「あ・・・っつ〜・・・あっつ〜〜」

部屋のどこに転がっても熱気は変わらないのだが、ついゴロゴロと転がってしまう

「なんで・・こんなに暑いんだって・・・」

そんなどうしようも出来ない愚痴をタラタラと零し、ため息と同時に「あっつ〜」と吐いた

窓も ドアも 全て開けっ放しているのに、この部屋の中では空気の流動はなく

ただただ、窓からは太陽の熱い光が注ぎ込まれている

それを横目で見ながら、また大げさにため息を吐いた



ここ最近、こんな暑い日が続いている

近年に無いくらい連続した夏日

それによって体調を崩す里人続出で、火影もてんやわんやである

そしてナルトも例に漏れず、体調を崩したのだった・・・

大事ってコト

お〜いっ!休憩〜っ!」

夏は生命の息吹が盛んになる時

人も、草も、木も活発になる時

生と死が隣り合わせで育まれる

――――本日の任務:草むしり

「もー汗ダラダラっ!」

「暑い・・」

サスケの言葉にとりあえずカカシは突っ込みを入れた

「そりゃ、ハイネックだからじゃないの?」

「・・・」

「何言ってんの先生っ!これがサスケ君のトレードマークなんじゃないっ!」

(でも、サスケ君のうなじってのも見てみたいわよねぇ)

