ほんの一瞬

それだけで恋に落ちた






初恋







梅雨の合間に珍しく晴れあがった空。
それまでのじめじめとした湿気や、空気とは打って変わったカラリとした晴れ具合だった。
教室の窓からその空を見上げた不二周助は、久々に顔を見せた太陽の眩しさに、僅かに目を細めた。


青さが目に焼きつく・・・そんな印象を受けた。


別に梅雨の季節がキライだと言う訳じゃない。
どんな季節だろうとそれはそれなりの趣があって楽しい、と思うし。
趣味の写真を撮ることにだって別に不都合はない。
晴れた空の下でも、曇り空の下でも、雨降りの空の下でも。
ファインダーに収めるものすべてが不二にとっては面白く、楽しかった。


不二にとって、そう、季節なんて自分の世界を面白くしてくれるものでしかない。


頬杖をついてもう一度見上げる。
夏の到来を予感しそうな晴れた空に、くすりと笑みが零れた。










「不二〜待ってよ〜!!」


放課後の昇降口。
不二は、少し泣きそうな声とともに後ろから追いかけてきた影に振り返った。


「ああ、英二」
「んにゃぁ〜〜〜!!待っててってあれほど言ったのに〜!!」
「あはは、ごめん、ごめん。ちょっと考え事をしていたものだから」
「にゃ〜?考え事???にゃにそれ?」
「ん、ちょっとね」
「ふ〜ん、そっかぁ。それにしても今日は暑いねぇ〜」
「そうかな。それほどでもないと思うけど」
「にゃいにゃい、そんなことにゃい!」


不二の考え事に対して、興味津々とばかりに目をきらきらさせた菊丸が、言葉を濁した不二の気配を敏感に察して話題を変えたのが分かった。
普段は好奇心旺盛で何にでも首を突っ込みたがるのに、踏み込まれたくないと思う部分には決して触れようとしない菊丸の、そんな性格を不二は好ましいと思う。
本人にそうとは言ってあげないけれど。


「今日ぉも楽し〜い部っ活だよ〜!ゆっでたっまっごもいい感じ〜〜!」
「英二・・・調子はずれ」


なにおう!と眉間にシワを寄せた菊丸の表情に笑いながら、部室へと足を運ぶ。


毎日と言っていいほどある部活動。
いつだって同じ時間に、同じ場所を通る。
変わり映えのしない日常。
もっとも最近の雨続きの天気では珍しい快晴だったけれど。
今日も同じように足を運んだ。
運ぶはずだった。
けれど。
運ぼうとしたその先に。
見えた白いキャップ。


「あ・・・」
「ああーーー!!おチビちゃん!!おっチビちゃ〜ん!!」


キャップが見えた瞬間、思わず口から零れ落ちそうになった名前。
だけど・・・不二が行動を起こすよりも前に、菊丸が嬉しそうに大きく手を振って前を歩く人物に呼びかけていた。


「・・・なんスか、英二先輩・・・と不二先輩」


そう言って振り返った、つり上がり気味の猫目がかわいいと思う。
ハーフパンツから伸びる、しなやかな少年の足も。
成長を見こんでか、少し大きめのジャージも。
そんなことはまだ成長期に入っていない1年生には当たり前のことだけれど。
何故だか、彼だと他の人間とは違って見える。


「・・・理由は分かってるけどね」
「え?にゃに?にゃんか言った?」
「ううん、言ってないよ?」


越前の下へ駆け寄ろうとした菊丸が、呟いた言葉を聞きとがめたのか、不思議そうに振り返った。
それににっこり微笑んで否定する。
そう?、そう言ってにぱぁーっと笑った菊丸は越前に勢い良くタックルしに行った。


「菊丸ぐれいてぃすとすぺしゃるぅ〜〜〜!!」
「う、うわぁ、ちょ、英二先輩!!」


思いっきりタックルをかまされ、抱きしめられた越前の慌てた顔が面白くて、そして、今日も平和だなぁと思う。


視線を逸らして見上げた空は、どこまでも続く青空。
その青さに吸い込まれるような気がして、瞳を閉じた。


もう少し・・・このままでいてもいいかもね。


ふざける菊丸に呆れたような眼差しを向けたリョーマに、ちらりと視線を送って考える。


いつからこんな気持ちをあの少年に抱くようになったのか。
思えばそれはほんの一瞬のことで。
テニスコートで対峙した時に見せたあの表情。
心の奥まで貫くような、あの眼差しに・・・自分は一瞬で恋に落ちたのだ。


彼を独占したい
自分だけを見て欲しい


・・・あの眼差しを手に入れたい


そう思う反面。
まだ今の、ぬるい関係も捨てがたく思うから。


もう少しこのままで。


「お〜い不二〜早く行こ〜!部活遅れちゃうよ?」
「ああ、今行くよ」
「部っ活〜部っ活〜楽しいなぁ〜♪」
「ああもう!英二先輩いい加減離れてくださいよ!暑いっス!!」
「ええ〜いいじゃん、いいじゃ〜ん?オレのことは日除けだとでも」
「思えません!」
「うにゃ〜おチビのケチ〜、くすん、くすん」


自分を呼ぶ英二の声に返事をしながら、じゃれあう2人の側に行く。
いつもとはどこか違う微笑に、リョーマが菊丸の腕の中から不思議そうに見つめた。


「不二先輩?なんか今日は嬉しそうっスね」
「そうかな?そう見える?」
「見えるっス」
「ふふ、じゃぁ、きっと君達が面白いからだよ」
「なんスか、それは!」


憤慨したように叫び、菊丸の腕から逃れようとじたばたするリョーマの帽子を笑いながらぱふぱふと2回たたいた。


本当はいつもより早く君に会えたから・・・なんて言ったら君はどんな顔をするだろうか?


僕は君のことがすごく好きだから。
君に会えることが、ほら、こんなにも嬉しいんだ。


そう言ったら・・・君はどんな顔をするんだろうね。


じゃれる英二と嫌がるリョーマの声を聞きながら、不二は小さく笑った。







初恋は実らないって言うからね。


しっかり準備しておかないと。


ねぇ、リョーマ君。


その時は覚悟・・・しておいてね?







END




は、初テニプリ〜(汗)
不二先輩を書きたくて書いた話です。ええ、それ以外は何もありません。
でもこれは不二リョv誰が何と言おうと不二リョvv(にっこり)
そして何故か出張っている菊丸(笑)何故だろう・・・一番書きやすい(謎)
私は不二先輩が一番好きなのに、菊丸が一番書きやすいっていうのは・・・ほんと何故?
対して私の大好きな大好きな不二先輩は・・・難しいデスι
話もよく分からないまま始まり、そして終わってしまったし(汗)
はい、精進します!頑張ります!(>_<)


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