先生に会えて

先生を愛して

先生に愛されて

オレは初めて幸せの意味を知ったんだってば

『幸せ』

『しあわせ』

『シアワセ』

なんて素適な言葉なんだろう!

オレの人生踏んだり蹴ったりだったけどさ

先生のおかげでオレはシアワセだったよ?

だから

だから

先生、哀しまないで?

先生、泣かないで?

どうかオレのことなんて忘れて?

笑って生きて欲しい

すべてはオレと共に消して行くから

先生、笑って?

それだけがオレの望み










そして・・・・










「どうしてなんですかッ!」



ここは里を統べる火影の執務室。
椅子に座り窓から外を眺める火影に、語気荒く詰め寄る一人の男。
声には隠し様もない怒りが溢れ、身体全体で威嚇するかのように両手を机に叩きつけた。
「騒ぐな、イルカ」
ゆっくりと煙管をくわえながら火影が振り返った。
その表情は、ここ数日の心労からひどく顔色が悪く暗い。
「しかしッ!・・・」
火影の様子を見、イルカは少し躊躇した。
「どうしようもないのじゃ」
しかし、苦しそうに吐き出された言葉に反論する。
「何故ですかッ!何故いまさらあいつをッ・・・」

ナルトを殺すなんてッ

最後の言葉は声にはならなかった。
机についた両の手のこぶしをギュッと硬く握り締めて、ともすれば暴走しそうな激情を必死に堪える。
その様子を辛そうに見ながら、火影は歯切れ悪く語りだした。
「・・・ナルトの身体が・・・限界なんじゃよ・・・」
はっと顔を上げるイルカ。
「まさか・・・」
「そう、何度も起こった封印解除によりナルト自身が九尾の力に耐え切れなくなったのじゃ。このままではいずれナルトの身体を内側から九尾が破壊し、この世に解き放たれるという事態にもなりかねん。・・・一時の猶予もならんのだ」
騙られる内容にイルカの顔から血の気が引く。


九尾の力は・・・身をもって知っている。

そしてそれが絶対に解き放たれてはならないことも。

だけど・・・。


「他に・・・他に方法はないんですかッ・・・」
なんであいつばかりが・・・。

イルカの想いは痛いほど解かっても。
「他に方法は・・・ないんじゃよ」
木の葉の里を統べる長として、下すべき決断は下さねばならない。
たとえ、それが孫のように可愛がった相手に対してだとしても。
そんな二人のやり取りを、部屋の隅から見ている者がいた。
机にある蝋燭の灯りのみのこの部屋は薄暗いが、さらに暗いその場所にいるのは、ナルトの担当上忍カカシ。
壁に身をもたれさせ、ずっと黙って見ていた。
その瞳には何の感情も浮かんではいない。
やがて火影に背を向けたイルカがカカシの存在に気づく。

「!、カカシ先生ッ!」

驚愕の表情から、怒りの表情へと変わるのに時間はかからなかった。
「あなたがッあなたがついていながらッ」
怒鳴るように叫び、カカシの襟元を掴みあげる。
「どうしてナルトを守ってやらなかったんだッ!あなたなら、あなたならナルトを守ってくれると思って任せたのに!ナルトの恋人のあなたならッ!」
掴み上げ揺さぶる。
そんな手荒なイルカの行為にも、カカシの眼は感情を映さない。
「何とか言ったらどうなんだッ・・・」
「もうよせ、イルカ」
見かねた火影が止めに入る。
「お前の気持ちも分かるが・・・察してやれ」
頼む。
苦しそうに、哀しそうに火影が言うから。

イルカは執務室を後にした。
やり切れない想いを抱えて。




×××××






「カカシ・・・すまぬな」

暗い執務室に残された二人。
火影がカカシに呟いた言葉に、カカシが初めて口を開いた。
「いいえ、当然の処置であると思います」
一片の感情も伺えない冷めた口調。
痛ましげに火影はカカシを見た。
「それでは私はこれで」
「うむ」
そう言うがいなや、瞬時にその場からカカシは姿を消した。