勿論、サクラの声が聞こえたわけではないだろうが、サスケは不信そうな顔でサクラを見つめた

「ねっ?」

「・・・マークって言うか」

「はいはい。それが好きなんだよねサスケは。さ、昼ご飯にしよう」

適当にあしらって、カカシは2人を木陰に追いやった

「・・?」

そして、ナルトが居ない事に気が付いた

「お〜いナルト〜?」

ゆっくりゆっくり近づいてくるナルトに声を掛ける

ヒョイとその声に反応して顔を上げたナルトはとても青白い顔で、笑顔を零した

「早く来ないとメシ、食いっぱぐれるぞ〜?」

こう言えばナルトは慌てて走ってくる―――はずなのだが・・・

視線の先に居るナルトはゆっくりとした歩みを速めることはない

それでもサクラが用意をしてサスケが箸を付けるまでには辿り着いた

「ふぃ〜・・あちぃーってばよ」

埃を立てないように座り込み、サクラがよそってくれたご飯に箸を付けた

「・・あー、せんせぇ・・オレ明日から飯 家で食ってきていい?」

「ん?あぁ別に構わんが。何で?」

「時期が時期だからさぁ。朝飯の残りとか夜にはやばいんだよね。昼には無くならせたいって所」

一人暮らしゆえの難問

「じゃあ、朝飯 丁度に作って残さなけりゃいいんじゃない?」

「毎回毎回作んのってメンドイじゃんか」

「そりゃそうだ」

ナルトの言い分に納得するカカシ

「分かった。明日からはナルト分の昼食抜きで頼む事にするな」

「ん。よろしくって」

そう言って、少しだけ食べた食事をサスケに渡し、持参のお茶に口をつけた

「・・もう食わないのか?」

自分の皿に盛られたおかずを見ながら、ナルトに問い掛ける

「ん〜?あぁ、朝飯いっぱい食いすぎたんだって」

ゴクリゴクリと喉を鳴らし、しかめっ面で空を見上げる

太陽の光に目を細め「あちぃ・・」と零す

そしてゴソゴソと移動し、休憩が終るまでナルトは幹に背を預け休んでいた



******************************



「お疲れサマ。今日は暑かったねぇ〜?水分補給をしっかりして明日も頑張ろうな」

シュタッと片手を上げて、カカシは走っていった

明日の忍務は今日の残り

「ほんっ・・と、今日は暑かったわよね・・あ〜・・体ドロドロ」

シャツの裾をパタパタと動かし、空気を動かす

「風呂入ってさっさと休んだ方がいいな・・」

喉もとの衿を指で引き下し、心底ダルそうな顔でナルトを見る

「ん・・も、帰ろってば・・・」

口を動かすのも億劫な様子で返事をする

ナルトのその言葉で、合図のようなため息を3人吐いて帰路につく






夕陽がやけに紅い

夕陽だけではなく、木も土も雲も 全部が紅く染まっている

「何か・・」

脱水症状一歩手前の鈍い頭で、この情景にピッタリの言葉を探す

「恐い位・・・綺麗なソラ」

肌が粟立つような 喉の奥からにじみ出てくる恐怖

鈍痛の激しい頭に 水面に乱射する紅い光が刺さる

「あっつ・・」

後ろに伸びている自分の影も少し赤み帯びていて、それが普段と違うから少し恐い

感じ始めた恐怖は中々治まることはなく、暑いのに少し体を震わせて家路を急いだ


家に着く頃には太陽は沈んでいたが、それでも狂ったような紅い光は遠くの雲を染めている

「・・・・」

背後から迫ってくるような恐怖に対抗するようにゆっくりと鍵を開ける

ガチャ・・

そして紅い光から逃れるようにスルリと急いで家の中に入った

モワ・・と熱気が迎えてくる

「ぅあ・・つ・・」

薄暗い部屋の中で電気を付けるわけでもなくナルトは風呂場へと直行した

水を浴びて部屋に戻り、ふと窓の外を見ると何処にも紅い光は無く、微かに光る星が瞬いている

その窓に人影が過ぎった

「?」

ゴンゴンゴン

ドアが鳴る

「?」

動く気力は無いが、町内会費とかだったら困る

ゴンゴンゴン

「・・・ぅい〜っす」

ノロリノロリ 這うようにドアへと向う

「ん・・しょ」

ノブに手を伸ばしたその瞬間 ―――――

―――― ゴンッッ!!

