闇の果てに揺れる光


[1]







その夜は、月明かりの綺麗な夜だった。
石畳の道を走る馬車の中、窓から見えたまあるい月にほっと息を吐く。
連日の会議で王宮に詰めることの多い中、今日は久々に屋敷に帰れると思わず綻んだ顔が、突然迸った馬の嘶きと大きく揺れて止まった馬車の衝撃に歪む。何が起こったんだと衝撃で椅子に横倒しになった身体を起こした時。

「王党派のウェラード卿の馬車ですね」

不意に馬車の外から聞こえた聞き覚えのない声に、ぞくりと背筋が凍った。
カタリと開かれた馬車にするりと滑り込んだ黒い影が囁くように告げる。

「恨みはありませんが、あなたには新しい世界のために死んでもらいます」

躊躇うことなく振り上げられた一振りの剣に、何かを思うより先に手が腰の剣へと伸ばされた。しかし、遅い。自分へと振り下ろされる剣が、まるでスローモーションのようだった。

ダメだ。こんな、こんな所で私は・・・!!

鈍い音が辺りに響く。

衝撃の後、胸を襲う焼け付くような痛みに崩れ落ちる中、見開いた瞳に月光を受けて煌めく金の髪が、映った。その間から覗く草原のように鮮やかな翡翠の瞳に、対照的な空の蒼を抱く瞳が脳裏を過ぎる。

わ・・・わ、たしは・・・死ね・・・な・・・。



―――兄さん、僕は早く大人になりたいです。

―――何故だい?

―――兄さんの・・・手伝いをしたいと言ったら笑いますか?

―――いいや、笑わないよ。笑ったりするものか。ありがとう。楽しみに待っているよ。

―――はい!兄さん!



深い闇に落ちて行く意識の中、大切なあの子の笑顔だけが全てだった。



事切れた身体の傍らで、血に濡れた剣を静かに収める。
飛び散った血飛沫が辺りを濡らして行くのを何の感慨もなくただ眺めた。
人を切ることに何も思わなくなったのはいつからだろう。
顔に飛んだ血飛沫を手の甲で拭った時、名を呼ばれ馬車から飛び降りる。すぐ傍の路地裏に男が立っていた。顔を隠すように深く帽子を被っているが、それが誰かは知っていたので歩み寄る。

「首尾よくやれたようだな。さすがだ、ソルジャー・シン」

「僕は使命を遂行しただけだ」

「ふふ、まぁ、いい。党首が呼んでいる。俺はそれを伝えに来ただけさ」

軽く肩を竦めた男に導かれ歩き出した背後で、静かに月だけが光っていた。










END




痛くて切ない話が書きたいと思って、こっそりマイブーム中の例のあれを元にしてみました。ほぼ出だしは一緒のはず・・・だと思いますが、さすがにそのまま使うのはあれなので、さらにパラレルを加えて行く予定です。基本は筋通りにする予定ですが、ひょっとしたら話の内容は変わるかもしれません、気の向くままに。でも痛い系の話なので、苦手な方はご注意くださいね。

それにしても・・・シン様は難しいよ。私には(涙)


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