ぽたり

ぽたり・・・・


腕の傷から流れ落ちる赤い色は
白く細い腕に、道を作る。

だが、それも束の間・・・。

道は跡になり、雫は紅い水溜りを作る。

紅い色の源は・・・・すでに消えている。


傷が生まれ、消えていくのをじっと見ていた。

ケッコー、深く切ったのになぁ・・・。

ぼんやりとそんなことを思っていた。
最近、自分を傷つけたくなる衝動に駆られる。
それを止める事は出来なくて、また今日も切った。


        声無き声 


座り込んだ床に広がる紅い色の中に、赤の染み込んだ刃物が広がっている。


異形のカラダ。


たまらなく、自分がイヤになる。

自分のナカに潜んでいる強大な力に憎しみを覚える。

それでも現実は変わってくれない。
どんなに願っても、ナルトの思い描いた自分は現れない。
知らずに下唇を噛んでいた。

ブチ・・・

指を当てると赤い血がついていた。



暗い世界に光はなく。

静かに聞こえる風の音。



『また傷つけているのか・・・?』

暗い部屋に静かに聞こえるカラダからの声。

「・・・カンケイないってば・・・」

声変わりもまだ終わっていない、中性的な声に感情は篭っていない。
ただ答えるだけだ。

『関係ないわけはないだろう・・・、お前は大事な子供だ』

「・・・・誰にとって?」

『ワタシにとって・・・・あとは・・・』

「あとは・・・?」

『・・・お前の担任だ』

「イルカ先生?」

『ソイツもだが・・・あとヒトリいるだろう?』

「・・・・・」

『・・・・・』

「・・・違うってば・・・カカシ先生は・・違う・・・」

『・・・そうか?』

「・・・違うんだ・・カカシ先生は・・・」

『・・・・仕方がない・・・』

「・・・何だってば・・?」

抑揚のない声に返ってくる言葉はなかった。
不思議に思い、何度も問いかけるも結果は一緒だった。
ため息をつくと、コトリと寝転ぶ。

腕の傷も、唇の傷も、傷はまったく残っておらず綺麗な肌になっている。

いくら自分の存在を証明しようとしても、それはすぐに消えてしまう。
まるで否定されてるみたいに・・・。

カラダの声も、言葉をかけてくれず本当に一人になった。
寝てしまおう、そう思って目を閉じる。

目を閉じれば、そこは真の闇だった。

       * * * *

いつもの本を読んでいると、ふと風が顔を掠めた。
窓は開けていないはずだ・・・。

窓の方を見やっても、鍵も掛かっている。

何だ・・・?

ぞわり、と耳元が総毛立つ。

『・・・おい』

それは深く深く低い声だった。
耳元で聞こえた声は、直接脳へと伝わる。

振り返ってみても、誰もいない。

緊張を高め、周りに気を配る。

『・・・無駄だ・・・』

「・・・っ!!お前っ・・」

それでも直に伝わる声に、思いたくもない相手を思ってしまう。

九尾・・・。

『・・・やっと気づいたか・・・』

「何の用だ・・・」

今だ緊張をとかず、耳元での声にカカシは返答を返す。
その姿が滑稽だったのか、クスクスと笑う声が返ってくる。
癪に障ったのか、カカシは眉根を寄せる。

『・・・あのコが大変なんだよ・・・』

静かな声は淡々と、言葉を紡いでいく。  

『あのコのトコロに行ってやれ・・・』

「あのコ・・・ナルトか!?」

『他に誰かいるか?』

「ナルトがどうした!?」

焦りが浮かんでくる。
九尾はナルトから、離れる事は出来ないはずだ。
それでも意識をカカシのトコロへ飛ばしてくるほどだ。

『行けば判る』

言い残し、耳元の声は去っていった。
同じ時にカカシは家から消えていた。

       * * * *

ふと、目が覚めた。
ゆっくりと起き上がると、目は闇に慣れうっすらと周りが見えた。

今、何時なんだろ・・・

明かりをつけようと手を伸ばす。
伸ばした手は誰かによって、遮られた。

誰・・・?

