月のある夜は 声がするよ 遠く 低く 優しく ダレを呼んでるのか どこから聞こえるのか 知らないけれど オレの名前を呼んでるのかな? オレの名前を呼んで欲しいな オレの名前を呼んでください・・・ 月の詩 「きれーな月だってばよ!」 ナルトは思わず呟いた。 いつものような任務の帰り道。 思ったよりも時間が掛かったので。 辺りはすっかり暗闇に。 だけど。 空にはまあるいまあるいお月様。 その光は柔らかく。 里へと帰る第七班を照らしていた。 「そうだな、きれーな月だ」 カカシがナルトの頭にぽふりと手を置きながら答える。 「ほんと!なんて綺麗なの・・・・」 「ああ」 残る二人も空を見上げて言った。 「な?な?きれーだろ?」 自分の言葉をみんなが肯定してくれたのがうれしくて。 ナルトは両手を頭の後ろで組んで、にししと笑った。 こんなことでうれしがるナルトの姿を、カカシもサスケもサクラも、優しい眼差しで見た。 ―――まだまだガキだねぇ、ま、そこがかわいいんだけど ―――か、かわいいぞ・・・ウスラトンカチが・・・ ―――ったく、あいかわらず子どもなんだから・・・でも・・・ナルトらしいか! 三人三様の想いに気付くことなくナルトは、もう一度月を見上げる。 月の優しい光はなんだか暖かくて。 なんだか元気が出る。 「イルカ先生も見てるかなー?」 見てたらいいな だって先生にも元気が出て欲しいってばよ イルカ先生は苦労性だから いっぱいいっぱい安らがなくちゃ 心の中でイルカ先生に呼びかける。 イルカを想うナルトの後ろ姿を、そっと見つめるカカシ。 内心少し面白くない。 あらら、またイルカ先生? いったいいつになったらオレの恋人だってことを認識してくれるんだろうねぇ、この子は。 ま、しかたないか。 「・・・ガキだもんな・・・」 「先生?何か言いました?」 小さく呟いた言葉を聞きとがめたサクラが振り返る。 「ん〜?なんでもないよ?さぁ、さっさと報告に行かなきゃな」 笑って誤魔化し子ども達を置いて歩き出す。 「ほらほら、置いてくぞ?お前ら」 慌ててカカシの後を追いかける子ども達の姿を。 優しく月の光が照らしている。 ★★★★★ 月は好き あったかいから 夜は嫌いだけど、月の出てる夜は好き だって寂しくないから 月は綺麗 その姿も、輝きも 月は好き ほっとするから こんなに穢れた自分にも、変わらず光をくれる 月は好き 癒されるから 凍りついた心を溶かしてくれる お母さんって・・・こんな感じかな? 知らないけど、こんな感じじゃないかな? きっと・・・きっと! こんな感じなんだろう・・・ ねぇ、オレのすべてを受けとめてくれる? ★★★★★ 報告を終え、家に帰ったナルトは。 ベッドの中にもぐり込みながら、窓から見える月を眺めていた。 中天に浮かぶまあるい月。 「なんだかホットケーキみたい・・・」 ふふ、きっとおいしいってばよ。 一人微笑むナルト。 急に目の前が暗くなった。 「な、何ッ?」 突然のことに驚き上半身を起こす。 月の光を背負い、カカシが窓際に立っていた。 「カカシ先生?・・・こんな時間に何か用なのかってばよ?」 驚きはすぐに疑問に変わった。 月の光を遮られて少し不満。 そんなナルトの態度にカカシはがっくり。 「あのな〜?せっかく来た恋人にそれはないだろうが?」 先生泣いちゃうよ? 「ご、ごめんってば・・・」 先生が泣くだなんて。 おかしいってばよ。 「ナルトはそんなに月が好きなのか?」 あんまり見てると目に穴が開くぞ? カカシがきしりとベッドの縁に腰掛けながら言った。 「う〜ん、先生は好きじゃないの?」 それには答えず小首をかしげながら聞いてみる。 すっと、カカシの眼が細くなった・・・ような気がした。 「先生?」 少し不安な気持ちになる。 何かまずいことでも言ったのかな? 「あ〜いや、月夜にはな・・・良い思い出がないんだよ、うん」 良い思い出? そこではっと気付いた。 そう言えば・・・12年前のあの時。 空には大きな満月があり・・・累々と重なる屍を。 