サンデー、サンデー。






「あ、ブルー!」

少し高い幼い子の呼び声に振り返れば、嬉しそうに駆け寄るジョミーの姿が目に入った。
ああ、そんなに慌てたら危ない、と思ったら案の定何かに躓いたのが見えた。だけどひやりとしたのも一瞬で、持ち前の運動神経の良さのおかげかなんとか転ばずに踏み止まったことにほっと安堵の吐息をもらす。
何事もなかったから良かったようなものの、転んでケガなどしたら大変だからと言わなくてはと思いつつ、腕に飛び込んだ小さな身体に咽喉元まで出かかった言葉が消える。
甘いかな・・・と思いつつも、ゆっくりとそのふわふわの金髪を撫ぜて微笑んだ。

「こんにちは、ジョミー」

「こんにちは、ブルー!なんで?なんでブルーがいるの?」

今日は日曜日。
幼稚園はもちろん休園で、ブルーも平日なかなか行くことのできない買い物でもしようかとデパートに来ていた所だった。

だから、ここでジョミーに会うのは本当に偶然で。
まさか会えるとは思ってもいなかった。

それはジョミーにとっても同じだったようで、いつもに輪をかけて嬉しそうに聞いてくる。
そんな緑の瞳に、お買い物に来たんだよと言えば、ぼくもだよ!とにっこり笑った。
休みだからと白いシャツに青いジーンズ姿のブルーに対して、幼稚園で着用する水色のスモッグ姿ではないジョミーはどこかいつもと違うように見えるけれど、その笑顔は変わらずブルーの心をほんわりとさせてくれる。
でも小さな子供一人でこんなに大きなデパートに来ることはないから、誰かと一緒なのかい?と聞こうとした時、遠くから声が聞こえた。

「・・・ミー、ジョミー?どこに行ったの?」

「あ、おかあさんだ」

ジョミーの言葉に、今しがたジョミーが来た方角を見れば、肩の辺りで切り揃えられた黒髪の優しげな女性が心配そうにデパートの中を見渡していた。それにジョミーが手を振る。

「おかあさん!ここだよ!ここ!」

「まぁ、ジョミー。急に走り出して行ってしまうからお母さん心配してしまったわ」

ほっと安堵の笑みを浮かべ歩み寄った女性が、ブルーに気づいてあら?と首を傾げた。

「あの、あなたは・・・」

「こんにちは。シャングリラ幼稚園のブルーです」

軽く頭を下げたブルーに、女性が嬉しそうにぱんっと手を叩く。

「まぁ、まぁ、ではあなたがいつもジョミーの話しているブルー先生ね。なんて綺麗な銀の髪に真紅の瞳なんでしょう!ジョミーの言う通りね・・・って、やだ、ごめんなさい。私ったら初対面の方なのに・・・。」

「いえ、大丈夫ですよ。お気になさらずに」

「ごめんなさいね、もう毎日お話を聞かされているものだから知らない人じゃないみたいな気がしてしまって・・・ジョミーの母のマリア・シンです」

恥ずかしそうに頬を染めたマリアに、そんなに自分のことを家で話しているのかとくすぐったいような嬉しいような想いでジョミーを見れば、暴露されたことが恥ずかしかったのか照れ照れとブルーの腕の中に顔を隠してしまった。
少しだけ覗いている耳まで赤い。微笑ましい想いに、優しく髪を撫ぜるといっそう顔を押し付けてくる。そんなジョミーに、マリアがこの子ったらと微笑んだ。そんな様子からもいかに愛情を込めてジョミーが育てられているのかが分かって知らず頬が緩む。

「今日はお二人で買い物ですか?」

「ええ、主人は仕事なものですから・・・本当だったら三人で遊園地に行く予定だったんです。でも急に仕事が入ってしまって」

・・・ごめんね、ジョミー、と相変わらずブルーに引っ付いているジョミーを覗き込んだマリアに、ジョミーの口がへの字になる。もしかしたら行けなかった悔しさを思い出したのかもしれない。しかし、への字になりながらもぽつりと零れ落ちた言葉は別のものだった。

「・・・しかたないもん。おしごとなんだから」

「ジョミー・・・」

小さいながらも父親が自分達のために頑張っているということを理解しているのだろう。
ワガママ言わずぎゅっと唇を噛んで堪える姿に抱き締めてあげたい衝動にかられる。
えらいね、と抱き締める腕に力を込めたブルーに、ジョミーの顔がぱぁっと明るくなった。嬉しそうに負けじとむぎゅうっと抱きついてくる様子に、マリアが本当にもう・・・と笑う。そこで何かを思いついたようにブルーを見た。

