夜に咲く向日葵のような
存在を知った
それは
哀しくも美しい心を持つ子ども
その笑顔は闇を照らす向日葵のように
哀しさと強さを併せ持つ
笑う無邪気な表情の下に
こんな哀しみがあることを
誰も知らない
一人すべてを抱え込む幼き子を
どうして愛さずにいられようか
向日葵
雲一つない青空
どこまでも澄み渡るその青さはまるで心を映す鏡のよう
気持ちの良い風が、野原のゴミ拾いという単純でそれでいて苦労する任務の疲れを優しく癒してくれる。
3人の頑張りで思いのほか早く終わった任務の後、カカシと第七班は野原近くの木陰で思い思いに休んでいた。
ナルトはサスケと対抗して木の上で昼寝。
サクラは歌を口ずさみながら花輪を作っていて。
そしてカカシは例のごとく愛読書を木にもたれながら読んでいた。
何気なくとも穏やかなj時間
ゆったりと時間が過ぎて行く
太陽が少し山の背に沈みかかり始めた頃
「さて、そろそろ帰りましょうか」
読んでいた話が一段落ついたらしいカカシが夕日を見ながら眠たげな眼を細めて言った。
その言葉に子ども達はカカシの前へと移動した。
「なんだか寒くなってきたってばよ・・・」
「そうね、少し肌寒いわね。もう夏も終わりかしら」
顔を見合わせる二人の頭を軽く叩きながらカカシは解散を告げた。
4人は野原を後にする。
サスケに家まで送ってもらおうとサクラは、逃げるように先に行ってしまったサスケを追いかけて行く。
少し名残惜しそうに野原を振り返るナルトの様子がなんとなく視界に入った。
「どうした?ナルト」
さりげなくナルトの隣に移動して聞いてみる。
どこか・・・寂しげな後ろ姿だったから・・・
自分を見上げたナルトはすぐに笑顔を浮かべた。
「なんでもないってばさ。じゃぁ、カカシ先生さよなら!」
軽い口調で、何かを振り払うかのように駆け出して行った。
「どうしたんだ?あいつは・・・」
ナルトの様子になんとなく違和感を感じつつも、カカシにはその理由はわからない。
「ま、いいか」
自分もすべてが分かるような大人ではないし?
もし何かあっても、ナルトだって父親のようなイルカ先生の方が相談しやすいだろうから
自分の出る幕ではないと・・・・思った。
そして振り返れば。
もう夕日は完全に姿を消していて。
薄暗い道には・・・誰もいなかった。
†††††
不意に声をかけられた。
「こんばんは、カカシ先生。こんな時間まで任務だったんですか」
気にしないで置こうと思ったナルトのことをいつのまにか考えながら、ぼんやりと歩いていた時のことだった。
「・・・・ああ、イルカ先生ですか。こんばんは。・・・・こんな時間・・・・ですか?」
少し驚きながら挨拶を返す。
「ええ、もう9時ですよ。そう言えば今日の任務報告に来ていませんでしたよね。ご苦労様です、こんな時間まで。あいつも頑張ってるんですね・・・・」
いつもの笑顔とともに労いの言葉を口にするイルカにさらに驚く。
9時?確か解散したのは6時ぐらいではなかったか
「あれれ、もうそんなになるんですか?・・・・しまったな。報告するのを忘れてましたよ」
頭をかきながら言えば、困惑したようなイルカの言葉。
「・・・・カカシ先生・・・・?」
思わぬ失態
上忍にあるまじき失敗
「いや〜考え事をしてたもので。そう言えばいつのまにかアカデミーの前ですね」
笑いながら弁解すれば。
「そうだったんですか・・・あれ?任務じゃないんでしたらナルトは・・・・?」
「は?」
「ああ、いえ今日ナルトと約束していたんですよ、家で一緒に夕食を食べるって」
7時を過ぎても来ないから、てっきり任務が長引いているんだと思っていたんですが・・・・・。
後半の言葉なんて耳に入らない。
思いもかけない言葉に衝撃を受けた。
帰っていない?
ナルトが?
解散したのは3時間ぐらい前で
イルカ先生との約束があるのに?