冷たく照らしていたと・・・ダレかが言っていた。 「ごめんなさい・・・」 泣きたい気持ちで。 そっとカカシの上着の裾を掴む。 カカシはその感触に、下を俯くナルトを振りかえる。 今度は、その眼は優しく細められていた。 「バカだな〜お前のことを責めてるんじゃないよ?」 くすりと笑うと。 ナルトの頭に手を優しく置いた。 「で?なんでナルトは好きなんだ?」 先生と〜っても知りたいな〜? カカシに顔を覗きこまれ、赤くなったナルトが上目使いにカカシを見る。 うわ、それは犯罪でしょ? ナルトの愛らしさに内心くらくらしながら、それでも平静を装いつつ。 「ん〜?」 優しく促せば。 「・・・あったかいんだって、月は」 恥ずかしそうに小さく呟くナルト。 「お母さん・・・みたいなんだってば・・・」 頬を真っ赤にし、あんまり可愛いいことを呟くものだから。 カカシは思わず笑ってしまった。 「!!、笑うなんてひどいってば〜!」 カカシ先生のバカッ! ボスッ! 枕を投げつけながら叫ぶと、ナルトは布団にもぐりこんでしまった。 ★★★★★ かわいい君に キスを一つ・・・ キスを二つ・・・ 数え切れないほどのキスをあげるよ? 君の望むだけ君にキスを 君に愛をあげる・・・ だから機嫌をなおして? こっちを向いて? オレは君の顔を見つめていたいんだ 見てくれないとまた意地悪しちゃうよ? 怒った君もかわいいから ★★★★★ 「ごめんな、笑ったりして」 先生反省してるよ? ナルト君、許してくれないかな〜? ぽっこりふくらんだ布団の上に上半身をかがめながら。 そっと囁く。 その言葉に布団がぴくりと動く。 だけどまだお許しは出ないもよう。 苦笑して、カカシは布団の上からナルトにキスをする。 優しく 優しく ナルトの上にキスを落とす。 「先生・・・」 布団の中から声がした。 「お母さんって・・・どんな感じなのかな?」 先生は知ってる? 少し泣きそうな声。 ああ、そうか・・・ 母親を知らない君には、月が母親の象徴なんだね なんてかわいく哀しい君の想い 愛しさでいっぱいになる。 「ナルト・・・」 布越しに囁く。 「先生は好きだよ?ナルトのこと」 たとえナルトがすべてを敵にまわしても 君のことを守るよ? 「オレはナルトのすべてを愛してるから・・・」 それじゃぁ足りない? 「先・・・生?」 「母親の分も、父親の分も、里の人間の分も・・・オレが愛してあげるから」 足りないなんて言わせないくらい いらないって言うくらい愛をあげる 君のすべてを受けとめるよ? だから だから 哀しまないで 「・・・先生・・・」 布団からそうっと金色の髪が出てくる。 月の光がきらめく蒼い瞳。 その瞳に優しく微笑み、 唇にキスを落とす。 「オレが全部愛してあげる・・・」 月明かりのみが照らす薄暗い部屋の中。 二つの影がそっと重なる。 ★★★★★ 見たことも 会ったこともないお母さん 貴女は僕を 愛してくれましたか? 愛してくれますか? こんな僕でも 貴女の腕に抱かれる資格がありますか? ずっとそう思っていました 抱いて欲しい 愛して欲しいと 月に貴女を重ね ココロの中で泣きました でも今は 貴女のように? 貴女以上に? 僕のすべてを愛してくれる人がいます 僕もその人を愛しています 貴女の愛は知らないけれど 別の愛が僕を優しく包んでくれます 涙が零れそうなほど温かい 大きな愛に包まれて・・・ 僕は貴女を想う哀しさを 貴女を想う幸せに 変えることができました お母さん もう貴女を想って泣きません 僕は・・・ 貴女を想って微笑みます それは 僕を愛してくれる、あの人のおかげです・・・ END 大学からの帰りの電車の中。 すでに真っ暗になっていた空に浮かぶまあるい月を見て。 ふいに思い浮かんだ話。 ナルトはきっと月に特別な気持ちを持っているのだろうと思いました。 無償の愛を注ぐ母親の存在を、月に重ねて。 寂しい心を慰めたのではないかと・・・。 なんかよく分からない話ですみません(>_<) とにかく今回のテーマは「無償の愛」だったんですが・・・。 →戻 |