『一年の計は元旦に有り』 「あけましておめでとうございま〜す!」 1月1日朝。 元気のいい声が玄関に響き渡る。 ここは、イルカ邸。 今日のこの日・・・今年は新年会と称し、イルカ先生による手料理が振舞われることになっていた。 発案者はもちろんイルカ先生本人。 それにサクラとナルトが乗り気になり、その2人に引きずられるようにサスケとカカシの参加も決まったのだ。 「おお、来たか、ナルト〜!さぁ、あがった、あがった」 「お招きありがとだってば、イルカ先生!」 元気なその声に、エプロン姿のイルカが満面の笑みでナルトを迎え出た。 右手にはフライパン返し。 左手にはフライパン。 二つともよく使い込まれた一品である。 そして、不思議とよく似会うその姿。 対するナルトと言えば・・・こちらは羽織袴姿の正装。 縦じまの袴は少し大きそうだったけれど。 黒い羽織に、朝陽を受けてきらきら輝く金の髪がよく映えていた。 「ばっちり決めてるじゃないか」 今日は一段とかっこいいぞ! 「へへ、これってばカカシ先生が見たててくれたんだ!」 似合う? 「ああ、似合う、似合う」 嬉しそうに笑いながら、くるくると回って見せるナルトに自然とイルカの頬も緩んだ。 「サクラもサスケももう来てる。早く挨拶してこい」 「うん!」 とたとたと廊下を走って行く後ろ姿を、優しく見つめていたイルカの耳元で。 「あけましておめでとうございます〜」 不意に聞こえた、地を這うような低い囁き声。 「うわぁぁあああ〜」 耳にかかった息のくすぐったさとその声の暗さに、勢い良く降り返ったイルカの視界に銀の髪が映った。 「カ、カカシ先生!」 「はい、イルカ先生?」 なんですか ばくばくと鳴り響く胸の動悸を起こさせた当の本人は、いつものような眠たげな顔のまま、 先ほどイルカを驚かせたことなど微塵も感じさせないぐらい平然と背後に立っていた。 「吃驚するじゃないですか!!」 その平然とする顔に込み上げた怒りを抑えながら、イルカは叫んだ。 「何言ってるんですか〜イルカ先生。それぐらいの気配察してくださいよ〜」 そう言って、にやりと顔を歪めながらカカシが笑った。 「〜〜〜〜っ!」 (中忍のオレに暗部にもいたことがある上忍の気配なんか察せるか〜!!) 言葉にできない言葉を飲み込んで、震える拳を握る。 そんなイルカの様子におかまいなく、カカシがイルカに尋ねた。 「ところでナルトはどこですか?」 早くイルカ先生に見せるんだ〜って言って走って行っちゃったんですよね〜 ・・・オレを置いて。 「・・・はぁ〜」 (だからか) 深い溜め息とともに脱力してイルカが拳を開いた。 自分を置いて他の男の元へ嬉々として駆けて行ったナルト。 そのナルトが駆けて行った相手であるオレへの嫌がらせ・・・ってことですか、カカシ先生・・・。 「おとなげなさすぎ・・・」 「ん?何か仰いましたか、イルカ先生」 「い、いえ、何も・・・」 溜め息とともに小さな声で呟いた言葉に、耳ざとく反応したカカシにイルカが慌てて首を振る。 「ナルトなら居間でサクラやサスケ達と一緒ですよ」 「そうですか・・・ではオレも」 お邪魔しま〜す ナルトの居場所を聞いたカカシがいそいそと草履を脱いで上がる。 吃驚していたために気が付かなかったが・・・ よく見れば、カカシも羽織袴姿。 しかも・・・何から何までナルトのものとまったく同じ造りのもの。 「・・・羽織袴でぺあるっく・・・」 何考えてるんだ、あの人は・・・カカシの後姿を見ながらイルカは深い溜め息とともに再び脱力した。 「イルカ先生、これすごくおいしい!」 「ありがとう、サクラ」 「今度作り方教えてくださいね、イルカ先生」 「ああ、いいぞ〜」 「わ〜ありがとうございます!」 (ふふ、これでサスケ君の心はゲットしたも同然ね!) そんな一見はほのぼのとした会話が繰り広げられている机の端で。 一見も何もほのぼのの欠片もないような会話が繰り広げられていた・・・。 「ほ〜ら、ナルト〜おいしいか〜?」 「うん!おいしいってば、カカシ先生!」 「そうかそうか〜うん、うん。じゃぁ、次は何食べたい?」 「う〜んと・・・あ、田造り!」 「田造りな?