夕焼け小焼け

紅い空



黄金に輝く、遠く遥かな山の端に

その日最後の輝きを残し、真っ赤な太陽が沈んでいく



それは部活終了後の帰り道

君と二人・・・並んで歩いた

・・・初めての日





夕焼け小焼け







「ごめんね、遅くなっちゃって」
「いいっス。仕方ないことっスから」
「でも助かったよ、ほんと。ありがとう」



時刻はすでに7時前。
部活終了はいつも通り6時だったけれど
その日、リョーマは不二に頼まれた仕事を手伝っていたため遅くなってしまった。
すでに他のメンバーは帰宅の途についている。


たった二人の帰り道

道行く人影は、微妙な時間のせいかほとんどない。

紅い夕焼けが遠く・・・最後の輝きを放っていた。



「真っ赤だね、夕焼け」
「・・・そうっスね」

小さく呟いた言葉に相槌を打ったリョーマに、ふと思い出したように不二は話し掛けた。

「そう言えば、越前君はどうして夕焼けがあんなに紅いか知ってる?」
「知らないっス。そういう不二先輩は知ってるんスか?」
「フフ、それぐらい知ってるよ?教えてあげようか?」
「・・・なんか・・・その言い方むかつくっスね」

くすりと笑って自分を見つめる不二の視線に、何か含みを感じたのか、リョーマは少しむっとしたように返事をした。
その予想通りの反応に、思わず零れそうになった笑みを隠しながら、不二は続けた。

「簡単なことだよ。空が紅くなるのは、太陽の光が、沈む頃には本当の色を取り戻すからなんだ」
「本当の色?紅いのがっスか?」

首を傾げるようにして聞き返したリョーマに頷いて、不二は笑った。

「ほら、昼間黄色っぽいのは、紅色の途中に青色の空気の層があって、フィルターみたいに遮っているからそう見えるんだよ。太陽が年中燃えている星だってことは越前君も知ってるよね?」
「・・・」

無言で頷いたリョーマににっこり微笑んで不二は言葉を続けた。

「その炎の色が、沈む頃に無くなるフィルターのせいで見えるようになるんだよ。だから夕焼けはあんなにも紅いんだ」
「へ・・・ぇ・・・」
「なんてウソ」
「は?」

感心したように、沈みかかった太陽に視線を投げかけたリョーマに、にっこり笑って真実を言う。

「空が紅くなるのは、光の散乱のせいだよ。垂直に上を見上げた時よりも、水平に見た時の方が光の大気を通る時間が長くて・・・その間に短い波長の光、ようするに青色とかのことだけどね?それは散乱しちゃって、残るのは赤色や橙色とかの長い波長の光なんだ。で、その長い波長である赤色や橙色が、大気中の塵に反射してあんなに紅く見えるんだよ。言わばゴミがあるからより綺麗に見えると言うわけで・・・」

あはは、さっきの信じた?

「〜〜〜〜〜っ!」

にっこり微笑んだ不二に、口をぱくぱくとさせるリョーマ。
その姿が可笑しくてかわいくて・・・不二の心にじんわりとした柔らかな気持ちが浮かんだ。
それは・・・優しくて甘い・・・そして奥底には言い様の無い切なさを含んだ想い。

きっと君は知らないだろうけどね

胸の内でひっそりと呟いた。



「・・・もう知らないっス!!」



からかわれたと分かったリョーマは、憮然とした表情で前を向いて歩くことに専念した。
心の中では、なんでこの人はこうなんだろう・・・と今さら思っても仕方が無いことを思う。

そう・・・いつだってこの不二周助という人物は自分をからかうのだ。
そしてその度にひっかかってしまう自分に呆れて、溜め息が零れそうになった。
寸でのところで飲み込んだその溜め息―――不二に見つかったらまた何を言われるか分からないので―――が気づかれなかっただろうかと、ちらりと横を歩く不二に視線を送る。
だけど、にっこりと微笑みながらこちらを見ている不二の視線に慌てて目を伏せた。

さっきまでのからかいを含んだ視線とはどこか違う・・・優しい眼差し。
初めて見るその眼差しにとくん・・・と心臓が音を立て始めたのが分かった。

・・・いきなり反則じゃない?そんな顔。

一人でどきどきしている自分に言い訳のように思う。

とくん・・・とくん・・・とうるさいぐらいの心臓の音。
赤く熱を持ち始めた頬が、夕焼けに照らされ、そうとは分からないことにほっとする。

「越前君、どうかしたの?」
「な、なんでもないっスよ!」

優しい声に、自分の心の内を見透かされたような気がして慌てたように答える。

でも。
きっと不二には分かっているのだ。
自分のことなど。

もう一度不二にそっと視線を向ける。
向けようとした。

だけどそれよりも早く・・・視界に移った赤く輝く茶色の髪。
え・・・?と思う間もなく、リョーマはその次に起ったことに呆然とした。
そして何が起ったのか分かった瞬間、リョーマの頬は、夕焼けだけでは説明できないほど赤く染まったのである。

「な、なな何するんスかっ!!!」
「キスだけど」

唇を手の甲で覆い、思わず叫んだリョーマに、不二はにっこり笑って答えた。
上目遣いに睨む、リョーマの目元まで真っ赤に染まっていることにちょっとした満足を覚えながら続けた。

「だってあんまりかわいいから」
思わず・・・ね?

「思わずって・・・!先輩!!」

憤慨したように照れたように叫ぶリョーマの瞳を覗き込み、不二は真顔で囁いた。

「イヤだった?」
「え・・・?」
「ボクはイヤじゃなかったんだけどな」
「イヤじゃないって・・・」
「ボクは越前君のことが好きだから」

さらりと紡がれた言葉にリョーマは瞳を見開いた。

ナニイッテルンダ、コノヒトハ

そんな言葉を飲み込んでしまうほど、不二の眼差しは真剣で。
気圧されたようにリョーマは、ただその眼差しを受け止めることしかできなかった。

「ねぇ、越前君は?越前君はどう思ってるのかな、ボクのこと」

柔らかな声がリョーマに答えを求めている。
だけど。
その声が少し震えていたような気がするのは自分の気のせいだろうか。
確かめるように、真剣な色を湛えた瞳を見つめ返した時。


その時。
唐突に分かってしまった。

アア、コノヒトノコトガジブンハトテモスキナンダ

理屈なんかじゃない。
そう、心で感じた。


今まで誰にも抱いたことのない気持ちを自覚した途端、リョーマは笑っていた。
誰もが惹きつけられる鮮やかな微笑み。
それに見惚れた不二の唇に己の唇をそっと重ねて呟いた。

「これが答えっスよ、不二先輩」

リョーマからの突然のキスに驚いて瞳を見開いた不二は、次の瞬間今までに見たこともないぐらい優しく微笑んだ。

「それって自惚れてもいいってことかな?」










それは部活終了後の帰り道

君と二人・・・並んで歩いた

・・・初めての日










END




夕焼けネタって好きです。なんだか書いていて楽しいのですよ。
だからNARUTOでも夕焼けネタがけっこうあったりして(笑)
しかしそれにしても・・・不二先輩書くの楽しいですね!!
こんな不二先輩が私は好きなんですが・・・皆さんは如何ですか?
もちろん真っ黒なのも大好きですよ?
というかどんな不二先輩だって大好きですが(笑)
ちなみにこの最初に出てくる「手伝い」ですが、実は不二先輩のちょっとした策略です(笑)
リョーマと一緒に帰れるように手を回したというかなんというか・・・。
まぁ、一応灰色な不二先輩目指しているので、そんな裏設定があるのでした(笑)


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