quencher



[ prologue ]





本当に馬鹿な奴だ。



カミューは一人呟いた。

決して彼のことを深く知っている訳ではない。
外見通り生真面目な彼は酷く不器用な生き方しか出来ない男だ。
時折彼が無意識に浮かべる表情に痛みを感じる時がある。
それでも彼の纏う空気は穏やかで心地良く、触れていたいと思わせるのは自身の素直な感情で。
こんなにも彼に嵌まり込んでいる己を自覚し、意味も無く天を仰いだ。

一点の曇りも無い晴天。
その清々しさがカミューの両眼をきつく灼いた。
目を閉じても瞼の裏に赤が鈍く残る。

彼が色々隠そうとしている事情は大方予想がついていた。
お伽話だと割り切るのでなければだが。
しかし本心から言えばそんなことは些細な事でしかなかった。

自分が彼の存在を欲している。只それだけだ。

己の醜い執着心を彼は一体どんな顔をして受け止めるのだろう?
清廉な彼の面差しを脳裏に描き、くすりと自嘲気味に笑った。
どんな事情があろうと、今更彼から離れることなど出来るわけが無いのだ。

カミューの心は決まっていた。



空は相変わらず青く、陽の光がカミューをじりじりと照り付けていた。










→act.1




「quencher」ようやく連載開始です。
頑張れ、青柳!続きは君の肩にかかっている!(笑)


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