届かない声に、何度唇を噛んだだろう。





時の砂





夕陽は好きだ。
沈む太陽は、明日の朝、また昇る。
生と死の再生を繰り返す太陽の、一番神聖な瞬間だと思うから。

だけど。

あの、血のように赤く染まる空を見ていると、訳もなくどこかへ帰りたくなる。
この里に生まれ、この里に育ち、いつだって自分の帰る場所はここのはずなのに。

不意に、どこかへ・・・帰りたくなるのだ。

屋根の上。
一人、座り眺める西の空。
ゆっくりと沈む太陽が、心の奥底まで赤く浸透するようで。
思わず瞳を閉じた。

「こんな所へいたのか、ナルト」
「カカシ先生・・・」
「久しぶりに里へ帰ってきたっていうのに、イルカ先生には挨拶したのか?」
「さっきしてきたってばよ」
そんなこと心配しなくてもいいのに

離れていた2年の間に、ほんの少しだけ心配性になった恋人に小さく笑った。
その笑みをどうとったのか、困ったように頭をかいてカカシがナルトの隣に座る。
ちらりと横目で見たカカシの横顔を、夕陽が赤く染め上げる。

先日下された指令で、これからカカシとサクラの三人でチームを組むことになった。
サスケが里を去ってからの2年。
自分だけじゃない。皆少し変わったように思う。
幼い自分は、あの日に置き去りのまま。
消えない傷を抱えて、今も心の一番深い場所で声もなく泣いている。

サスケの大馬鹿やろう・・・。

それでも、自分達は生きていかなくてはならないのだ。
今度こそ、大切なものを守るため。
大切なものを取り戻すために。

「先生・・・」
「なんだ?」
「オレ・・・頑張るってばよ!」
「そうか・・・頑張れよ」

何を・・・と聞かないのはカカシの優しさだ。
その何気ない優しさに、何度この2年の間救われただろう。
自来也と二人、修行の旅に出た自分を根底から支えてくれたのは。
イルカであり、そして、カカシの優しさだった。

オレってば幸せ者だってば・・・。

泣きたいような、くすぐったいような想いに顔を上げると、夕陽は最後の輝きを残すばかりになっていた。
山の稜線に沿って、金色の輝きがうっすらと消えていく。

不思議なことに。
あれほど訳もなく帰りたかった想いはどこかへ消えていた。
そう。
自分の居場所はここ、なのだ。

どこか、ではない。
ここが、居場所なのだ。
サスケ、お前だって・・・。

「今度会ったら殴ってでも分からせてやるってばよ!」
「まぁ・・・ほどほどに、な」

拳を握り、力を込めたナルトにくすりと笑ってカカシが抱き寄せた。
あたたかな温もりが優しくナルトを包む。


春は・・・もうすぐそこだ。










END




久々のナルトです。
そしてほんの少しだけ原作を踏まえつつ・・・。


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