「お?」

「いって〜っっ!!」

気力が無いのも忘れて、打った頭を抱え込む

「何だ今の?」

ヒョイと顔を覗かせたのは担当上忍カカシ

ゴロゴロ転がるナルトとドアを交互に見て「あぁ」と納得顔

「悪いね〜ナルト」

悪びれもせず言うその様が憎たらしい

「うぅ・・悪いなんて思ってないだろ〜?」

床で転がっているナルトを見下ろし、肯定の意を込めて頷く

そしてナルトをヒョイと抱え上げ、そのまま家を出ようとする

「む?せんせぇ?せんせぇ?」

「ん〜?」

「どこ行くんだって。ってか、何か用事?」

ジタバタ動きもせず、コテンとカカシの肩に顎を乗せ問う

「ま〜、何て言いましょうかねぇ」

「?」

「とりあえず、移動移動」

外に出ると昼とは違った熱気

「う・・・あつ・・」

カカシに抱きかかえられてる分、余計に暑く感じる

「・・移動・ってどこに?」

水浴びした効果も薄れてきて、どんどん頭の奥が鈍い痛みを発してきた

「俺ん家」

「へ?せんせぇんち?何で?」

どっちかと言うと、その問答すらどうでも良くなってきているのだが

自分が夏バテしてるなんてばれたら、自己管理のなってない証拠だと怒られる

「何で?ナルトは分かってんじゃないか?」

ヒョイヒョイと少し早足で歩くカカシ

そのおかげで生ぬるいにせよ風を感じることができ、少しは涼しい

「え〜?分かってないってば」

「・・・・ホント?」

ピタッと足を止めてナルトを降ろす

「本当の本当に分かってない?」

しゃがみ込まれ目線は同じ高さ

「う・・・?」

鈍痛の酷くなる頭で考える

どうしても思いつかない

今日の忍務はとりあえず何もヘマやらかしてないはずだし。

明日の忍務の事だってちゃんと聞いてたし。

「?」

何度も首を傾げるナルトに駄目だと悟ったのか、カカシは口を開いた

「ナルト、夏バテ しちゃってるでしょ?」

したくてするものでもないが、言い当てられて一瞬目を見開く

「ね?」

「・・・ちょっとだけだってば」

自己管理が出来てないと怒られる前に、微妙な言い訳をするが通じず

「ちょっと?ちょっとってのは1ヶ月も続きません」

「!」

「あのな〜・・一応、担当上忍ですので?部下の体調状況くらい分かりますって」

怒った顔でもなく、笑ってるわけでもなく。

どうしたもんかな・・みたいな表情

「・・・ごめんなさい・・・」

「あやまんなくてもイイデス」

「でも・・」

「どうやって治せばいいのか分かんないだけなんデショ?」

カカシの言葉にコクンと頷く

「飯、食わなきゃ駄目だって分かってても、喉 通らないんデショ?」

再度、頷く

「俺ん家で治せばいいよ。夏の間、泊まってね?」

その言葉に気が緩んで・・・

「・・ナルト?」

俯いてしまったナルトの顔を覗き込むと、嬉しいような 泣きたいような顔

「どうした?」

「ありがと・・せんせぇ」

カカシの首回りにキュッとしがみ付いた



暑いけど心地いい



そんなナルトの背中を優しく叩いて「どういたしまして」と呟いた

「じゃ、行きましょうか」

そして、ナルトを抱え上げカカシは歩き出した

カカシの肩に抱えられてまるで荷物扱いだが、それでもナルトは嬉しさがこみ上げてくる

具合が悪いのを気づくくらい見ていてくれた事

担当上忍ですので?という言葉があっても嬉しかった

火影にも、イルカにも相談できなかった夏バテ

ユラリユラリぶら下げている手を揺らしながらもう一度、小声で「ありがとう」と呟いた






数分後、カカシの家に辿り着いたナルトは部屋の2/3を陣取っているある物に度肝を抜かす

「ぅわっ!?何だってコレッ!!」

カカシから降りると急いでそれに近づく

「せんせぇ?コレ何?」

後ろを振り仰ぎ、カカシに問い掛ける

「ハンモック」

ナルトのストレートな反応が嬉しくて、完結に答えてみる

「はんもっく?」

「そ。ベッドだと熱気がこもって暑いデショ?だからこれ」

ヒョイとナルトをハンモックの上に乗せる

「ぅわ・・うわっ!?」

網目に足を取られ、背後にいるカカシに倒れこむ

「っと・・気を付けて」

そう言ってカカシはナルトを降ろし、ハンモックの真ん中に縄を1本通した

「こうすれば窪みがふたつ。こっちがナルト、こっちが俺」

「おお」

「んで」

よいしょとカカシは布団を窪みに置いて行く

ナルトは淡い緑色のシーツに包まれた敷布団

カカシは白いシーツに水色の縦じま模様の敷布団

「はい。これで終了」

そしてもう一度ナルトを布団の上に乗せ「ど?」とナルトを見つめた

「ユラユラしてるって」

「そ。気持ちいいんだよねぇ」

「そっかvvじゃあ寝てもいい?」

「あれ?夕飯は食った?」

その言葉にキュッと口を噤む

「・・食ってないナァ?」

「・・・」

何も言わないナルトの頬を指で挟み、考える

「どんな感じの食いたい?」

「どんな・・って」

何も食いたくない――と言外に。

「ツルツルしたのとか、ドロドロしたのとか。サクサクしたのとかさ」

その単語にナルトは首を傾げる

「?」

「い〜んだよ、擬音で。どんなの食いたい?」

挟んだ頬をミューンと引っ張れば、伸びる伸びるナルトの頬

「ふはははvvやーわらかいねぇ」

「ぅエ〜!はにゃせ・・ってまぁ」

カカシの腕を掴むが上忍には敵わず(そりゃ当たり前)

