・・・終わりたい

幾歳ここへ繋がれれば
私の罪は許されるのか

狂いそうなほどの時の流れの中で
ただただ私一人が遺されて行く

孤独・・・こどく・・・コドク・・・

終わらない永遠の孤独

神様、私の罪はそれほどに
それほどに重いものだったのですか

犯した罪さえもう思い出せないのに
罪を犯したことだけは忘れることができない

罪を忘れた私には
死さえ訪れてはくれないのですか

神様、教えてください

私の罪はそれほどに
重いものだったのですか・・・










月灯篭

第1話










「闇月、お前も明日には十五歳になるな」

御簾の向こうにほのかに揺らめく蝋燭の灯かりだけが部屋を照らす暗闇。
御簾越しに垣間見える人影から静かに発せられた言葉に、手を付き顔を伏せたまま闇月は小さく、しかしはっきりと答えた。

「はい、長様」

人影は苦笑した。

「ここには誰も居らぬ。そう堅苦しくするでない。私は一族の長ではあるが、お前の父親でもあるのだからな。いつも言っておろうが、二人のときは父と呼んでも良いと・・・。さあ、顔を上げてもっと近くに来なさい」

言われた通りに闇月は顔を上げた。
しかしその場所からは動こうとしない。

「どうした?闇月。お前の顔を私に見せておくれ」
「いえ・・・私はここで」

その相変わらずの堅苦しい態度に軽く溜め息をつき、人影が言葉を紡ぐ。

「この父の頼みが聞けぬのか?」
「私は・・・」
「闇月」
「・・・」
「来なさい」
「・・・はい」

立ち上がり、静かに御簾の前に座ろうとした闇月は、板の間につこうとした腕を急に捕えられバランスを崩し、御簾の中に倒れこんだ。

「!」

倒れた闇月を抱き止めたのはがっしりとした男の腕。

「長様!」

叫んだ闇月の声を無視して腕がいっそう強く抱きしめる。
まるで幼子を抱きかかえるように。

「ますます似てきたな、亡き母に」

耳元で囁く声。
囁かれた言葉に体が動かなくなる。

「あれ譲りの美しい顔立ちに、艶やかな黒髪。瞳の色も、唇も、何から何まで瓜二つだ・・・」

繊細そうなしかし骨太な大人の男の手が闇月の髪を優しく撫でる。

「もっと私に甘えてくれれば良いのに・・・。お前は何でもすぐに我慢してしまう。皆はそういうお前を見てそうなのだと決め付けているけれど、私は知っているよ。お前がその裏でいろいろなことを諦め、皆の望む長の息子を演じていることは」

諭すかのような口調は優しくて、頑なだった闇月の心はすうっと軽くなる気がした。
だからかもしれない。
普段は押しこめ、決して口にしない本音が出てしまったのは。

「・・・父上、私にできることはそれくらいしかないのですから良いのです」

呟くようにそっと答えた闇月の髪を撫でる手を止め、華月は言葉を紡いだ。

「闇月、母が死んだのはお前のせいではない。何度言えば分かるのだ?」
「しかし父上・・・」
「お前のせいではない。あれの天命だったのだ。良いな、もうそのことは忘れろ。これは長としてではない。父としての願いだ」
「・・・はい、父上・・・」

だけど忘れることなど無理です。
否、忘れてはならないのです。





「兄様―――」
父である長との短い、しかし温かな会話の後、部屋を退出した闇月は幼い声に呼び止められた。

「・・・明?」
「兄様!」

驚いて振り返った闇月に抱きつくように小さな少女が飛び込んできた。
年の頃は五、六歳。
美しい黒髪を腰の辺りで切りそろえ、緋色の着物を身に纏った闇月によく似た少女。
その少女をしっかりと抱きしめ、闇月は囁いた。

「どうしてここに?それに皐月はどうしたんだ?いつも明の側にいるのに今日は姿が見えないよ?」
「皐月には内緒なの。どうしても兄様にお会いしたくてお社を抜け出してきたの」

そう言って明は兄の袖をぎゅっと掴み、しがみついた。

「明?どうしたんだ、一体・・・」

その様子を不審に思い、闇月が問いかける。
震えるように掴む小さな手が痛々しくて、優しくそっと髪を梳いた。
それに励まされたかのように明は口を開いた。

「・・・明日の儀式をやめることはできないの?」
「やめる?」
「やめないと大変なことが起こるの。嘘じゃないの、本当なの!私分かるの」

泣きそうな顔をして一生懸命言葉を紡ぐ妹を、困ったように眺めながら闇月は、自分を見上げる潤んだ瞳を覗き込んだ。

「でもね、明・・・儀式を中止することが不可能なことはお前も知ってるだろう?私の成人の儀式は新月の夜でなくてはならないんだ・・・」
「でもでも、私心配なの!兄様に何か起こるんじゃないかって・・・、分かってるけど、無理なのは分かってるけど!」

感情を昂ぶらせ、必死にすがりつく妹を落ち着かせようと、深く抱きしめた。

「ただ人には視えないものを視る明の不安を私は分かってあげられないけど、気をつけるから。明の不安が本当にならないように私が気をつけておくから、明は安心しておいで」

そう言ってひっそりと笑った笑顔は、妹の目から見てもとても綺麗で。
だけどその瞳の奥には揺るぎない決意が見えて。

明は、それ以上何も言えなかった。



何も・・・言えなかった。










END



ファンタジーっぽいです、はい。
でも舞台は日本です(どこだ/笑)
ちなみに「闇月」は「くらき」と読みます。
これまた数年前に書いたものですね。
続きは・・・またひっそりこっそり更新致しますので、よろしくお願い致します(>_<)


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