忘れられない、願いが在る。 君に出会えることを、ただ信じて。 隠れ里のようなあの村を出てから、いったいどれほどの時が過ぎたのだろう。 最初の十年間はやけにはっきり覚えている。 でも、その後は面倒になって数えるのをやめてしまった。 だって自分は年を取らないのだ。 右手に宿る紋章のせいで、時の流れは遥か彼方の夢幻のようで。 数えるだけ切なかった。 風ではためく薄汚れたマントの前身ごろを合わせ、テッドは俯いた。 荒野に吹き荒ぶ風は強く、砂埃にむせる。 思わず滲んだ涙を皮の手袋で擦った。 空腹に眩暈を覚える。 ずっと・・・人里を避けるように、緑深い森の奥や荒れ果てた大地を踏みしめて生きてきた。 時折、人恋しくて街に下りたりもしたけれど。 この宿命を。この呪われた紋章を。 忘れた頃に、決まって・・・起こる悲劇。 もうあんな想いは繰り返したくない。 何度、そう誓っただろうか。 本当は疲れていた。 何もかもどうでもよくて、何もかもを忘れたかった。 だけど、心の奥底に残るたった一つの光。 名前も・・・知らない。 顔も・・・もう思い出せない。 ただ覚えているのは、最後に抱きしめられた腕の強さと、温かさ。 ”時の向こうで待っているから・・・” そう、告げたあの人の声だけ。 「ムリに決まってる」 あれからもう数百年は経っている。 待っている・・・なんて、どこで?誰が? うまく動かない足が、もつれた。 倒れた荒野の、枯れた草を握り締め、自嘲気味な笑いが浮かぶ。 「ムリに決まっているのに・・・」 それでも自分がこうして、呪われた生にしがみついているのは。 あの約束があるから。 あの人に出会えることだけを、願って、今もこうして生きている。 それは、託された紋章を持ち逃げる生活の中でのたった一つの希望の光。 あるはずがないと呟く自分と、あって欲しいと願う自分。 そのどちらの気持ちも本当で。 だから自分は、ここにいるのだろう。 立ち上がり、埃を落とす。 見上げた視線の先、青い空の眩しさに目を閉じた。 いつでもいい。 いつかでもいい。 ただ、出会えることを信じて。 END テッド坊・・・のつもり。というか、テッド→坊? さすらい中のテッドはきっと色々考えていたんだろうなぁ・・・なんて言ってみますが、実は、坊ちゃんだけが希望の光という部分が書きたかっただけです。 はい、すみません(脱兎) →ブラウザのバックボタンでお戻りください。 |