「ブルー先生、あの、もしご迷惑でなければ今から一緒にお茶でも如何ですか?」

ちょうど一休みでもしようかとジョミーと話していた所だったんです。

突然の申し出に瞳を瞬かせたブルーに、慌ててマリアが続けた。

「あの、ご迷惑でなければ・・・なので」

「え?あ、ああ、そんな。ありがとうございます。でも、僕なんかがご一緒させてもらってもいいんですか?」

せっかくの母子水入らずなのに・・・と続けようとした言葉は、嬉しそうなジョミーの声に遮られる。

「本当に?ブルーもいっしょなの!?」

きらきらと草原のように鮮やかな緑の瞳を輝かせ、ふくふくな頬を真っ赤にして見上げるジョミーに勝てる相手がいたらお目にかかりたいものだ。マリアも、この子もそうしたいって言ってますし・・・とブルーを見る。答えなど・・・一つしかないではないか。

「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」

「わぁい!」

やったぁ!と喜ぶジョミーが、ブルーの手を引っ張る。

「ジョミー?」

「こっち。こっちにね、とってもおいしいパフェがあるんだよ!」

マリアを見れば、いつも寄るお店なんです、と微笑んだ。少しの時間も惜しいのか、ジョミーがくいくいと手を引っ張る。

「はやくいこう、ねぇ、ブルー」

「ジョミー、そんなに急いだら転んでしまうよ」

苦笑しつつも、手を引かれやってきた店は、デパートの奥まった一角にある小さな喫茶店だった。中は観葉植物やアンティークな時計、置物が飾られ、どこかレトロな雰囲気を醸し出している。こんな店があるなんて知らなかったな・・・と見渡したブルーを、ジョミーが不思議そうに見上げた。

「どうしたの、ブルー?」

「ん?ああ、良いお店だなって」

「きにいった?それにここのパフェはすごいんだ!」

にこにこ笑うジョミーのお目当ては先ほどから口にしているパフェらしい。微笑ましい想いで、案内された席に着く。奥の席にジョミーが、その隣にブルーが座り、ジョミーの前にマリアが座った。本当だったらジョミーの隣に座るのは母親であるマリアだが、ジョミーたってのお願いである。
すぐにオーダーを取りにきたウェイトレスに、ジョミーはチョコレートパフェを、ブルーとマリアはコーヒーを頼んだ。ウェイトレスがオーダーを伝えに店の奥へと戻って行った後、横を見れば嬉しそうにジョミーも見上げてくる。そんな二人にマリアが微笑んだ。

「ジョミーは本当にブルー先生が好きなのね」

「だいすき!だってうんめいのひとだもの!」

誇らしげに胸を張ったジョミーの様子に、マリアが、まぁ、そうなの?とくすくす笑った。きっと微笑ましい子供の言葉だと思ったのだろう。そうこうするうちにオーダーの品が運ばれてきた。

ブルーとマリアの前にはコーヒーのカップが。

そしてジョミーの前には、ガラスの器に生クリームやアイスとともにバナナやサクランボが飾られ、たっぷりのチョコレートがかけられたチョコレートパフェが置かれた。

大人の目から見ても・・・けっこうな量である。

その量に目を丸くしたブルーに、ジョミーが笑う。

「ね、すごいでしょう?」

これぜんぶたべれるんだよ、ぼく!

いただきます!と銀色の細長いスプーンを手に早速ぱくりと始める。小さな身体で、テーブルの上に鎮座する山盛りのチョコレートパフェを攻略する姿は、とても一生懸命でかわいらしくて思わず笑みが零れてしまう。一口また一口と食べて行く中、ふと、あることに気が付いた。

「ああ、ジョミー、ほっぺにクリームがついているよ」

そっと指で頬についた生クリームを拭ってそのままぺろりと指を舐めたブルーに、ジョミーがぱちくりと瞳を瞬かせ、次いで耳まで真っ赤に染まる。やかんで言うならピーっという音が聞こえそうな勢いだ。かわいいなぁとくすくす微笑んだブルーに、ジョミーが意を決したようにパフェをすくったスプーンを差し出した。

「はい、ブルーにもあげる」

どきどきという音が聞こえそうなぐらい頬を赤くし差し出す姿は、本当に愛らしいの一言だ。

「ありがとう」

微笑んでぱくりと食べたら口の中に甘い味が広がった。
それは、ほんわりと甘くてどこか優しい味。

「本当だ。ジョミーの言っていた通りおいしいね」

「うん!」

にっこり笑ったブルーに、ジョミーの顔がそれは嬉しそうに輝いた。

それから、幼稚園でのジョミーの話をマリアにしたり、ジョミーの話を聞いたりと喫茶店での楽しいお茶の後、二人と別れたブルーは当初の目的を果たすためにデパート内を移動する途中、ふと先ほど口に広がったチョコレートパフェの味を思い出した。



ほんわり甘くて、優しい味。

そう・・・それは、きっと。

きっと君がくれたものだから。











END




久々に書きたくなった保父さんシリーズですが、いやいや、書いていて自分が一番恥ずかしかったです、はい。そして突っ込みどころ満載・・・ですが、気にしないでください。

そして、88888hit+90000hitありがとうございます!ということで、こちらはお持ち帰りOKとさせて頂きます。つたない話ではありますが、日頃の感謝・・プラス愛と甘さだけはしっかりと詰め込んでおりますので、よろしければどうぞお持ち帰りくださいませvv
(お持ち帰り期間は・・・TOPページにその表記がなくなれば終了ということでお願いします)



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