コドモノ、ヒ。




やねよーりーたーかーい、こいのーぼーりー
おおきーなーまごいーはー・・・



オルガンの音色とともに、子供達の嬉しそうな歌声が園内に響く。
そう、今日はもうすぐ来る子供の日のため、倉庫にしまってあった鯉のぼりをたてる日なのだ。朝からそわそわとしていた園児達を見て、フィシスが、では準備をしている間にお歌の練習をしましょうかと、今子供達は唱歌を練習している。その間に、ブルー達大人は棹を立て、鯉のぼりを出すなど準備をしていた。

見上げた空は快晴。
輝く太陽の光を受けて、きらきらと木々の緑が揺れる。
澄み渡った空にきっとこの鯉のぼり達は映えるだろう。

そんなことを思いながら、子供達のあどけない歌声にブルーの心も浮き立つようだった。自然、準備をする手にも力が入る。ようやく少し固めの地面に穴を開け、万が一にも倒れたりしないようにと棹をしっかり固定することができたので、じゃぁ、鯉のぼりを順番に・・・と思ったブルーの手が止まった。

「・・・?」

視線の先。
箱に入れられた大きなお父さん鯉が不自然に膨らんでいる。
否、膨らんでいるだけなら風でも吹き込んだのか・・・とか推測ができるのだが、それはもこもこと不自然に動いていて。不審なことこの上ない。

「どうしたんですか、ブルー?」

一緒に準備をしていたリオが振り返り、怪訝そうに動きの止まったブルーを見た。そして同じように動きが止まる。

そんな、永遠のようで一瞬の沈黙の後、それは突然に破られた。

「ジョ、ジョミー・・・?」

勢いよく鯉のぼりのぽっかりと開いた口から顔を出したジョミーに、思わず目が点になる。驚いた大人二人になど構うことなくにこにこブルーを見つめる幼子の顔はどこか誇らしげで。いや、だからどうしてそんなにも誇らしげなんだい?と心の中で突っ込んだブルーにジョミーが鯉のぼりを身体に纏わせ両腕を上げる。

「ブルー」

促されるまま箱から鯉のぼりごとジョミーを抱き上げた。嬉しそうな声を上げて首にしがみ付いたジョミーの身体から青い鯉のぼりが垂れ下がる。少しだけ人魚みたいだなと思うが、ジョミーの鮮やかな緑の瞳を覗き込んで首を傾げた。

「ジョミーは皆とお歌を歌わないのかい?」

「だってブルーのそばにいたいんだもん」

予想通りの答えと言えば答え。だけどそれだけではこの状況の説明にはならないので、重ねて問いをする。

「でも、じゃぁ何故鯉のぼりの中になんかいたのかな?」

「んとね・・・きもちよかった・・・から?」

「気持ちいい?」

何がだろう?と小首を傾げたブルーに、まだ肩まで掛かったままの鯉のぼりを見せてジョミーが笑う。

「すべすべしててふよふよしてるから」

ああ、そうかと納得した。確かに鯉のぼりの生地は麻布や木綿と違ってさらさらしている。それが気持ち良かったのかと合点がいった。

「そっか・・・でもね、ジョミー、鯉のぼりも今から空を泳ぎたいって」

だから返してくれないかな?と覗き込んだブルーの微笑みに、ジョミーは少しだけ考えて、いいよ、ブルーがいうならと頷いた。小さな身体を高い高いするように持ち上げたブルーに、リオが下から鯉のぼりを抜き取る。するりと抜けた鯉のぼりを名残惜しそうに見つつも、ブルーの胸に頬をすり寄せてジョミーが嬉しそうに笑った。

「やっぱりブルーがいい」

「?何がだい?」

「こいのぼりもきもちいいけれど、ブルーのほうがもっときもちいいの」

えへへ、と頬をすり寄せる幼い子のふわふわの金の髪がくすぐったくて、ブルーも瞳が和らぐ。そう、それは光栄だねと微笑んで、リオに頼んでもいいかなと振り返る。それに笑って頷き、リオは順番に鯉のぼりを紐に通し始めた。

青い空に、青、赤、黄色の鯉達が泳ぐ。

「わぁ、すごい!すごい!」

伸び上がって見上げたジョミーの身体が腕から落ちそうで慌ててしっかりと抱き締める。そうこうする間に、リオがフィシスや子供達を呼びに行き、可愛らしい歓声とともに子供達が教室から駆け出してきた。風に泳ぐ鯉のぼりを、皆で並んで見上げる。

「こいのぼり、うれしそう」

「あれがおとうさんで、こっちがおかあさん。それで・・・」

なんて口々に言っていたけれど、誰が最初か、覚えたての歌を口ずさむ。気が付けば、子供達の愛らしい声が園内に響いていた。


遠く、空へと届くようにと。










END




せっかくだから子供の日な感じのお話を。ジョミーのしたことは実は実話だったりします。私の。や、本当にすべすべでけっこう楽しいんですよー。さすがにもうできませんが(笑)


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