つらなりぼし


[1]





誰よりも近くで。
誰よりも傍にいた。

誰よりも解りあって。
誰よりも大切だった。



それは息をするように当たり前のことで。

ずっと・・・そう、ずっと続くことだと思っていた。



それなのにいつからだろう、それがとても苦しくなったのは・・・。






風があたたかい。

降り注ぐ朝の陽射しは眩しいほどに煌めいて、木々の緑をいっそう鮮やかに輝かせる。木漏れ日に誘われるように立ち止まったジョミーの肩を、六月の風がすり抜けていった。
見上げた空は雲一つない快晴。今日から衣替えで夏服に切り替わった制服も、心なしか訪れる夏を予感させるようで、思わず綻んだ唇が、しかし次の瞬間ぎゅっと引き結ばれる。

「・・・ミー、ジョミー!待ってくれないか、ジョミー!」

ささやかな時間を打ち消すように掛けられた後ろからの呼び声に、小さくため息を吐いて振り返った。正直に言えば、聞こえない振りをしてしまいたい。してしまいたいのだが、それをしてしまえば、また延々とそのことについて抗議が始まるだろうことなど分かり切っていることだから、渋々道の向こうから名を呼ぶ人物が辿り着くのを待った。
程なくして、ジョミーの前に同じ制服を身に纏った少年が駆けて来た。繊細な輝きを放つ美しい銀の髪に、鮮やかな真紅の瞳。それらで形作られた秀麗な美貌を今は少しだけ悲しそうに歪ませて、声の主が肩で息を吐いた。

「僕を置いて行くなんてひどいじゃないか、ジョミー」

「・・・別にブルーを置いて行った訳じゃない・・・」

サッカーの朝練があるから・・・ともごもご口にした言い訳でしかない言葉に、ブルーがその優美な眉を顰めてジョミーの腕を取った。え?と思う間もなく駆け出したブルーに引き摺られるようにジョミーも強制的に走らされる。

「な、ちょ、ブルー!?」

「朝練があるんだろう?遅れたら大変だ!」

「や、だからって、これは!」

お手繋いでじゃないんだから!と、恥ずかしさのあまり焦って張り上げた声などどこ吹く風で、ブルーが走りながら笑う。

「今更恥ずかしがることでもないだろう?」

僕達は兄弟なんだから。

いや、高校二年生にもなってこれはちょっと、いや、かなり恥ずかしいんですけど!って言ってもムダなのは分かってるんだけどね、分かっては。相変わらず強引な双子の兄の行動に、ジョミーは今日何度目かのため息を吐いたのだった。

「あ!会長、おはようございますー!」

「おはようございますー!」

「おはよう、みんな」

「ふふ、今日もジョミー先輩と仲良くご登校ですか?本当に仲良いんですねー!」

「そうかい?ありがとう」

校門に近づくにつれ、次々に掛けられる声と、それに笑顔で答えるブルーに自然と顔がしかめっ面になるのが自分でも分かった。ジョミーの腕を取り、視線の先を行くブルーの背中を見つめる。自分とそう変わらない体格だったはずなのに、いつの間にかブルーの方が身長が高くなっていて、ああ、それに気が付いたのはいつだったろう?とぼんやり思った。

ブルーはジョミーの双子の兄だ。

二卵性だからそう似ているという訳ではない。ブルーが銀の髪に真紅の瞳の持ち主であるのに対し、ジョミーは金の髪に、翡翠の瞳。身に纏う色彩からしてここまで異なる双子も珍しいだろう。だから、初めて二人に会う人は、最初誰もが驚いた顔をする。

しかも、成績優秀で、品行方正なブルーと、成績は悪い訳ではないけれど、学校一の問題児であるジョミーでは、双子どころか兄弟かすら疑わしいと見えるらしい。

本当に双子なの?と何度聞かれたことか。あまりに頻繁に聞かれるので、幼い頃、自分は本当は橋の下で拾われた子で、ブルーとは何の関係もないのかもしれないと真剣に悩んだことさえある。もっともそれは本当にただの杞憂だったのだけれど。一度、ブルーが死にそうなほどの大怪我を負い輸血が必要だった時、検査でブルーとジョミーの血縁関係ははっきりしたし、そもそもブルーとの間にある不思議な感覚は、他人では説明できない。よく世間一般で言う双子の間に通うシンパシーみたいなものだ。例としてあげるなら、離れていてもジョミーがケガをすれば、ブルーも同じように痛みを感じるし、その逆もまた然り、という、まぁ、そういったことだ。

だから、正真正銘ブルーはジョミーの双子の兄だ。

誰が何と言おうとも。

「おーい、ジョミー!そろそろ朝練始まるぞーって、会長!おはようございます!」

「おはよう、サム。朝練には間に合ったようだね」

にっこり微笑んだブルーに、同じサッカー部に所属するサムがぺこりと頭を下げる。

「ほら、ジョミー。着替えないといけないんだろう?」

早く行った方がいいよ、と促され、分かってるよ、そんなことと心の中で反論したジョミーは、離された腕を鞄を持つ手でぎゅっと握り締めた。
頑張れ!と後ろでひらひら手を振るブルーを置いて、部室に向かって歩き出したジョミーの隣に、サムが並ぶ。鼻の辺りに浮かぶそばかすをかきながら、サムが感嘆のため息を吐いた。

「会長、相変わらず格好良いなぁ。あの顔で、成績優秀、品行方正なんて、本当、天は二物も三物も与えたって感じ?」

しかも二年で生徒会長に選ばれるなんてさ!ファンクラブまであるって言うから本当すごいよ・・・と隣で話すサムの言葉に、ジョミーの眉間にどんどん皺が寄って行く。

「なぁ、ジョミー?オレの話聞いてるか?」

「うるさい!」

「な、ジョミー?」

何怒ってるんだよー!?と呆れたように眉を下げたサムに構わず部室の扉を開ける。何に怒ってるかだって?そんなこと自分にだって分からないのに。この胸に渦巻くもやもやとした鬱屈した感情の意味なんて。



・・・答えられる訳がない。










END




ブルジョミ双子兄弟ものです。例にもれず、これでもかと個人的萌えを突っ込む予定です。だからブルーは生徒会長なんですよv一度書いてみたかったので(笑)そんなこんなお話ですが、お付き合い頂ければ幸いです。


→ブラウザのバックボタンでお戻りください。