花咲ける日々



[ act.1 ]





 カミューにとってその日は忘れられない日になった。





「よお、カミュー!どうだ?今夜あたり一緒に・・・」
「遠慮しておきますよ。今週は急ぎの仕事が多いもので」

 溜め息を吐いて目の前の書類を見せれば、そうかと頷きあっさりと引いた男、ビクトールにカミューは笑った。彼は、部署は違えど、何度か一緒に仕事をこなしたことがあり、その剛毅でいてさっぱりとした性格が人嫌いな自分にしては珍しく気に入っている人間の一人であった。
 実際、ここまで仕事が立て込んでいなければ飲みに行くのも悪くないと思う。ビクトールと飲む酒は後腐れがなく、すっきりとした気持ちになれるからだ。しかし生憎と今は忙しい。この眼前にある計画書を纏め上げなければ、来週月曜日のプレゼンテーションはありえない。今日は金曜日。土日の休日を心安らかにするためにも、今夜は帰れないだろうと思った。
 大変だなと肩を竦め、頑張れよと肩を叩き立ち去るビクトールに軽く手を振り再度パソコンに向かった。
 液晶画面の光が、カミュー以外誰もいないオフィスの暗がりを仄かに照らしている。しん、と静まり返る中、カタカタとカミューの文字を打つ音だけが響いていた。

「よし、あともう少しだ」

 ビクトールが帰ってからどれぐらいの時間が過ぎたのだろう。ようやく最終段階へと入った計画書に、つい頬が緩んだその時。液晶画面にノイズが走った。あ・・・と思う間もなくジジジっと真っ暗に落ちた画面にカミューは固まってしまった。

「・・・う・・・っそだろう?」

何てことだ。バグか?それともウイルスか?何だっていい、中の計画書はどうなったんだ?一瞬のうちに冷水を浴びせられたような感覚に陥り、カミューは思わずパソコンのキーを滅茶苦茶に押していた。しかし何も反応を返さず真っ暗なままの画面に、焦燥と怒りが湧き上がる。それはそうだろう。ここにはあと少しで完成するはずだった計画書が入っているのだ。しかも月曜日までには完成させ、プレゼンテーションに臨まなければならない。それなのに。

「一からやり直せってのか?」

 冗談だろと叫び出したかった。この計画を練り、計画書を作成するのに一体どれだけの時間がかかったと思っているんだ?一週間だぞ、一週間!それに必要な情報も全てこの中に入っているんだぞ?おいおい・・・とがっくり項垂れたカミューの指先がどこかのキーに触れたその瞬間。
 ぱあああっと辺りが輝く青い光に包まれた。

「なッ・・・」

 なんだと言う前に、眩しさに目が眩む。眼球を焼かれるような痛いほどの光ではない。しかし身体中に浸透しそうなどこか透明感を含んだ、青い、光。思わず腕で顔を覆う。長いようにも感じた、時間にしてみればほんの一瞬の後、辺りはまた元の薄暗いオフィスに戻っていた。

「な、なんなんだ、一体・・・」

 訳が分からない、と顔を覆っていた腕をそっと下ろそうとしたカミューは、次の瞬間文字通り目が点になっていた。
 目の前の。キーボードの上に。
腰に手を当て、にっこりと誇らしげに笑う小さな人間が立っていた。

「俺はマイクロトフだ!お前の願い事を叶えてやる」



それが、カミューとマイクロトフの出会いだった。










→act.2




リーマンものと見せかけて・・・実はファンタジー?(笑)
いや、最初は本当にリーマン目指してたんですよ。ウソじゃないです(泳ぐ目)
でも気がついたらこんなことに・・・姉と二人で笑ってしまいました。
でもって、この小さな青さんは、きっちりあの団長服を着て腰に剣なんか下げちゃってたりします。それもまた萌え・・・と勝手に続き物決定にしてしまいました(てへ)
なので続きます。呆れずお付き合い頂ければ幸いです。


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