「すまぬな・・・二人とも」
薄暗い部屋の中、火影はもう一度呟いた。
その声は・・・やるせない悲しみと苦しみに満ちていた・・・。




×××××






カカシ先生大好きだってばよ

カカシ先生愛してるってばよ

そう言って笑うナルトの姿が頭をちらつく

愛しくて

愛しくて

愛しくてならないあの子は

もうすぐ死んでしまう

この世界からその存在が消え去ってしまう

その事実にココロは硬く冷たく凍りつく

ナルト・・・

心の中で何度も何度も呼びかける

答える声はないけれども




×××××






火影邸を後にしたカカシは、ナルトが隔離されている森深くの小屋へと急いだ。
森の中にひっそりと建つその小屋には、現在見張りはいない。
なぜならナルトが逃げ出すことはないからだ。
九尾の狐を解き放ち、大好きな人たちを死に追いやるなど、心優しいナルトにはできるはずもない。
そして、今回の事態が発覚したのはナルト自身の申告からでもあったのだから。
「ナルト?」
小屋の戸を開け、そっと中へ呼びかける。
すぐに返事があった。
「カカシ先生!どこに行ってたんだってばよ!」
小屋の隅にぽつんと置かれたベッドの中にナルトはいた。
ふとんから上半身を起こし、嬉しそうに言う。
「いやあ、三代目にちょっと呼ばれてね。オレがいなくて寂しかったの?」
苦しさを紛らわすようにちゃかすカカシに、
「寂しかったって・・・言ったら?」
後少しなんだから・・・少しでも長く側にいたいんだってばよ。
ふうわりと哀しい笑みを浮かべて呟く。
そんなナルトに心が締め付けられるような愛しさを感じて。
ぎゅっとナルトを抱きしめる。

「先生・・・」

先生の腕ってなんでこんなに安心できるのかな?

温ったかくて。

優しくて。

くすりと微笑みカカシの腕に頬を摺り寄せる。



―――ナゼコノコガシナネバナラナイ―――



押し殺したはずの感情が音をたてて軋む。
カカシの内心を察したのか、ナルトがそっとカカシの頬に右手を添える。

いいんだってば、先生

声なき声に、カカシは添えられた右手を上からそっと包んだ。
がらんとした小屋の中で二人ベッドの上に寄り添いあう。
ここに来てからナルトがベッドから出たことはない。
著しい体力低下のため一日のほとんどを眠って過ごす。
少しでも体力を温存しようと身体の生理的機能がそう働くのだ。
そして、カカシはその側にずっと付き添っていた。
火影に呼ばれ、決定した日時を伝えられるまで。




×××××






儀式は次の満月の夜に行われる。
そう、儀式なのである。
ただナルトを殺すだけでは九尾が解放されてしまう可能性が高いため、
里でも選りすぐられた上忍たちにより、儀式は執り行われるのだ。





次の満月まで―――後3日



それまでしか・・・時間はない。




×××××






「先生、みんなはどうしてるってばよ?」
急にオレがいなくなって心配してる?
カカシの腕に頬を寄せたままでナルトが呟いた。
「サクラは・・・すごく心配してたぞ」
「サクラちゃん・・・」
「サスケは・・・ふふ、オレのことを睨んでたっけ」
「睨む?なんで?」
思いがけない言葉に疑問が出る。
「お前のことは、二人には病気だと言ってあるからな。サスケはオレが側についていることが気にくわないんだろう」
「・・・???・・・」
いまいち事情が飲みこめないナルトの頭を優しく撫でながら話す。
「今だから話すけどな、サスケは・・・あいつはお前に気があったんだよ」
くすくす。
「!、サスケがッ?嘘だってばよ!」
あいつオレのこといっつもいっつもドベって・・・!
「ま、ひねくれた愛情表現ってやつだな」
「信じられないってばよ・・・」
信じられないとばかりにカカシを振り仰ぐ。
「う〜ん、ま、オレがいろいろ裏で妨害したからな〜?ナルトが知らないのも無理はないよ、うん」
にっこり笑って覗きこむ。
「?、カカシ先生?」
その笑顔に鼓動が早くなる。
「オレは・・・ナルトを誰にも渡す気はなかったってこ〜と!」
そっと囁き、柔らかく口付ける。
「せん・・・せい・・・」
呟きは・・・くち付けによって優しく封じ込められた。