「ホラホラ。どんなの食いたい?」

「うぅぅ〜?・・・・・いおけがあっちぇ・・ぅえたくちぇ・・うあいぉん」

「・・・・暗号?」

カカシの容赦ない言葉に暴れるナルト

「ごめんごめん!も、一回」

「塩気があって冷たくて美味いもんっ!!」

少し赤味がかった頬をさすりさすり、睨みながらカカシに答える

「塩気があって?冷たくて?美味いもん・・ねぇ」

顎をさすり頭にあるレシピをパラパラめくる

「ん・・と」

そしておもむろに冷蔵庫へ歩き、中身を確かめる

ゴソゴソとキャベツを取り出しもう一度考え込んだ

「ん〜・・・そんなに食えないでしょ?」

「あ?うん・・デス」

「じゃあコレ」

そう言ってカカシはキャベツを茹でて氷水で冷やし、ごま油と塩と擦りゴマを振りかけてドンッとお皿に盛る

「即席キャベツサラダ」

「いっぱいあるってば・・・」

器いっぱいに盛られたキャベツとカカシを見比べる

「ん?大丈夫大丈夫。茹でてあるから食いやすいし、サラダ感覚だから楽だよ」

そんなカカシの後押しにゆっくりと箸を伸ばす

「・・・・んまい。コレせんせぇうまいってば」

口に入れる前から香るゴマの香りと、口に入れた瞬間の冷たさと、口腔に広がるゴマの風味

「そ?よかったよかった」

「せんせぇコレ、作り方教えて?」

「作り方って・・ってもなぁ?茹でて冷やして混ぜるだけなんだが・・」

カカシの言葉に、さっきの調理法を思い出した

「そーだったって・・・」

「ま、本当はこれにプラス飯があればいいんだが。それはもうちょっと気力が回復してからな」

「ん」

確かにこのサラダは美味いけれど、プラス飯・・と言われたらもういっぱいいっぱいである

「よし!食ったら風呂入って寝ようか」

「え?あ、オレ風呂入ったって」

言った瞬間 首筋を撫でられた

「ひゃっ!?」

「汗かいてるし?」

「せ・せんせぇっ!」

「入ったにしても、も 一回入ったらど?」

「う〜」

「ぬるめのお湯だし、香のイイお茶持って入ってさ」

「・・・」

「ん〜・・・じゃ、一緒入る?」

ニヤリと窺い見るような目つきで。

「っ入んないってっ!」

慌てて風呂場へと向う

その後姿をニヤニヤ見つめながらテーブルの上を片付けた

「か〜わいいねぇ」











「ふ〜、気持ちよかったってばぁ」

頭を拭き拭き、頬を紅潮させてナルトが上がってきた

「どうだった?」

ハンモックの上からナルトを見下ろし、ナルトの持っているコップを受け取った

「結構長く入ってたけど」

「ぬるくて、ずっと入ってても良かった位 気持ちよかったvv」

ニコッと笑顔を零す

それは昼間見た笑顔とは全く違う 見る者を惹きつける笑顔

「そ・・っか。それは良かった良かった」

「んvv」

「じゃ、俺も入るかね」

ハンモックから降り、ナルトをハンモックへと乗せる

「も、寝てていいから。ゆっくり休みなさい」

コロンと横になったナルトのお腹に薄手の掛け布団を掛けてポンポンと軽く叩いた

その感触が初めてで、一瞬目を見開くが直ぐに照れたような笑顔を零す

「分かったってばvv」

ナルトの笑顔についつられて笑ってしまう

そして半乾きの髪にゆっくりと手を伸ばし、ナルトの頭に額を寄せる

「?」

コツン・・

カカシの片目が目の前にある


ぅわ・・せんせぇの目ん玉 キレェだってば

こっちの隠れてる方はグルグルのがあるんだよなぁ


そ・・っと目に当てられている額当てに触れる

ひんやりしてて心地よい

「ナルト」

カカシの形のよい唇が小さく動く

「ん?」

「・・・いや、風呂入ってくるな」

「うんvv寝てるってば」

ナルトの返事にもう一度軽くオデコを当てる

コツン・・

「じゃ」

後ろ髪を引かれる思いで風呂場へと向う

ガラララララ

「・・・・」

自分の手を見下ろしながらため息を吐く


こりゃマイッタね。あんな笑顔 反則デショ?

風呂に入って上気した頬

風呂で飲んだお茶の香り

熱を帯びたようなあの瞳

傷つけてしまいそうになる

俺の醜い欲望で――


ナルトの体臭の残る風呂場でカカシはもう一度ため息を吐いた

水で体を冷まし、水で頭を冷やし、気合を入れて風呂を上がる

後はただ寝るだけだというのに。


居間に戻り、恐る恐るハンモックを見ると規則正しい寝息をたててナルトが寝ている

「ふぅ・・」

入れていた気合を霧散させ、首を鳴らしながら冷蔵庫へと向う

冷たい水を取り出し一気に飲み干した

同時に、自分の醜い感情を押し流した

「・・・・」


夏の間・・って言っちゃったねぇ?

ヤバイヤバイ


チロリと寝ているナルトを見る

少しこけた頬

小さく動く唇はカサツイてて

掛け布団からのぞく足は通常のそれよりも細くなっていて

「こんな子にナニするっての」

自分自身に戒めを掛け、ゆっくりと近づいて柔らかな髪をそっと――撫でる

「ん・・」

そのでかは分からないが、ナルトがコロンと横向きになった

「!」

ナルトの細い腕が体の下に潜り込む

大丈夫なんだろうけど――

「ヨイ・・ショ」

ナルトの体勢を整え、一頻り息を吐く

「・・せ・・んせ?」

出された腕で眼を擦りながらカカシを見上げる

「ん?起きちゃったか?」

トロンと半覚醒の目は焦点があっておらず、ユラユラと動く

壊れた操り人形のように腕をカクンと挙げて、カカシの腕を掴んだ

「なんで・・せん・・せ」

「?」

「ぃ・・は・・やさ・しく・・してく・・れるの?」

寝ぼけているナルトに掴まれている腕はとても熱く。

簡単に取れそうで、でも取れなくて。

ナルトの腕がカカシの腕を掴んだまま―――落ちた

言いたい事が言えた安堵感からか、ナルトはすでに夢の中

そっ――と、ナルトの指を外して布団にしまいこんだ


・・・なんでって・・俺にだって解からない事はあるんだよ

自分の事なのにね

ただ、今さっきだけどはっきりと感じた事はある

はっきりと――真直ぐに伸びる木の様な感情


布団をポンポンと叩きながら先ほどのナルトの問に答えるように囁いた





「唯一無二の存在・・だからじゃない?」












『moonlit water surface』のアキラさまから頂きました。
キリ番12121hitの代理リク小説なのですが・・・実はこれまた棚ぼたGETだったりします。
快くリクを受けつけてくださったアキラさまにはお礼の言葉がありません!!

夏バテしたナルトを優しく見守るカカシ先生。
格好良いですね〜vvどきどきしてしまいます!
二人の間にあるなんとも言えない雰囲気がとても素敵ですvv
アキラさんの書かれるお話のこんな雰囲気が、私は大好きだったりするのですよvv
アキラさん、素敵なお話本当にありがとうございました〜vv(^^ゞ



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