─────失う、ことだけを。 あなたは、覚えてゆく、つもり─────・・・・・・? 願い事、ひとつだけ〜謎〜 知りたい、ことがある。 知らなければいけない、ことがある。 知るべきだと思う。 それを知らなければ、前に進めないような気がするから。 月を、見ていた。 月は、好きだ。 なんとなく、安心する。 たまに、まがまがしいほどの朱に不安になるけれど。 また。彼女がよく見ていたからか、そうではないのか・・・・・・月は彼女を思い出させる。 ─────そして。 「フリックさん」 『フリック』 「どうしたんですか?」 『どうしたの?』 三年前に別れたきりの・・・・・・彼のことを。 この、少年は。 彼に、よく似ている。 親友を取り戻したいと願う彼ら。 違うのは。 彼は、今まで抱かれ、守られてきたすべてに背を向けねばならなかったこと。 彼は、実の父とまで敵対せねばならなかったこと。空気のようにいつも一緒にいた付き人を失ったこと。(もっとも彼は後に戻ってきたが・・・・・・) そうしてまでも取り戻そうとした親友の命をその手で奪わねばならなかったこと。 ─────そして。 彼女の死に目に居合わせ、後を頼まれてしまったがゆえに自分の的外れな恨みまで背負うような目にあったこと。 最後の、あの夜。俺が自分をかばうのを、死にそうな顔で見つめ。 先に行けと促すのに彼女の名を口にすれば一瞬泣きそうな表情になった。 思えば彼の付き人が戻ってから後、ほとんど彼がそばにいた記憶がなく。 彼が、戻ったのが彼女でないことを、気にして心を痛めていたことに。そのときになってようやく気づいた。 彼女の死は、彼のせいではなく彼が自分を責める必要など、どこにもなかったのに。 そのとき。ああ、どうしてもこいつを守りたいと。 そう、改めて強く思ったのだ。 身体だけではなく、心も。 その、贖罪というわけではないけれど。 今、居所のわからない彼の身代わりというわけでもないけれど。 この、彼によく似た少年だけでも幸せになって欲しいと思うのだ。 「懐かしいヤツを思い出していたんだ」 「それってもしかして、その、剣の・・・・・・」 「それもあるが、もう一人。・・・・・・お前によく似たやつだよ」 「ボクに?」 「ああ・・・・・・」 きょとんとする盟主に笑う。 そして。 「なあ・・・・・・」 「・・・・・・なんですか?」 「お前は、泣いてくれよ?」 「え?」 「お前は、泣いてくれよ? 泣きたいときには。・・・・・・そのために俺は・・・・・・俺たちは、いるんだ」 彼は、泣かなかった。 彼らを失ったとき、どんなに悲痛な声で彼らを呼んだとしても。 それでも、自分たちに見せる顔は、『リーダー』としてのそれだった。 彼女を失った俺の八つ当たりを当然のように受け止め、けれど誰を失った悲しみも苦しみも誰と分かち合うでもなく、一人で抱え込んだ。 そしてその大切な人間を失った相手さえ、許して見せた。 後悔があるとすれば。あの時どうしてもっと彼がリーダーになることを・・・・・・『彼にリーダーを押し付ける』ことを、『背負わせてしまう』ことを、もっと反対しなかったのかということだ。 彼から彼自身を奪ったこと。それが俺たちの最大の罪。 それに気づいたときにはもう投げ捨てろとは言ってやれない状況で。 彼をリーダーと認めることしか。そうして少しでも彼の力になる道しか。 自分に出来ることなど残されてはいなかった。 そして俺がそれさえ拒否してしまったならば。いったい彼は何を得たというのだろう。・・・・・・そうすることが、彼にとって救いとなりはしないこともまた、わかってはいたけれど。 「強い、方だったんですか?」 「どうだろうな。俺が知らなかっただけかもしれない」 「・・・・・・大切な方だったんですね」 「・・・・・・そうだな」 大切。あのころはそんなことなど思いはしなかったけれど。 「リーダーらしくあれ、とは。俺は言わない。そんなことは考えなくていい。お前の望みがあるならそれを貫け。・・・・・・後始末なら、いくらでもしてやるから」 ─────別にアイツの代わりだとかそういうつもりじゃないけどな。 「なかなかお会いできない方なんですか?」 「・・・・・・さあ。生きてるとは、思うんだけどな。しばらく、会っていない」 会えたなら。言いたいことがあるのに。 「お会いできると、いいですね」 「・・・・・・そうだな」 あのころ。 失うばかりだったあのころ。 お前は何を思ってあそこにいた? どうして失い続けてなお、あそこにとどまった・・・・・・? どうして。そんなに強くあれた? お前に会ったなら。聞きたいことが、たくさんあるんだ。 なあ、リーダー・・・・・・? そして彼らは再び出会う。 故郷に近い、小さなのどかな村の片隅で。 ─────今更意味はないのだとしても、少しでも、伝えたくて。 だって、心が痛むから、そう叫ぶから─────・・・・・・。 END
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