ダイスキ、ダイスキ。


[3]







ジョミーはぼくのおにいちゃんなのに。

ぼくはだいすきなのに。いちばんなのに。

ジョミーは・・・ジョミーはちがうの・・・?







ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ち、地面を濡らす。
悲しくて悲しくてどうしようもない。
バスから降りたジョミーはまっすぐに駆けて行ってしまった。

自分を置いて。

繋いでいた手すらあっさりと離して。

お月様みたいな銀色の髪に、ウサギさんみたいに真っ赤なお目目の綺麗な人が、ジョミーを抱き上げてにっこりと笑ったら、ジョミーも自分が今まで見たこともないような笑顔で笑った。

甘くて柔らかな、二人の笑顔。

さっきまでジョミーが握ってくれていた手をきゅっと握り締める。でもそこにあるのは自分の体温だけ。ジョミーのあったかな手の名残すらなくて。

置いていかないで。

戻ってきて。

だけど、名前を呼んでもジョミーは振り返っただけで戻ってきてはくれなかった。

一緒にいたくて、一緒にきたはずなのに。

なんで?どうして?

悲しくて悔しくて。

だから、ジョミーを独り占めにしているその綺麗な人が差し出した手を取ることなんてできなかった。ぽろぽろと溢れ出した涙は止まることを知らず、いやいやと首を振って拒絶したトォニィに、ブルーはどうしようかと思案する。その時、腕の中のジョミーが下りてトォニィの手を握った。

「トォニィ、ないてちゃどこがいたいのかわからないよ?」

ねぇ、だいじょうぶ?いたいのいたいのとんでけ!

ぎゅうっと手を握り、一生懸命にトォニィの顔を覗き込む。きかん気だけどかわいいイトコは大好きなのに、こんな風に泣かれると自分まで悲しくなってしまう。

泣かないで。

泣かないで。

それでも泣き止まないトォニィに、とうとうジョミーの顔がくしゃりと歪んだ。

「なかないで、トォ・・・ニィ・・・、トォニィ・・・」

頼りなく揺れた声に、ジョミーまで泣き出したのが分かった。大好きな緑の瞳からぽろぽろ涙が零れ落ちて、握られた手の上に落ちていく。

「ジョ、ミー・・・」

ジョミーを悲しませたかった訳じゃないのに。

どうしよう・・・ぼくはただジョミーと一緒が良かっただけなのに。

泣き止まなくちゃ。ジョミーは笑っている方がずっといい。

だけど一度溢れ出した涙はちょっとやそっとじゃ止まらない。自分でもどうしようもなくて、今度はそれが悔しくて、しゃくりあげながらぽろぽろ泣いていたら、不意に大きな腕にジョミーごと一緒にぎゅっと抱きしめられた。

「・・・?」

「大丈夫だよ。大丈夫」

まだ濡れた瞳のまま瞬いたトォニィの耳元で優しい声が囁く。それはまるで降り注ぐお日さまの光のようにあたたかで、じんわりと心に沁み込んでいくような声。

「ジョミーもトォニィも大丈夫」

「ブ、ルー・・・」

ジョミーが小さくその人の名を呼んだ。そして繋いだままのトォニィの手をぎゅっと握って、抱きしめられた腕の中、トォニィを見る。間近に迫った緑の瞳から、最後の涙が一滴ころりと転げ落ちたけれど、トォニィ・・・とジョミーが笑った。

大好きな、ジョミーの笑顔。

嬉しくて、気づいたら自分の涙も止まっていて、トォニィも小さく笑った。

「ジョミー、わらった」

「トォニィも、わらった」

それが嬉しくて、だけどどこか照れくさくて、二人でえへへと笑ったら、抱きしめてるブルーもくすくすと笑い出した。さっきまでの悲しさも悔しさもどこかへ消えてしまった。それが何だったのかすらよく分かってはいないけれど。今、胸にあるのはくすぐったいような嬉しさだけ。

「さぁ、中へ入ろうか。皆も君たちを待っているよ」

そう言って立ち上がり、笑顔で差し出された手を、今度はしっかりと握り締めた。ジョミーが、じゃぁ、ぼくも!とトォニィの手をきゅっと握り直す。

「みんなでいっしょだよ!」

「いっしょ!」

「一緒だね」

繋がった手と手の温もりと、二人の間で見上げた空はどこまでも澄んで蒼かった。






右手にお日さま。

左手にはお月さま。



さぁ、世界は君のもの!










END




あれ・・・抱っこしてない(汗)トォニィをブルーに抱っこさせるつもりだったのに、あれ?・・・おや?いやぁ、トォニィだけ抱っこするとジョミーが「ぼくも!ぼくも!」とか逆にすねたりするかなと思ったらこんな感じになりました。とりあえずジョミーとトォニィの二人ぎゅっとで許してください。でも書いていて思ったんですが、ジョミーはお兄ちゃんしてますね。トォニィの前だと。それが書いていて楽しかったです。ひとまずトォニィ編はこれにて終了。


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