分かった、今取ってやるからな〜」 「ありがと、カカシ先生・・・って、え?サスケ?」 「食え、田造りだ」 「あ、ありがと・・・」 目の前につきつけられた田造りに驚きながらも、ナルトがぱくりと口にする。 ちょうど田造りへと箸を伸ばそうとしていたカカシの動きが止まった。 「わ〜これもおいしい〜!さんきゅ〜サスケ!」 「たいしたことじゃない」 にっこり笑ってサスケにお礼を言ったナルトに、カカシの箸が小刻みに震えた。 そんなカカシを横目で見上げて、サスケが勝ち誇ったように鼻で笑う。 そしてさらにナルトへと差し出した。 「ナルト、だし巻きだ。うまいからお前も食え」 「だし巻き?オレそれ大好きだってば!!」 ありがとー!! 「うまいか?」 「うん、おいしい!!」 サスケの差し出すものをおいしそうに・・・嬉しそうに食べるナルト。 本当ならそれはナルトとオレの会話のはずで・・・ 「・・・サ、サスケぇ・・・!」 よくもオレとナルトのイチャイチャを・・・! カカシの箸がばきりと大きな音を立てて折れた。 「ナルト!」 「・・・え?何?カカシ先生?ってわわ、何するんだってばよ〜!!」 サスケの差し出した栗の甘露煮を食べようとしたナルトの身体が急に浮きあがる。 そしてそのままカカシの膝の上に下ろされた。 「は、恥ずかしいってば、カカシ先生〜〜〜!」 「何?ナルト?」 オレといるのがそんなに恥ずかしいの? 「え・・・ってなんでそんな真剣な目してるんだってばよ・・・」 自分を見つめるどこか据わったような眼差しに、ナルトの背中に戦慄が走った。 「そう・・・ナルトはそうなんだ〜?」 虚ろな声が虚ろに響く。 「そ、そんなことない!全然!まったく!!」 そう言わなければこの後どうなるか・・・考えるのも恐ろしい事態になりそうで? ナルトは慌てて勢い良く否定した。 多少の恥ずかしさよりは、自分の身の安全の方が大事である。 「じゃぁ、このままでいいでしょ?」 「う・・・うん・・・」 にっこり駄目押しのように微笑まれて、もう何を言っても無駄だろうとナルトの肩から力が抜けた。 「決まり。はい、ナルトあ〜んして?」 「・・・あ〜ん・・・」 「おいしい?」 「うん、おいしいってば」 「良かった」 すでに周囲のことなどカカシの頭からはすっかり忘れ去られているようだ。 ともすれば語尾にハートマークでもつきそうな雰囲気がその一角を支配して・・・ イルカもサクラも何も言えなかった・・・。 一方のサスケはと言えば・・・ 実は、ナルトがカカシによって膝へと強制的に移動させられた時に・・・ カカシの放ったクナイによって背後の柱へと縫いとめられていた。 元の場所へと戻ろうとクナイを抜こうと悪戦苦闘するサスケだが・・・ よほど深く刺さっているのか。 それともカカシの執念か。 外れることなくサスケをその場に縫いとめ続けていたのである。 一年の計は元旦にあると言う。 それではこれが、これからの一年ずっと続くと言うのだろうか・・・ そう考え、イルカは本日何度目かもう分からなくなった、深い溜め息をついた。 そしてその溜め息は。 一年を通してつかれ続けることとなる・・・。 END 去る1月1日に・・・卒論を放り出して書いたものです。 せっかく苦手なコメディーを書こうと頑張ったのに、このまま捨てておくのも悲しいのでUPしてしまいましたι 季節はもうすぐ2月で立春だというのに、今頃正月話・・・(爆) ま・・・まぁ、1月中ということで勘弁してやってください(>_<) それから、「一年の計は元旦にあり」の意味について・・・ コドモの頃に聞いた時、”1月1日にやったことは一年を通して続くんだよ〜”とどっかの誰かに言われたんですが・・・ 実際に調べてみると、”一年の計画はその年の元旦にたてておくほうがよい”ということらしいですね(汗) すみません、話の中での意味は最初の方の意味で書いてしまいましたι だから意味的には正しくないです。 でも書いてしまった後に気付いたので、申し訳無いんですが、これでいきます。 いかせていただきます。 これで間違えて覚えてしまった方がいらっしゃらないことを祈るばかりです・・・(>_<) では全力ダッシュ!(ばびゅ〜んっ) →戻 |