銀の雨、金の雨


[3]







大好きと言葉にすることが難しくなったのはいつからだろう?

言いたい、でも言えない。

相反する気持ちに心は揺れるばかり。

どうして・・・なんて自分でもよく分からないけれど。



その理由が分かってしまうことが怖かった。






「・・・ミー、ジョミー、起きなさい。今日は試験じゃないのかい」

「・・・え・・・?」

耳元で囁かれた低い落ち着いた声に、ぱちりと目を開ける。一瞬、何のことか分からず瞳を瞬かせたジョミーだったが、枕元で苦笑するブルーに慌てて飛び起きた。

「わ、わわ!今・・・今何時!?」

「八時過ぎだよ。何度か声を掛けたのだけれど、なかなか降りてこないから・・・」

今日は日曜日。本来なら休みのはずなのだが、学校で年に数回ある全国統一模試を受けなければいけないのだ。しかし、自分はどうやら寝坊したらしい。試験開始はいつもより遅めの九時だけれど、そんなに時間がない・・・。どたばたと制服に着替え、顔を申し訳程度に洗いつつ寝癖が治らないと鏡の前で顔を顰めたジョミーに食堂からブルーが呼んだ。

「ご飯できてるよ。顔洗ったらおいで」

「いらない!時間ないし!」

洗面所から返事を返し、もう一度鏡を見た。朝の光を受けてきらきらと輝く無造作な金髪。少しだけ眠たそうな瞼にため息が出る。もう、なんてひどい寝癖なんだろう!あちこちにはねた髪が恨めしい。とてもじゃないがこれを直していたらご飯を食べる時間なんてありはしない。
わたわたと髪を濡らし、ドライヤーで乾かし始めたジョミーの背後に、鏡を見たらブルーが立っていた。心なしか厳しい顔。え・・・?と思うジョミーに、ブルーがダメだよと静かな口調で言った。

「ご飯はちゃんと食べて行きなさい。朝ご飯は一日の活力なんだから」

「ブ、ブルーだって食べない時あるじゃないか!」

本当に時間がないんだってば!!

唇を尖らせたジョミーに、ブルーが苦笑する。

「僕のことはいいんだ。ジョミーは成長期だろう。それにお腹が空いた状態では解ける問題も解けないよ?」

ほら、仕度なら僕も手伝うからと言われれば従う他ない。ちょっと強引だけれど、それも自分を心配してのことだから文句も言えやしない。
ブルーが用意してくれた朝食を大急ぎで食べて、洗面所に向かう。ごしごしと歯磨きをしている間、ブルーがドライヤーではねた髪を直してくれた。ごうごうと音を立てるドライヤーと、ブルーの優しい手がちょっと美容室みたいだと思う。

「はい、完了!かわいくなったよ」

「ありがとう、ブルー!でもかわいくなったは男の褒め言葉じゃないよ!」

お礼を言いつつ抗議をすれば、ごめんごめんとくすくす笑われた。帰りは学校まで迎えに行くから、その後久しぶりに外で食事でもしようとブルーが鞄を手渡す。それに笑顔で頷き駆け出した。とにかく全力疾走だ。中学時代、サッカーで鍛えた足を舐めるなよ!






試験には、なんとか開始ぎりぎりではあったが間に合った。もちろん、滑り込みセーフというやつだったので、後で先生に厳重注意を受けたけれど。それでもやれたという手応えはあったので、正直ほっと息を吐いた。
失礼しましたと職員室を後にし、西日が射し込む渡り廊下を歩いて下駄箱へと向かう。サムが先生のお小言終わるの待っていようかと言ってくれたけれど、この後ブルーとご飯を食べに行くからと先に帰ってもらった。ふと、渡り廊下の窓から校門を見れば、そこに見慣れた銀髪が少しだけ紅に染まりつつある西日を受けて煌めいていた。
ブルーだと綻んだジョミーだったが、そう言えば、何故自分が寝坊なんてする羽目になったのか、唐突に思い出す。

原因は決まっている。進路希望調査だ。

昨夜も色々考えていたらなかなか寝付けず、結局眠りに落ちたのは随分と遅くなってからだった。正直どうするのがいいのかなんて分からない。分からないが、答えを出さなければいけない時はもうすぐそこに迫っているのだ。

「いい機会だから・・・話・・・してみようかな」

反対されるかもしれない。一人で生活するなんてとんでもないと。
それとも賛成してくれるだろうか。

「・・・そんなこと、有り得ないよなぁ・・・」

重く零れ落ちたため息に苦笑する。
それでも、このままブルーの傍にはいられない。
だって自分は・・・。

自分・・・は・・・?

閃きかけた想いに、思わず頭を振る。気づいてはいけない、と頭のどこかで警鐘が鳴っているようで。無理やり浮かびそうになった何かを押し込めるように閉じ込めた。



「ブルー」

「ああ、ジョミー。お疲れさま。試験はどうだった?」

「うん。まあまあかな。手応えはあったと思うよ」

ジョミーの答えに、そうかと嬉しそうに顔を綻ばせたブルーが、止めてあった車のドアを開ける。さあ、どうぞと少し気取ったように会釈する姿に笑って乗り込んだ。いまだその胸は重いままだったけれど。










END




模試の結果が学校の試験より良いことが多かったので、昔先生に言われました。
「お前、学校の試験さぼってるだろ?」
・・・ええ、まぁ試験勉強なんて一夜漬けよりひどい朝漬けでしたからね(笑)
でも一度だけ一週間前から試験勉強したら、最初の方に覚えた内容は試験の時すっかり忘れていましたよ。・・・それってどうなんだろう?(笑)


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