泣いていないだろうか・・・

悲しんでいないだろうか・・・



それだけがたった一つの心残り・・・










Only Love











何年ぶりの里だろう。
後ろで一つに括った髪を揺らす風も。
踏みしめた土の匂いすらも懐かしく感じる。

「イタチさん」

隣りを歩く男が言った。

「懐かしいですか?」
「いや・・・」
「そうですか・・・?」
「・・・」

こちらの言葉をどう取ったのか、にやりと笑った男の言葉に沈黙で答える。

「誰か・・・会いたい人とかいるんですかねぇ~イタチさんにも」
「さぁ、どうだろうか・・・」

からかい気味に言った言葉に、珍しくも答えを返したイタチに男が内心驚く。
思わず隣りを見遣った男は、またもや驚いた。
イタチの、遠くを見つめる眼差しは、男が今まで見たこともないほど優しい目をしていたのだ。



空に高く昇った太陽の光が辺りに降り注ぐ。
早朝からの任務のため、昼には任務が終了した。


「ナルト~寄り道するんじゃないよ?」
「わ~かってるってばよ!ったく、いつまでもガキ扱いすんじゃねぇってば!」
じゃあね、カカシ先生!
「そんなこと言ってもねぇ・・・」

あっかんべーと走り出したナルトの後姿を見て、カカシは頭を掻いた。
遠目にもきらきらと光る金の髪が、見えなくなるまで見送ったカカシは、くるりと踵を返し、その場を後にする。

「サスケと待ち会わせか・・・」
はぁ~気が重い~

何が悲しくてあんな奴と待ち会わせしなきゃいけないんだか・・・。
まぁ、写輪眼のことで伝えなくてはいけないことがあるから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
それでもさ・・・かわいいナルトと一緒にいられないのは・・・ねぇ?

溜め息をついたカカシがのろのろと、待ち会わせ場所である甘味処へと向かう。
その足取りの重さを見れば、どれだけ気が進まないか分かるだろう。
そう、誰が好き好んで恋敵なんぞと顔を突き合せなくてはいけない?


一方。
走り出したナルトは怒っていた。
サスケと何やら話がある・・・とかなんとかで今日も任務後、カカシはサスケと会う。
それは、ようするにサスケの奴がまた一つ術を覚えるということだ。

「最近ずりぃーってばよ!」
サスケの奴ばっか

かわいい頬をふくらませ、ナルトは立ち止まった。
たまたま目に入った小石を蹴る。
かこん・・・と蹴り飛ばされた小石は、しばらくころころと転がって行ったが、より大きな石にぶつかり止まった。
それを沈んだ気持ちで眺める。

「エコヒイキだってばよ・・・」

オレだってさ・・・もっともっと!いっぱい色んなこと覚えたいのに。
むぅ~と眉をしかめたナルトは、ぎゅっと拳を握り締めた。
握り締め、決意する。

「やっぱ修行してから帰るってば!」
サスケの奴なんかにゃ負けねぇ~!!

めらめらと燃え上がる炎を背中にしょってナルトは拳を宙へと突き上げる。
短絡的と言っても良いほどだが、とにかく決めた後の行動は素早い。
あっと言う間に、ナルトは森にある秘密の修行場へと向かったのだった。





想いはいつだって一つだけ

いつでも

どこでも

お前の幸せだけを祈っていたよ・・・





突然、イタチが足を止めた。
不審に思った鬼鮫が訝しげに振り返ると、イタチは既にその背中を向けた後だった。

「鬼鮫・・・先に行っていてくれないか」
「イタチさん?」
「少し・・・用がある」
「っ!?イタチさん!!」

一言言い残し、忽然と姿を消したイタチに、鬼鮫と呼ばれた男は小さく舌打ちした。





思い出だけで生きられる

そんな言葉はウソだと思う

この胸に在る想いは

そんなことでは決して癒されない・・・





イタチは、鬼鮫と分かれたしばらく後。
森の中の、小さく開けた場所に一人立っていた。

鳥の声。
見上げた木々の間から、青い空が見えた。
差し込んだ木漏れ日に眼を細めて、イタチは辺りを見回した。

小さな小さな広場。
折れた大木、丸い切り株。
隅にたてられた何本かの丸太。
懐かしそうに細められた目が、それら一つ一つを見つめる。

そして、ぐるりと周りを囲む木々の一本にあるものを見つけた。
驚いたように視線を止めたイタチが、静かに歩み寄り、その幹に触れる。
そこには、小さな傷跡が三本走っていた。
かなり古いものらしく、削られた部分は既に黒ずんでいる。

