穏やかで。 優しい風が吹く、午後の昼下がり。 ゆっくりと過ぎる時間は何ものにも替えがたい至福の時。 昼下がり 「入るぞ、カミュー」 声とともに許可も待たず入室する者などここには一人しかいない。 机の上の書類を整理しながらカミューはにっこり微笑んだ。 「やあ、マイクロトフ。私に何か用かい?」 「うむ・・・いや、用というほどでもないのだが、この件についてお前の意見が少し聞きたくてな」 かつかつと小気味良い靴音を響かせながらカミューの座る執務机に歩み寄るマイクロトフが、ふと何かに気付いたようにその視線をひたりとカミューに据えた。 「おい」 「ん?どうした?」 「そこ。左の頬」 「頬がどうかした?」 訳が分からない、と首を傾げたカミューを、笑いをこらえるように見つめながらマイクロトフは指差した。 「跡がついているぞ?本の」 「あ・・・」 ははは、と照れ臭そうに、なぞれば分かるくっきりとついた跡を触りながらカミューはマイクロトフを見返した。 おかしそうに目元が笑っているマイクロトフに、笑うなよと言っても逆効果で。 普段はあまり笑うことのない口元まで緩んでいる様子に、気恥ずかしさが増す。 「別にいいだろう?誰だってこんな跡ぐらい・・・」 「まぁ、そうだな。だが、お前が昼寝をしていた良い証拠だ」 「う・・・」 弁解の余地もありません・・・とがっくりとうなだれたカミューの髪にマイクロトフの手が触れた。え・・・?と顔を上げれば目の前にはきりりとした端正な顔があって。 不覚にも、固まってしまった。 すっと通った鼻梁。 涼やかな目。 薄くのばされた唇に内心どぎまぎするカミューのことなど気にもしないで、マイクロトフが笑う。 「俺はそんなお前も嫌いではないがな」 おいおいおいおい・・・・いきなりそんな言葉を吐くんじゃない!反則だろう? 突然の言葉に取り繕う暇もなく真っ赤に染まったカミューに、にやりとマイクロトフがしてやったりという笑みを浮かべた。 「からかったな?」 「いつものお返しだ」 「マイクロトフ!」 「はは、そう怒るな。仕事の最中の居眠りは感心しないが、あの言葉に嘘はないぞ?」 信じる信じないはお前の勝手だが。 爽やかに言い切り屈託のない笑みを浮かべるマイクロトフに勝てる者が果たしてこの世界にいるだろうか。いや、いるはずがない。 くしゃりと髪を掻きあげ、カミューは小さく笑みを零した。 負けた・・・と思う反面、こんな負けは悔しくないと思う。 彼を好きな自分を、自分はかなり好きなんだなと改めて思い、なんだかおかしくて笑ってしまった。 椅子の背に深く沈みこみながらマイクロトフを見上げる。 「で、話があるんだろう?」 「ああ、ここなんだが・・・」 「ここは・・・そうだな・・・」 軽口の後の、だが真剣な表情へと切り替わった二人の間を。 窓から優しい風がそっと吹き抜けた。 END 寝ると私の布団のシーツはくっきりと頬に跡がつくのです。 そう言えば机で寝てもくっきりと恥ずかしい跡がつくよなぁ・・・などと思ったのがこの話を書く発端だったりしますが・・・それにしてもなんてへたれなカミューなんでしょうか!(笑) 青柳から「へたれだ・・・マイクロトフがやけに爽やかだ・・・」とお言葉を頂いてしまいましたが、えと、皆さん的には如何なものでしたでしょうか。 格好いいカミューも大好きですが、これぐらいへたれなカミューも大好きな八ツ橋でしたv →ブラウザのバックボタンでお戻りください。 |