蛍のように儚い恋だけど

それは・・・哀しいまでの優しい恋






夏蛍






「蛍を見に行かないか」


その言葉を聞いたのは、蝉が今年初めて鳴いた日のこと。

真っ赤に染まった夕焼けを背負い、優しく微笑んだ先生がオレの返事を待っていた。
優しいけれど、どこか切ない微笑み。
どうしてだろう・・・そう思いながらも、オレは先生の言葉が嬉しくて。
ばふんと、先生の腰に抱きついた。

「見たいってば!見に行きたい!!」
「そっか」

嬉しそうに頷いて、先生がオレの頭に手を置いた。
髪を梳くように優しく撫でる先生の指。
気持ちよくて嬉しくて幸せで。


先生の指が震えていることになんか気づかなかった。
・・・気づけなかった。


「でも急にどうしたってばよ?カカシ先生」
「ん?いやな、蛍もそろそろ見頃かな〜と思ってさ」
「ふ〜ん・・・カカシ先生って意外と風流だったんだ」

あはは、それは酷いなぁ〜

見上げたオレの言葉に苦笑した先生。

夕陽はとうに沈んで、辺りにはうっすらと闇の気配。
その中を・・・オレは先生に手を引かれ、里の外れにある川に行った。

だあれもいない静かな川辺。
その土手にそっと並んで座った。

言葉もなんにもないけれど。
先生の温もりだけがそこにあって。

それだけが・・・嬉しかった。







闇が広がると徐々にぽつぽつと仄かな灯りが点りだす。
そしてそれはゆっくりと・・・だけど着実に範囲を広げ・・・。

気がつけば、川辺を彩る光の乱舞。

夜の月明かりの中・・・舞い飛ぶ蛍はとても幻想的で。


・・・信じられないくらい綺麗だった。


「すっげーってばよ!!わわ、あっちにもこっちにも」


バカみたいにはしゃぐオレを先生は黙って見ていた。
それでもオレは嬉しかったから。
先生の瞳が優しく微笑んでることなんて分かっていたから。


・・・無邪気な子どものようにはしゃいでいた。




「なぁ・・・ナルト」
「何?何だってばよ、カカシ先生?」
「オレと一緒に・・・どこか遠くに行かないか?」
「・・・え?」



先生の突然の言葉に、驚いて振り返った先には、笑っていた先生の顔。
今はもう、覆面を外しているその顔に、浮かぶ笑顔は優しげで・・・

そしてどこか泣いていた。



「せんせ・・・?」


唇から零れた呼びかけに、先生がぎゅっと拳を握る。
そのまま呆然と見つめるオレを、じっと見つめて先生が言った。



「ナルトはイヤか?」



いつにないその真剣な声音。
真剣な瞳。



「ど・・・どうしたんだってば、いったい」
カカシ先生らしくないじゃん?



茶化すように笑ったオレの腕を掴み、引き寄せた先生の腕。
抱きしめられたその中で、オレは先生が震えているのを知った。



「先生?」
「・・・暗部が・・・動き出した」



振り仰いだオレに、絞り出すような声で囁かれた言葉。



「オレとお前の関係が・・・ばれたらしい」



だから・・・逃げよう?
このままだと引きはなされる。



ぎゅっと抱きしめられた腕の中、瞳を閉じる。



「そっか・・・ばれちゃったんだ・・・」



そう。
カカシ先生との恋は誰にも言えない秘密の恋だった。



九尾を宿すオレと・・・その監視役である先生。



そんな二人の間に決して芽生えてはならない、その感情。



でも。
そんなこと分かっていたのに。
知っていたのに。



オレ達は恋をしてしまった。



だって好きになっちゃったんだってばよ。

先生はオレを監視する人。

いつか・・・オレを殺すかもしれない人。



でもさ、でもさ・・・
先生は信じられないくらい優しかったんだ。

オレのことを分かってくれる人なんていないと思っていたオレ。


そりゃあイルカ先生だってオレを認めてくれた優しい人だよ?
優しくて・・・大好きな人。
でも・・・オレのことを分かってくれたのは、カカシ先生だけだった。


オレの汚い部分も醜い部分も。
全部全部ひっくるめてオレを見てくれた人。



そうして・・・愛してくれた人。



こんな人他にいる?

いないってばよ。

だから覚悟なんて最初からできていた。



きっと・・・こんな恋は長く続かない。



それでも。
少しの間でも。
オレには・・・幸せで優しい恋だったんだ。



オレってワガママだよね・・・先生まで巻き込んじゃって。



小さく自嘲気味に笑って一つ、息をついた。



「カカシ先生の言葉・・・オレ、嬉しいってばよ」



でも・・・オレは行かない。



先生の広い胸に顔を埋めながら、呟いたオレの言葉に先生がはっとしたように身体を強張らせる。



「ナルト・・・何故だ?」
このままだと一生・・・死ぬまで会えなくなるんだぞ!!



