは腰を屈めて指を立てた。合わせた視線の先で、トパーズのような橙色の瞳がきょとんとマリアを見ていた。 「今日一日だけですからね。約束、できる?できるなら先生にお話して、トォニィが今日一日ジョミーと一緒に幼稚園に行けるよう叔母さん、頑張るわ」 ぱちぱちと数回瞬きしてから、トォニィは勢いよく頭を振った。それにいい子ね、と頷いてマリアがカリナを振り返る。 「と、言うことでいいかしら?カリナ」 「ええ、ええ、マリア姉さん。ありがとう」 二人の会話に、ジョミーはトォニィに笑った。つないだ自分よりも体温の高い小さな手。柔らかなその手を握る手にそっと力を込める。 「よかったね、トォニィ」 いっしょにいけるって。 頬を紅潮させ嬉しそうに頷いたトォニィも、ジョミーの手を握り返した。 大好きなジョミーの傍にいられることが、何よりも嬉しかったから。 END トォニィ登場。トォニィはジョミーのことがそれはもう大好きなのですよ。そして少しだけお話が続きます。 →ブラウザのバックボタンでお戻りください。 |