「なぁにやってんの?」

それは、聞きなれた声だった。
耳に心地よい声。

同時に恐怖を覚える声。  

「カ・・カカシ先生ぇ・・・?」


夜目でもはっきりと顔が判るほどに、近づかれた。
思わずカラダを逸らす。

「何で・・・いるんだってば・・・?」

震えそうになる声で問うと、う〜ん?と間延びした答えが返ってくる。

「お前のこと心配してるヤツが、教えてくれたんだけどね」

ナルトは、ぬるっ、とした感触に顔を顰める。
引き寄せたカカシの手は濡れていた。

「何で、コンナコトやってんの・・・?」

低い静かな声は、微かに怒気を含んでいた。
喉に声がつまり言葉にならない。

「・・・ねえ・・何で・・・?」

額あても、口布もしていないカカシの表情は、いつになく感情を表に出している。

「・・・あ・・あの・・・」

やっとのことで声が出ても、言葉となって続かない・・・。

「いつから・・・?」

ナルトの腕を掴んでいた手を離し、手に染み込んだ血を見る。
床に溜まっていたナルトの血だ。

「あ・・・わかんな・・い」

「フゥン・・・」


何で、カカシ先生を呼んだんだろう・・・。
泣きそうになりながら、九尾のことを恨む。

「心配するデショ・・・?」

「・・・ぇ?」

「ちゃんと言ってくれなきゃワカンナイし、こんなことしちゃいくら回復しようってたって
血足りなくなるよ?」

こんなに流して・・・


カカシは床の血溜まりに再度、手を伸ばす。
幾分固まっているようだが、量が量だけにまだ液体のままだ。


「俺・・・俺がワカンナイってば・・・」

すでに涙声だ。
それでも懸命に喋ろうとするナルトを見守る。

「俺って何なんだろうって・・・思うんだ・・・。俺ってば九尾のイレモノだし・・・
ミンナ・・・俺を見てくれないし・・・っく・・ソンザイってのが・・・ない」

ボロボロと涙を零しながら言ってくるナルトが、あまりにも痛々しくて・・・

「・・・先生だって・・・っふ・・・。俺を見てない・・・ってば・・」

監視役として任命された自分。

そんな自分に気づいていた、小さな子供。


抱きしめたカラダは、硬く強張り肩を揺らしていた。

「先生は・・・違う・・・」

ひくっ、と喉を鳴らしカカシから離れる。

「何が・・・・?」

「先生は・・・俺を見てないじゃない・・・」

「見てたよ・・・?」

「嘘だってば・・・」

泣き止みそうにない、目の前の子供を再度引き寄せる。
目線を合わせて、ゆっくりと喋りだす。

「お前、毎日頑張ってるじゃない・・・。認められようと頑張ってるデショ。
ちゃんと知ってる。ちゃんと見てる」

「それは・・・」

強情な子供は、言葉を素直に受け取ってくれない。

「まぁ、監視ってのもあったけど・・・ちょ〜っと違うから」

「・・・?」

「気になるコには目がいくってヤツ?」

ニッコリと笑ってやると、大きな蒼い目は更に大きく開かれた。
意味がわかっていないらしい。

「・・・!!」

「判った?」

それでもいまいち信用してはいないらしく、顔を真っ赤に染めながらも
腕の中で緊張をまだ解いてくれない。

時間かかるかなぁ・・・
まぁ・・・そのほうがヤル気でるケド・・・

「言いたい事があったら、オレに言いな?全部ちゃんと聞くから」

言えば、コクリと頷いてくる。

「だから・・・自分傷つけるなんてのはヤメようね?」

「・・・うん・・わかったってば・・・」


微かな声で、返された言葉に安堵し抱きしめてみる。

このコの心が

ちゃんと開かれますように・・・。


柄にもなく願っていた。     












『Suitable』のナノヨさまから頂きました。
キリ番333hitのリク小説なのですが・・・実は棚ぼたGETだったりします。
それでもリクを受けつけてくださったナノヨさまにはお礼の言葉がありません!!

ナルトの自分の存在についての考えに涙して・・・
そんなナルトに優しいカカシ先生の言葉に涙して・・・
読んでいてきゅんってくるようなお話でした!!(>_<)
切なくて・・・でも最後は優しくて・・・まさにリク通りです!!
ナノヨさん、本当にありがとうございました〜vv(^^ゞ



ブラウザのバックボタンでお戻りください。