銀の雨、金の雨 [1] 初めまして、僕はブルー。 君は・・・? お月様のような銀の髪に、うさぎさんのような紅い瞳の年上の男の子。 初めて会った時、なんて綺麗なんだろうと思った。 だから名前を聞かれた時は嬉しかったし、今日からジョミーのお兄さんになるのよ、と母親に告げられた時はすごくすごく嬉しかった。 大好きで、大切な人。 だから・・・。 不意に、頬に触れる温かな感触に意識が急速に浮上する。 懐かしい夢の余韻か、まだぼんやりと彷徨う翠玉の瞳が、傍らで微笑む紅玉の瞳にぱちぱちと瞬いた。それに構わず、頬に添えられた手がそっとジョミーの柔らかな頬を撫ぜる。 「ジョミー、こんな場所で寝ていると風邪を引いてしまうよ」 「あ・・・うん・・・ごめんなさい」 壁の時計は午後十時近くを指している。どうやら待っている間に眠ってしまったようだ。 沈み込んでいたソファから身体を起こすと、ようやく頭がはっきりしてきた。傍らに膝をつき、今は座り直したジョミーを見上げるようにして見ている兄に笑う。 「おかえりなさい、兄さん」 「ただいま、ジョミー」 ジョミーの言葉に微笑みながらも、でも・・・と兄が悲しそうに眉を寄せた。 「名前で・・・呼んではくれないのかい?」 「あ・・・えと、うん。おかえりさない、ブルー」 「ただいま」 少しはにかむような笑みとともに言い直せば、ブルーも嬉しそうに微笑んだ。 「遅かったね。仕事忙しいの?」 あ、夕食の用意すぐするから! 「ジョミー」 立ち上がろうとしたジョミーをやんわりと止め、ブルーが立ち上がる。 「いいよ、僕がする。ジョミーはそこに座っておいで」 「え?でもブルーは仕事で疲れてるのに。それに、もうできてて温めるだけなんだ」 その言葉にキッチンへ行きかけたブルーが振り返った。 「まさかとは思うけど・・・ジョミーもまだ食べていないのかい?」 あ、うん・・・まぁ・・・と誤魔化すように笑ったジョミーにブルーが再び眉を寄せる。でも今度は怒っている時の寄り具合だ。そうすると、途端に綺麗な顔が凄みを増す。ジョミーの前につかつかと戻り、ぐっとジョミーの顔を覗き込んだ。間近に迫った紅い宝石から視線が外せない。 「仕事で遅くなる時は、待たなくていいといつも言っているだろう?」 「だって・・・一緒が良かったんだもの」 一人じゃおいしくないよ。 唇を尖らせたジョミーに、ブルーは一瞬虚を付かれたように瞳を見開き、次いで小さく嘆息した。 「・・・夜遅い食事は感心しないよ。特にジョミーは成長期なのだから・・・」 「分かってる。今度からはそうするよ。それでいいでしょう?」 だから、今日は一緒に食べよう。 そうにっこり笑って見上げれば、室内灯の少し抑え目の灯りでさえきらきらと輝く銀の髪から覗く真紅の瞳が困った子だ・・・と苦笑した。だけど分からないようにしているけれど、ジョミーの言葉を嬉しく思ってくれているのが分かっているから、ジョミーはこっそり今度も待っていようと思う。一人より二人。一緒の方がずっとずっとおいしいから。何度怒られたって、これだけは譲れない。 「じゃぁ、僕温めてくるね!ブルーは座っていて」 立ち上がり、キッチンへ向かう。用意してあったシチューの鍋を火にかけ、対面式のキッチンから食堂の方を見れば、ブルーがちょうど椅子に座ろうとしていたところだった。視線に気づき、ブルーが笑う。 「そうやっていると、昔は全然料理ができなかったなんて分からないね」 「もう!一体いつの話をしてるのさ。僕だってもう高ニだよ?料理の一つや二つお手のものなんだから!」 そうは言うけど、いつだったかのカレーは大変だったね・・・とくすくす笑うブルーにシチューをかき混ぜながら、忘れてよそれは!とそっぽを向いた。 「あんな色のカレーは初めて見たよ」 「まだ言うか」 そんな前の話を持ち出すなと睨めば、でも・・・とブルーがふわりと微笑んだ。 「ジョミーが作ってくれるものなら、僕には何だっておいしいよ」 「・・・あ、兄バカ・・・」 恥ずかしい言葉を平然と、あ、いや、花も恥らうほどの笑顔で言われたら、こちらとしては恥ずかしくて仕方がない。耳まで真っ赤に染まったジョミーはぐるぐると必要以上に鍋をかき混ぜる。鍋の中でシチューが渦を巻いてるけれど、そんなこと気にしていられないほど恥ずかしくてたまらない。 「・・・ジョミー・・・?もうそろそろいいんじゃないかな・・・?」 「え!?・・・あ?ああっ!?」 さすがにシチューからもうもうと蒸気が立ち昇り始めたのにブルーが気づき、そっと注意を促す。それに慌てて火を止めれば、もう少しで焦げ付く寸前だった。危ない、危ないと内心冷や汗をかきながら器にシチューを盛る。 「はい、お待たせ」 「ありがとう」 少し温め過ぎたような気がしないでもないシチューをテーブルに二つ並べ、向かい合わせにジョミーも座る。それを待っていたブルーといただきます!と手を合わせシチューをすくう。熱いけれど、味に支障をきたすものではなく、良かった焦げなくてとほっとしたジョミーに、ブルーが微笑んだ。 「ジョミーの言う通りだね」 「・・・え?何が?」 「おいしいのもそうだけれど、二人だと心まで温かくなれるような気がするよ」 「ブルー・・・」 でも遅い時は待たなくていいからねと続けたブルーに、分からず屋!と内心文句を言いながらも込み上げる嬉しさにくすくすと笑う。見ればブルーも笑っている。ほんわり温かな空気が満ちるようなそんな気がした。 こんな時間が好きだから。 一人より二人。 ねぇ、一緒にいたいよ。いたいんだ、ずっと・・・。 END ブルジョミ兄弟ものです。個人的萌えを突っ込む予定です。 →ブラウザのバックボタンでお戻りください。 |