おかしい・・・
急に、別れる前のナルトの様子を思い出した。
「カカシ先生!?」
急に踵を返したカカシにイルカが驚く。
「すみません、ちょっと急用を・・・・」
別れの言葉もそこそこに。
カカシはあっという間にその場から消えた・・・。
†††††
ナルトは思ったとおり、あの野原にいた。
すでに辺りは真っ暗で、月明かりだけが照らす世界。
野原には咲き遅れた向日葵の花が、秋の気配が濃厚な暗闇に咲いている。
そんな静かで寂しく、綺麗な場所。
ナルトは昼の木にもたれるようにして座っていた。
横顔は・・・泣いているようにも見える。
「・・・ナルト?」
そっと声をかけると、驚いたように顔を上げた。
浮かぶ泣き笑いのような表情が胸を締め付ける。
「なんでいるの?」
紡ぐ言葉は小さくて聞き取るのがやっと。
「カカシ先生なんで?」
オレがここにいるのがわかったの・・・?
†††††
聞こえない
(聞きたくない)
見えない
(見たくない)
感じない
(感じたくない)
僕は生きてるの?
(僕は生きたくない)
だってダレもいない
ダレも側にいてくれない
サビシクテ死んでしまうよ?
お願い
ダレか側にいて
僕を抱きしめて
僕を・・・信じさせて?
†††††
「カカシ先生なんで?」
オレがここにいるのがわかったの・・・?
俯き呟く言葉の最後は聞こえない。
だけどその小さな小さな、少しだけ何かを期待するような声なき声に。
言葉にならない気持ちが溢れる。
「さあ、なんでかな。なんとなくここにナルトがいる気がしたから・・・」
しゃがんでナルトの顔を覗きこむ。
ふせる蒼い瞳は月の光に照らされて、信じられないほど綺麗だった。
「ナルトはどうしてここに?」
優しく問いかけると。
しばらくして・・・俯いたまま言葉を紡ぎ始めた。
「・・・時々思うんだ・・・オレの存在ってナンなのかなって・・・」
こんな穏やかな日常を過ごすと特に・・・。
「九尾の狐なんか関係ない、普通の人間じゃないかって」
思いそうになるんだ・・・。
堪えるように瞳が閉じられる。
「ナルト・・・」
「だけどいつだってオレは化け物で、里の嫌われ者なんだ」
どうしたって変わりはしない
オレは狐なんだって
思い知るんだ
閉じられた瞳から一筋の涙が頬を伝う。
声さえあげずに涙を流す子どもの姿は、すべてを通り越して。
ただただ綺麗だった。
こんなナルトは知らない。
いつも向日葵のように元気な笑顔を浮かべる子どもしか知らない。
これは誰?
本当のナルト?
誰も知らない、あのイルカですら知らないであろうナルトの一面。
切なくて。
愛しさがこみ上げる。
「オレはね、ナルト」
その小さな身体を優しく抱きしめながら囁く。
「これまで生きてきた中で、お前ほど人間らしい人間を見たことないよ?」
誰よりも綺麗な心を抱え苦しみながら生きている。
何度も思ったのであろうその想いが、そう想うナルトの心が痛かった。
「誰よりも人間だよ、お前は」
囁く言葉に瞳を開いたナルトがふわりと笑う。
透き通るような微笑。
思わず見とれた。
「・・・ありがとう、カカシ先生・・・」
先生は優しいってば・・・・。
カカシの腕の中ナルトが再び瞳を閉じる。
「ありがとう・・・」
再び繰り返す言葉に心が震える。
誰もいない野原で。
お互いの温もりだけが感じられるすべて。
この夜のことは二人だけの秘密。
誰も知らない二人の想いが交わった瞬間。
空に浮かぶ月と、月に照らされる一輪の向日葵だけがすべてを見ていた。
それは夏の終わりのある夜のこと。
END
あるサイトで見かけた向日葵の写真。
それを見た時ふいに頭に浮かんだのがこの話。
ナルトは闇の中に咲く向日葵って感じがしたのです、すごく。
ほんとうなら切な系の話になる予定だったのに、気がつけば甘々・・・いったい何故?(汗)
まぁ、大好きなイルカ先生を少しだけど出せたからよしとします。
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