母代わりの青年を亡くし、 尊敬し、愛する父を亡くし、 そして、信頼する友まで亡くしたその背中を。 守ってやりたいと・・・思っていた。 側にいたから 三年前のことは今でもよく覚えている。 あの戦火の中、別れ別れになった自分達。 探しに行こうと思っていた。 この怪我が治ったら。 彼をかばい、受けた矢傷。 見た目以上に酷かったその傷が癒えたその時に。 探しに行こうと…思っていた。 だが。 自分は彼を探しに行くことができなかった。 季節が巡る中。 彼を想う気持ちに気がついてしまったから。 十も歳の離れた少年に、気がつけば囚われていた己に気付いてしまった時、自分は探すことをやめたのだ。 だってそうだろう? この想いは彼を救うためのものじゃない。 自分勝手な、想いで彼を傷つけることなんてできなかった。 それなのに。 あのバナーの村で自分達は再会してしまった。 変わらない笑顔で名前を読んだ彼の姿が三年前と少しも変わらないことに覚えたのは安堵だったのか、それとも恐れだったのか。 答えは、今も見つからない。 新しいリーダー、ハヤテがトランの英雄を仲間に迎えたいと言い、なんとか説得に成功してから後。 彼が、ジークが城を訪れる度、焼け付くような焦燥を覚えた。 視界の片隅に映る、赤い衣。 緑と紫のバンダナ。 軽やかな身のこなしに、目を奪われる自分に気付いてしまった時。 想いは、消すことなどできはしないと思い知った。 それでもそんな想いを伝えることなどできなくて。 あの日。 デュナン統一戦争と後に呼ばれる戦争が、同盟軍の勝利という形で終わった日の夜。 戦勝に沸き立つ城内の、自分に与えられた一室に訪れたジークに戸惑うことしかできなかった。 「終わったね…」 「ああ、そうだな」 「これからどうするの?フリックは」 「これから…か。オレは傭兵だからな…またどこか戦争のありそうな所にでも行くよ」 「そう…」 気まずい沈黙が二人の間に横たわる。 互いに合わせようとしない視線に、意を決して顔を上げた先、じっと見つめる琥珀色の瞳があった。 強い、輝きを持つその瞳に吸い込まれそうな気持ちになる。 慌てて視線を逸らし、組んだ腕を見つめる。 「そ、そう言えば、まだ言ってなかったよな?三年間音信不通ですまなかった」 「ああ、そのこと。いいよ、気にしないで」 僕も…音信不通だったからね やんわりと答える声が、耳朶を打つ。 「きっとフリックは生きていると信じていたし。フリックが謝ることなんて何もないよ」 「そうか…いや、でも最後まで側にいてやれなかったからな。副リーダーとしては失格だ」 「そんなことない!」 自嘲気味に呟いた言葉を、強い口調で否定される。 驚くフリックの耳に、小さな呟きが聞こえた。 「僕にはフリックがいたから…」 「…え?」 「フリックがいたから、あの時耐えられたんだ」 思いもかけない言葉に振り仰げば、そこには見たこともない綺麗な笑顔で微笑むジークの姿があった。 すべてを通り越した、透明な笑顔。 「ジーク…」 「フリック、ありがとう。あなたが側にいてくれたおかげで僕は救われた。だから、もういいんだ」 何が…とは言えなかった。 言えるはずがなかった。 同じ時を歩めない自分達。 いずれ自分はジークを置いてこの世界から消える。 その後の気が遠くなるような時間を。 一人、生きていかなければならない、彼を。 抱きしめる資格が自分にあるのだろうか。 伸ばしかけた掌をぎゅっと握る。 その手を上からそっと包み込むようにジークが両手を添えた。 「僕はもう行くけれど、元気で、フリック」 「ジーク」 「またどこかで会える時があればいいね」 「ジーク!」 「最後にフリックに会えて良かった。ずっと伝えたかった言葉を言えて良かった」 ありがとう… それが、最後の言葉だった。 ジークの手が離れた瞬間、顔を上げたオレの目の前には。 風に揺れるカーテンだけがあった。 「…っかやろう…」 窓の外。 静かに輝く月明かりだけを残して。 ジークは、姿を消した。 END フリ坊です。しかも初フリ坊。 それにしてもなんだかやけに情けないフリックだなぁ、と書きながら思いました。 坊ちゃんの方が大人だ(どりー夢) しかし幸せな話にならないですね、これ。 らぶらぶギャグっぽいのが書きたいのに・・・。 次回は、ギャグはムリでもせめてらぶらぶにはしてあげたいです。 すべては坊ちゃんの幸せのために!! →ブラウザのバックボタンでお戻りください。 |