「もう十分だってばよ、先生・・・」



これ以上、迷惑なんてかけたくない。
だから・・・もう。



「オレはお前と離れたくない!離れたくないんだ、ナルト!」



肩を掴み、必死に・・・訴えるようにオレを見つめる先生。
銀の髪が月明かりと、蛍の光で静かに輝いていた。



オレの好きな人はこの人です。
そう・・・言える人間だったら良かった。
そう・・・言える世界だったら良かった。



でも。
現実はどこまでも現実でしかなくて。



そうして・・・オレにはそのどちらもありしなかった。



そんなこととうの昔に覚悟していたのに。

だけど。

先生の必死な顔を見ていたら。
思わず零れ落ちてしまった・・・オレの本音。



「オレだって・・・先生と離れたくなんて・・・ないってばよ・・・」
「だったら!」
「でもダメなんだってばよ!!」
「・・・ナ・・・ルト?」



激しく否定したオレに、先生が驚いたようにオレを見つめる。



「オレ・・・ここを離れたら生きていけないんだ」
「・・・え?」
「先生にはずっと黙っていたけど・・・オレの身体にはもう一つ別の封印がかけられているんだってばよ」
「封・・・印?」
「・・・うん。この里でしか生きられないように・・・ね」



だから・・・行けない・・・



泣きそうに笑ったオレを、先生がきつく抱きしめた。



「何故だ・・・?波の国だって・・・」
行けたじゃないか!?



「それは・・・」



確かにあの時まではそんなものなかった。
これは波の国から帰ってきた後にかけられたものだから。



「どうしてそんなものが・・・」



教えてくれ・・・と苦しげに呟かれた言葉。



言いたくない。
言いたくなんてなかった。



この封印をかけられたのは、波の国の後。
そう・・・先生との関係が始まった直後のことだったから。



逃げないように。
逃げられないように。



オレを縛り付けた、封印。



言い淀むオレを見つめて・・・先生が呟いた。



「まさか・・・」
オレのせいか?
オレとの関係の・・・?



答えたく・・・ないけれど。
先生が必死な瞳でオレを見つめている。



隠し事なんて・・・できるはずがない。



小さく頷いたオレに、先生が拳を地面に叩きつけた。
何度も。
何度も。



血が出るまで叩きつけた拳。



無言で見つめるオレと、黙ったまま血の流れた拳を見つめ続けた先生。
いつしか蛍が、二人の周りに飛んできた。



青白い・・・光の中。

先生が小さく呟いた。



「それでも・・・オレはお前と離れたくない・・・って言ったら」
ナルトはどうする?



「・・・え?」



先生が優しく笑いながら、呆然とするオレを見つめた。



「ナルトと離れるくらいなら・・・オレはナルトと一緒に死ぬ方がいい」



それじゃぁ・・・ダメか?



「だって・・・!そんな・・・」
「何度も言うが、オレはお前と離れたくないんだ」



だから。
一緒にいよう?



そう、囁く先生の顔はどこまでも優しくて・・・。
どこまでも穏やかだったから。



何かを思う前に・・・瞳から涙が零れ落ちていた・・・。



「・・・せ・・・んせぇ・・・いいの・・・?



頬を滑り落ちるそれを、優しく唇で受け止めて。
先生が笑う。



「オレはお前と離れてなんか生きて行けないんだ」



だから、いいんだ



そう言って静かに頷く先生がオレを抱きしめる。



温もりだけをお互いに感じて。





そうして・・・オレ達は笑った。










蛍の光がオレ達を包む。
静かなせせらぎと・・・優しい風。



その中で。



一緒にいつまでも夢を見よう・・・










END




≫≫≫リク内容
カカナルで、幸せな死にネタ


くかげさんに捧げる3000hitリク小説です。
幸せな死にネタ・・・と言えば心中もの?
としか発想のできない、私(発想貧困/爆)
実は、以前に心中がテーマのお話を1つ書いていたので、かなり悩みました。
書いていくと、同じような話になっちゃうんですよ〜(>_<)
何度も何度も書いては消し、書いては消しの繰り返しでした。
そんな繰り返しの上でできたのがこのお話です。
似ていない・・・とはとても言えないですが、それでもこれが今の私にできる精一杯です。
少しでもくかげさんに気に入って頂けたなら・・・と思います!(祈)


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