側にあればあるほど想いが募った・・・










片恋










西の空に、陽が沈む。

茜色に染まる雲の向こう、金色の輝きが帯を引く中。
遥か街並みを見下ろすことのできる、城の物見台の上で、カミューはぼんやりとその沈む夕陽を眺めていた。
故郷であるグラスランドの、地平線に沈む血のような赤い太陽ではなく、心の奥まで染み込むような、そんな・・・あたたかな、赤い、太陽。

不意に、傍らに誰かが立つ気配がした。
振り返らなくても分かる、彼の気配。

あたたかく・・・優しい・・・まるで太陽のような・・・。

ああ、だから自分はこのロックアックスで見る夕陽をあたたかく感じたのだろうか。
ふっと思い浮かんだ答えに我知らず笑みが零れた。

「なんだ?カミュー」
いきなり気持ち悪いぞ

案外失礼な物言いも、心許せる友だからこそ。
親友という立場にある自分の抱く、獣じみた想いなど彼は知らない。
知らせる気など・・・ない。

いつか・・・いつか彼は、可愛らしく、それでいて芯の通った女性を妻とし、幸せな家庭を築くだろう。きっと頼りがいのある、優しく大きな夫として、父として。そしてこのマチルダ騎士団を背負う人間となるだろう。
そんな彼の幸せを、壊す権利など自分にはありはしない。

彼には幸せになって欲しいのだ。
例えそれが、自分との幸せでなくとも。
辛い想いに耐えなくてはならなくとも。

自分が、願うのは・・・彼の幸せだけ。

祈るように、願うのは。

「聞いているのか、カミュー?」

返事のないことに焦れたのか、もう一度呼ばれた。

「聞こえてるよ。気持ち悪いとは失礼だなぁ」
「真実を言ったまでだ」
「あはは、もっとひどいじゃない・・・か」

笑って振り返った先。
想像していた通りの、優しい笑顔に胸が詰まる。

「どうした?」

黙り込んだ自分を見つめる瞳に心配そうな色が滲む。

「いや、なんでもない。なんでもないんだ、マイクロトフ」

自分に言い聞かせるように呟き、夕陽に視線を向ける。
ほんの少しの間なのに、陽はもうそのほとんどが沈みかかっており、辺りにうっすらと闇が忍び寄り始めていた。

本当は・・・知っていた。

彼を・・・マイクロトフを誰にも渡したくなんかない。

気持ちは驚くほど素直で、時折、理性を凌駕してしまいそうになる。
特に、こんな笑顔を向けられたら、ダメなのだ。

彼の、幸せを願うなら、自分はこの想いを一生隠し続けなければならない。

「・・・そんなこと分かってるさ」
「何がだ?」
「いや、こっちの話」
「そうか」

誤魔化すように笑ってマイクロトフの肩に手を置いた。
釈然としないままも、それ以上突っ込んで話を聞いたりしない彼の態度に感謝しつつ、今度は心から笑って提案した。

「そう言えば、いい店を見つけたんだ。今日あたりどうだ?」
「いいな!もちろん、お前の奢りだろう?」
「バカを言うな。この間奢ったばかりじゃないか!」
「あれはお前が遅れてきた詫びに・・・と。その前と前はオレが奢ったぞ?」
「・・・まぁ、いいか。いいよ、私の奢りで」
ただし、肉類はお前持ちだからな?
「む・・・酒よりむしろそっちの方が・・・」
「肉に関しては際限ないだろう、お前は!私を破産させる気か?」
「むむむ・・・」

そこまで言って黙り込み、しばらく後堪えきれないとでも言うように二人同時に笑い出した。
星が輝き始めた空に、笑い声が響く。





友がいる。

それだけで、いいのだ。










END




赤青です。団長です。
と言いつつ、彼等はまだヒラ騎士だったりします。
じゃなきゃマイクロトフがお肉を食べたぐらいで破産する団長の給料ってどうよ?
ってな感じになってしまいますので(笑)
サイトでは初めての赤青ですが、如何なものでしょうか。
もっと格好良い団長達が書ければいいのですが・・・
それはまた精進あるのみ!ということで。


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