天に咲く花、地に眠る花


[3]







夢に見たのは、蒼い光。

深く、なのにどこまでも透き通るような。

透明感に満ちた美しい、蒼。






「・・・なんでキースがいるんだよ?」

「俺に聞くな」



ジョミーは憮然とした表情で、隣に立つ男を見上げた。見下ろす薄水色の瞳と真っ向から向かい合う。ぴくりとも動かない相手の表情に、深いため息が零れ落ちた。
ここは、天上の楽園から地上へと下りるゲート前。つい先だって、正天使へと昇格したジョミーにとって、今日は晴れがましい初仕事のはず・・・なのだが。どこでどうなったのか、今隣にさも当然のように立つキースの存在が気に食わない。

「一人で大丈夫だって言ってるのに」

「そう言われてもな。天使長様のご命令だから仕方がないだろう」

諦めろ、とばさりと大きく動いた翼に、唇を噛む。そりゃあ、確かに自分の小さな翼では、地上のように荒れた大気の中を飛ぶことは難しいかもしれない。だが、だからと言って、まるでお守りのようにキースをつけられては、これはこれで悔しい。

穢れなき善き魂を導きなさい。

それがあなたに与える役目です。

長く何も与えられることなくきた自分の初めての役目。キースがいなければダメだと言うのなら、それはそれで我慢しよう。そうだ。これぐらいのことで落ち込んでいたら、今までと何も変わらない。僕は正天使になれたのだから。与えられた役目を全うするんだ。
一人頷き、決意を新たにしたジョミーに、ゲートの中央からキースが振り返った。

「どうした?行かないのか?」

「・・・行くに決まってるだろう?って言うか、何仕切ってるんだ、キース!」

合いも変わらずマイペースな奴だ。そもそもこれは僕の役目のはずなのに。盛大なため息を一つ吐いて、駆け出した。

ゲートの中央に立つと、頭上に七色に輝く美しい球体が浮かんでいる。その不思議な光は、遥かな高みから降り注ぐ金色の光と相まってとても荘厳な雰囲気を醸し出していた。

「初めて入ったけど中はこうなっているんだ・・・」

正天使以外の立ち入りを禁止されたゲートへの物珍しさから思わずきょろきょろとしていたら、同じく中央に並び立つキースがくすりと笑った。

「なんだよ?何がおかしいって?」

「いや、別に」

そう言いながらも口の端が上がっているのが、横からでも分かる。ちょっと自分より先にゲートのことを知っているからって何だよ!と眉間に皺を寄せたジョミーの頭にぽんっと手が乗せられた。え?と振り仰いだ先で、キースが微笑む。笑う・・・とかではない純粋な微笑み。珍しいものを見たものだと驚きで口をぽかんと開けたジョミーに、キースが瞳を細めた。

「そう緊張するな。俺もいるんだから安心しろ」

「なっ、・・・だ、誰が緊張なんて!」

がうっと噛み付くように返しながら、自分自身かなりがちがちに緊張していたことに初めて気がついた。それはそうだろう。初めての仕事だ。それもずっとずっと待ち望んでいた、正天使としての仕事。昨日だって本当のことを言えばなかなか眠れずにいたのだ。もちろんそんなこと死んだって口にしたりはしないけれど。
緊張からか、知らず冷たくなっていた手を握り締める。そして、キースの言葉一つで心に余裕が生まれていたことに気がついた。不意になんだかおかしくなる。がちがちだった自分にも。不器用なキースの優しさにも。入りすぎていた肩の力がすっと抜けて行くようだった。

顔を上げ、すっと前を見つめる。

意識の変化に応えるように、降り注ぐ光が全身を覆い始めた。

「・・・キース、ありがとう」

「何のことだか分からんな」

互いに小さく笑った二人を包む光がいっそう強くなる。
眩いほどの光に思わず瞳を閉じた時、身体の存在感が希薄になる気がした。

光に灼かれるように、真白になる意識の中。
最後に浮かんだのは・・・蒼い光だった。










END




キスジョミではありませんので、念のため。ジョミブルですから。ジョミブル!
・・・うう、まだ青爺が出てこない・・・(泣)


→ブラウザのバックボタンでお戻りください。