「これは・・・」

一番下の傷跡を指でなぞる。
ついで二番めの傷跡を。
そうして、最後に三番目の傷跡に触れた。

「まだ残っていたのか・・・」

小さく笑みを浮かべたイタチが、確かめるようにもう一度なぞる。

「小さいな・・・」
今はもうどれぐらいになっただろうか・・・

「誰・・・だってばよ、兄ちゃん?」
なんでここ・・・

愛おしそうに呟いたイタチは、背後から聞こえた言葉にゆっくりと振り返る。
そこには、ぽかんと口を開けるナルトがいた。

「ナルト・・・」

記憶の中より数段、成長した姿。
だけどあの頃と変わらない金の髪、青い瞳。
その時。
胸に生まれた想いを言葉にするのは難しかった。

「?だ・・・れだってば?なんでオレの名前知ってるってばよ?」

小首を傾げて疑問を口にするナルトに歩み寄り、イタチは笑った。
それは口の端をほんの少し上げただけのものだったけれど。
瞳に浮かぶやさしい色が、それを微笑みへと変えた。

「兄ちゃん・・・サスケに似てるってば・・・」
もしかしてあいつの・・・

「ナルト」

「え・・・?」

その優しい微笑みに見惚れたナルトが、ふと思ったことを口にしようとしたのを遮って、イタチがナルトの身体を抱きしめる。
驚いたナルトが身をすくませた。

「ナルト」

もう一度・・・囁く。
逃げようとした身体が、その動きを止める。

あたたかな温もりに、感じた既視感。
抱き締める腕に覚えた安心。
そして。
囁く声に胸を占めた切なさ。

ぽろりと零れた涙が頬を伝う。

「な、なんでこんな・・・」

慌てたように拭おうとしたナルトの手をイタチが捕える。
見上げた潤む瞳に、くすりと笑って涙を唇ですくった。

「ただいま・・・ナルト」

その瞬間、弾ける。
脳裏に押し寄せた、記憶の奔流に、ナルトはすべてを思い出した。

「イタチ・・・兄ちゃん・・・!」

幼い頃。
否、物心つく前からずっと側にいてくれた人。
ずっと自分を守ってくれていた人。
そう、里から姿を消す直前まで。

九尾の入れ物である、幼い自分の抹殺を主張するうちは一族。
その一族すべてを敵に回し、それでも自分を守ってくれた、唯一人の人。
痺れを切らし、強硬手段に出た一族すべてを殺すことさえ、彼は自分のためにだけやったのだ。
そして・・・里を追われることになった。
将来を期待された、有望な忍だったのに。

あの日。
泣きながら後を追った自分を、辛そうに見つめ、抱き上げてくれた腕の温かさを、どうして今まで忘れていられたんだろう?
必ず迎えにくる!・・・そう囁いた言葉をどうして今まで思い出せなかったんだろう?

泣き笑いの表情を浮かべ、ぎゅっと抱きついたナルトに、イタチが一瞬だが辛そうな表情を浮かべた。ふわりとした金の髪に唇を寄せる。

「すまんな・・・遅くなった」
「ううん!そんなことないってば!」
「だが6年も・・・待たせた」
「でもさ、ちゃんと迎えに来てくれたってばよ!」
だからいいってば!

離れまい、離すまい、とするかのように、力を込めるナルトを抱き上げて、イタチはゆっくりと歩き出した。

木々の間から差し込んだ光が、二人を照らす。
眩しさに目を細めたナルトに、イタチが微笑んだ。
それにナルトも笑い返す。





「ナルト・・・大きくなったな」

「へへ、当たりまえじゃん!オレってばもう下忍なんだ」
いつまでも小さくなんかいられないってばよ

「そうか・・・」

「イタチ兄ちゃん・・・これからどこへ行くの?」

「お前が、お前として生きられるところだ」

「オレがオレとして?」

「ああ」

「オレがオレとして・・・」

「不安か?」

「そ、そんなことないってばよ!?」

「大丈夫だ。オレが側にいる。これからはずっと・・・側にいてやるから」

「・・・イタチ兄ちゃん・・・」
ありがと・・・





イタチの肩に顔を埋めるようして囁かれた言葉を、森の木々だけが聞いていた。
そして、その日。
木の葉隠れの里からナルトの姿が消えた。
暗部による必死の探索にも関わらず、その消息は今もって杳として知れない。










END




イタナル・・・妄想度激し過ぎ・・・。
いえ、イタナル好きなんです。それだけなんです。
この後、どんどん色んな新事実が出てくるでしょう、きっと。
間違いもきっといっぱい・・・。
すみません、今のうちに謝っておきます。
それでも。
それでもイタナルが書きたかったんです・・・(-_-)
笑って見逃してやってください・・・。

それからなんですが・・・。
このお話はお持ち帰りOKです。
こんなつたないものですが、少しでもイタナル普及の助けになれば・・・ということで。
イタナル好きです!よっしゃ、広めてやろう!!
そう仰ってくださる優しい方・・・どうかよろしくお願い致します。
ちなみにお持ち帰りの期限はありません。
イタナル好きの方!どんどんお持ち帰りしてやってくださいませ。
そしてイタナルを広めて・・・私にイタナルを読ませてください!(え?)
お持ち帰りの際、掲示板かメールにてお知らせ頂ければ、管理人が泣いて喜びます。



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