二人だけの穏やかな時間が流れる。
あと少しの時間しかないけれど。
ナルトとカカシにとっては。
大切な大切な、想いを伝えあう時間だった。





眠り込むナルトの顔を、月灯りの中見つめる。
まだまだ幼さを残した、その顔は。
優しく微笑んでいるようにも見えた。
「ナルト・・・」
お前が死ぬ時、オレも死ぬよ。
オレにとって、お前だけがこの世界に存在する意味のすべて。
失くしたら生きていけないただ一つの真実。
そのナルトが消えてしまうのに、どうしてオレが生きていられようか。
「一緒に逝ってもいいよな・・・?」
そっと眠るナルトの頬に唇を寄せ、囁いた。





その決意は誰も知らないはずだった・・・。




×××××






3日後の満月
儀式は執り行われた。

ある者たちは嘲笑い。

ある者たちは安堵し。

ある者たちは哭き。

ある者たちは何も知らなかった。



そして・・・



ある者は・・・記憶を失った。





あれから1ヶ月。
サクラとサスケは、別々に新たなチームを組まされ、別の上忍が指導についた。
そして。
里にはカカシの姿は見えなくなった。
上忍としての任務が急に増え、下忍チームの指導をする余裕がなくなったというのがその理由であった。
サクラとサスケはナルトのことについて、話すことを禁じられ。
何故?
ナルトは?
という疑問を抱いたまま日々を過ごしていた。





イルカは前よりもいっそう笑うようになった。
その笑みは深く、内に何かを秘めているような、そんな笑みだったけど。
ただ彼の部屋にあるナルトのマグカップは、今もそのままにしてある。





火影はめっきり歳をとり、口数が少なくなった。
何か考え込む時間も多くなり。
引退の言葉を口にすることが多くなったと側近たちは言う。










ここは・・・
二つの国が長く争い、戦の絶えることのない激戦区

そのもっとも最前線にその男はいた。
闇に光る銀の髪は、敵にも味方にも恐怖の象徴であり。
その血に染まる黒装束には、誰もが戦意を失った。

隻眼の男は・・・

ただひたすら

機械的に

多くの命を屠っていった。

それは・・・

まさに死神という名がふさわしかった。

何も考えず、

何も感じず、

命令のままに人を殺す男は。



そして・・・

男は時折、月を見上げた。
靄がかったその記憶の奥に、何かが芽生えそうな。
そんな気がして。
そして
月を見上げる度に。
心が軋むような音をたてた。



何かを、何かを思い出そうと。
今日も男は月を見上げる。
言い知れない感情とともに。




×××××






先生、哀しまないで?

先生、泣かないで?

どうかオレのことなんて忘れて?

笑って生きて欲しい

すべてはオレと共に消して行くから

先生、笑って?

それだけがオレの望み





カカシが自分と死ぬつもりだということを知っていたナルトは。
死ぬ前に。
ある術でもって、カカシの中の自分に関する記憶を奪った。
それは。
カカシには自分のことなど忘れて、笑って生きて欲しいという、ナルトの想いからだったが。
カカシにとって・・・それは心の死を意味したのだった。
そのことは。
火影だけが知っている真実。



ナルトの死は
一人の心を永遠に凍りつかせた・・・





END




ナルト?カカシ先生?はれれ?
こんな結末になる予定ではなかったんですが・・・?
何故こんなことに?
やっぱ文才ないですね・・・私(泣)


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