セイナル、ホシニ。 「少し、寒いかな・・・」 ほうっと吐いた息が白い。見上げた空はどんよりと厚い雲が垂れ込め、昼だというのに薄暗い。今朝の天気予報では、夕方頃から雪が降るかもしれないと言っていたから、ひょっとしたら明日はホワイトクリスマスになるのかもしれないと思いながら、ブルーは台車に乗せた樅の木を見た。まだ何も飾られていないそれは、普段幼稚園の北側にひっそりと置かれいる。一年に一度幼稚園のクリスマス会の時にこうして運ばれてクリスマスツリーとしての役目を果たすのだ。 「ブルー?どうかされました?」 「重いなら私が台車を・・・」 「ああ、大丈夫。フィシスやハーレイが台車に乗せるのを手伝ってくれたからね。台車で運ぶぐらい簡単だよ」 立ち止まったブルーの様子を怪訝に思ったのか首を傾げたフィシスと、運びましょうと申し出たハーレイに、これぐらいは僕にさせてくれと微笑み、再び台車を押す。振動で揺れる樅の木の緑が灰色の空の下やけに鮮やかに感じられた。 樅の木を、遊戯や集会を開く園内でも大きめな部屋に運び込み、別の部屋で待っていた子供たちを招き入れる。 「わあ!」 「おっきい!」 大人の背丈ほどもある樅の木に駆け寄り、上げる子供たちの歓声に自然と頬が緩む。飾りをしまっていた箱を置き、今か今かと待っている子供たちを見た。 「さぁ、それじゃぁ、みんなで飾りつけようか」 「「はーい!」」 思い思いの飾りを手に取った子供達が嬉しそうに樅の木の周囲に集る。手の届く下枝辺りに飾る子供もいれば、目立つようにより高くへと、一生懸命背伸びをしている子供もいた。そんな光景を微笑ましい思いで見ていたら、ブルー、と名前を呼ばれた。 「どうしたんだい、ジョミー?」 「あのね、このおほしさまはどこにかざるの?」 小さな手から差し出された、金色の光を放つ一際大きな星型の飾りは、ぶらさげる紐がない代わりに何かに差し込むような筒状のものが星の下に付いている。 「ああ、これはね。ツリーの一番上に飾るんだよ」 「いちばんうえ?」 「そう」 ブルーの指差した先を見て、ジョミーの顔が嬉しそうに輝く。 「かざる!ぼくかざりたい!!」 いそいそと樅の木に近寄り、懸命に背伸びをするが、大人の背丈ほどもある樅の木。当然届くはずもない。 「ジョミー、ジョミー、少し待って」 届かない・・・と顔を曇らせたジョミーを腕に抱き上げる。こうすればジョミーにだって一番上に手が届くから。 「わぁ、ブルー!ありがとう!!」 ふくふくの頬を紅潮させ、嬉しそうに手に持った星を一番上の樅の木の枝に差し込む。てっぺんに星を戴いた樅の木は、それだけでぐっとクリスマスツリーらしくなった。 どこか誇らしげにその星を見つめるジョミーに、ブルーも笑いながら一緒に見つめる。 「ジョミー、このお星さまはね、ベツレヘムの星と言って、その昔イエス・キリストが生まれる時にそれを東方博士に知らせた星を表しているんだよ」 「べつれ・・・?とう・・・ほう?」 「まだジョミーには難しいかな?」 よく分からないと首を傾げたジョミーに、微笑んでそのふわふわの金髪を撫ぜる。 「簡単に言うと、特別な星ってことだよ」 「とく、べつ・・・?・・・とくべつな・・・おほしさま・・・」 繰り返すように呟き黙り込んだジョミーに、どうしたのだろうとその鮮やかな緑の瞳を覗きこんだら、一生懸命何か考え事をしているようだ。 「ジョミー?」 「ねぇ、ブルー・・・」 「何だい?」 「とくべつなおほしさまなら、ぼくのおねがいごとかなえてくれるかなぁ・・・」 ベツレヘムの星は願いを叶える星ではないけれど、それがどうしたと言うのだ。幼い心に抱いた想いを潰したくなくて優しくブルーは尋ねた。 「ジョミーのお願い事ってどんなことかな?」 「あのね、あのね?ブルーといつまでもいっしょにいられますようにって!」 真剣な眼差しで両手を合わせて祈るジョミーに、祈るならこうした方がいいよと、そっと両手を組ませる。小さな指をぎゅっと組み合わせて一生懸命祈る姿は、さながら肖像画の中の天使のようでとても愛らしい。ましてや願い事が願い事だから、ジョミーの幼い、だけどとても真剣で温かな想いにほんのりブルーの心も温かくなる。 「じゃぁ、僕も一緒にお願い事しようかな」 「・・・ブルーはなにをおねがいごとするの?」 「ふふ、僕もね、ジョミーといつまでも一緒にいられますようにって」 こつんと額を合わせて緑の瞳を覗き込んで微笑んだら、ジョミーがふわりと幸せそうに笑った。 「それじゃあ、きっとおほしさまもかなえてくれるね!」 だってふたりぶんのおねがいごとだもん! そうだねと瞳を合わせてくすくす笑い合ったら、子供達の歓声が聞こえた。見れば、窓辺に子供達が集って空を見上げている。つられるように見上げた空から降る、白い影。 「ゆきー!」 「ゆきだよぉ!」 わぁ、と手を上げて喜ぶ子供達の後ろで、フィシスが微笑んでいた。 「少し、予報より早かったですね。この分だと明日はきっと真白になりますわ」 「今年はホワイトクリスマスか・・・」 「ふふ、恋人達には最高のクリスマスですわね。ねぇ、ジョミーもそう思いますよね?」 「うん!」 意味を理解していないにも関わらず、恋人という言葉ににこりとジョミーが頷く。何を言うんだフィシス・・・と横目で見たら、あらあらとフィシスが笑った。 「ブルー?なんだかお顔が赤いですわよ?」 「フィシス!」 くすくすと軽やかな笑い声を上げて、フィシスが子供達の傍へと行く。それを見ながらジョミーが心配そうにブルーを振り仰いだ。小さな手がブルーの頬に添えられる。 「ブルー?だいじょうぶ?ねつでもあるの?」 「大丈夫。熱じゃないんだ、ジョミー」 まったくフィシスときたら人をからかってばかりなのだからと思いながらも、安心させるように微笑みそっとジョミーの小さな手に口付けた。吃驚したように瞳を見開き、次いで真っ赤に頬を染めたジョミーに笑って、窓辺で雪を見ている子供達に声をかける。 「さぁ、クリスマス会を始めようか」 聖なる日。 広げた両手には君への想いを。 乗せきれない分は、また来年に。 だからいつまでもいつまでも一緒にいよう。 それが、ぼくらの願い事。 END 「strontium」の藍晶石さまの素敵イラストに触発されて書いたクリスマス話です。今回も砂吐くほど甘々な感じを目指してみました。つたないお話ですが、藍晶石さまの両手にぽんっと。 →ブラウザのバックボタンでお戻りください。 |