ダイスキ、ダイスキ。 [2] 雲一つない澄み切った青空だった。 頬に触れる穏やかな風は、降り注ぐ陽の光をはらみ優しくあたたかなもので、今日もいい天気だとブルーは眩しそうに真っ青な空を見上げた。 バスの排気音が聞こえる。幼稚園の送迎バスが戻ってきたようだ。園児達を出迎えに行こうと歩き出した時、園長のハーレイに呼び止められた。少しくすんだ鈍色を放つ金髪に、褐色の肌を持つ強面の男だが、自他共に認める子供好きだったりする。 「ブルー、少しお話があるのですが・・・」 「・・・ハーレイ。敬語はやめてくれといつも言っているだろう?」 苦笑したブルーに、いえ、と生真面目そうな顔でハーレイが言葉を返した。 「理事長であるあなたに敬語を使うことは当然です」 相変わらず硬い男だなとこっそり思う。これも毎度のことだけど。気を取りなおし、それで話って何だい?と聞こうとして、門から入ってくる園児達に意識がそれる。 「実は・・・」 「すまない、ハーレイ。子供たちが来たようだから話はまた後でいいかな」 返事を待たずに歩き出す。早くしないとあの子が来てしまうから。いつもいつだって笑顔で迎えてあげたいあの子が。脳裏に浮かんだ愛らしい笑顔に、自然頬が緩む。 「おはよう、せんせぇ!」 「はい、おはよう」 「せんせい、みてみて!きょうはまっかなおりぼんなんだよ!」 「うん。かわいい、かわいい。よく似合ってるよ」 きゃわきゃわと園内に入ってくる園児達に笑顔で返しながら、バスへと急ぐ。ちょうどバスから降りるふわふわの金髪が見えた。間に合ったと思ったら、向こうも同時に気づいたらしい。 「ブルー!」 「おはよう、ジョミー」 名を呼び、嬉しそうに小さな身体が駆け寄り抱きついた。体当たり的なそれをしっかり受け止め、抱き上げる。ふっくらとした柔らかな頬がほんのり紅く染まってとても愛らしい。自分を一生懸命慕う腕の中の確かな温もりが愛おしくて、優しい気持ちになる。 「ブルーもおはよう」 こつんと額を合わせてくすくすと笑い合う二人の姿も毎朝のことで、他の先生も園児達も慣れたもので今さら気にしない。しかし今朝は違った。 「ジョミー!」 子供特有の甲高い声。不意に聞こえたそれに、ようやくバスの降り口近くにいる灼熱色の鮮やかな髪をした見慣れない幼子に気がついた。ジョミーよりも一回りぐらい小さなその男の子が、むむ・・・っとした表情でこちらを見ている。おや?と思ったブルーの視線に気づいたのか、ジョミーが、あ!と小さく声を上げた。 ブルーを見て、小さな男の子を見て、またブルーを見る。 そしてふわりと嬉しそうに笑った。 「トォニィだよ。ぼくのいとこなんだ」 かわいいでしょう?と言われ、そうだねと頷きながら、感じる痛いほどの視線と、この場に入園年齢に達していないであろう子供がいることに、はて?と思う。眉間に皺まで寄っている様子に、何だかご機嫌斜めのようだなと思うが、理由など分かるはずもなく首を傾げた時、後ろからハーレイが追いついた。 「まったく、人の話は最後までお聞きください、ブルー」 「ハーレイ?」 「やぁ、君がトォニィ君だね。初めまして。私がここの園長のハーレイだ」 無骨な顔が柔らかに笑う。それでもトォニィの口はへの字に引き結ばれたままだ。とりあえず事情を知っていそうなハーレイを見る。 「どういうことなんだい?」 「実は・・・」 「あのね、あのね!トォニィもようちえんにいきたいって。いっしょがいいって。だからおかあさんがたのんでくれたの」 聞かれたハーレイが答えるよりも先に、腕の中のジョミーが話す。嬉しそうに笑うジョミーの言葉からだいたいの事情はなんとなく理解できたが、そういうことはもっと早くに言ってくれと見た先で、ハーレイの顔が渋面になる。 「話途中で去られたのはあなたですが、ブルー」 そう言えばそうだったと苦笑した。どうかしたの?と腕の中でジョミーが不思議そうに見上げる。それに何でもないよと笑い、トォニィへと歩み寄る。 「おはよう、トォニィ。初めまして。僕はブルー。ようこそ、シャングリラ幼稚園へ」 にこりと微笑み差し出した手を、しかしトォニィが取ることはなかった。ぐずりと、顔を歪めると大粒の涙がぽろぽろ零れ落ちる。 「ト、トォニィ?どうしたの?どこかいたいの?」 突然のことに吃驚し、慌てたジョミーが腕の中から身を乗り出した。 END ブルー・・・実は、シャングリラ幼稚園の理事長だったりします。お祖父さんが創設者なんですよ。で、三代目。ハーレイはお祖父さんに拾われた子でして、ブルーよりちょい年上ですが、色々あって一緒に育ってます。だからブルーさんはため口・・・という設定がありはしますが話の中で出てくるかどうかは不明(え?) →ブラウザのバックボタンでお戻りください。 |