艶やかに華やかに咲き誇る

けれど

清楚な穢れなき花・・・



そしてオレは貴方に囚われた哀れな一匹の蝶



恋焦がれても恋焦がれても

貴方を求めてひたすら舞うしか術のない

哀れな一匹の蝶・・・










花香炉











夜の静寂の中
一人血に塗れた手を洗う男がいた。
ぱしゃり
ぱしゃり・・・
月明かりに照らされた水面を黒く汚して行く先ほど殺したばかりの男の血。
どうでもいいことのように無表情に洗う。


「こんな所にいたのか?カカシ!」


ふいに背後で声が聞こえた。
しかしカカシと呼ばれた覆面をした男は驚いた様子もなくゆっくりと振り返った。


「何か用か?アスマ」


感情の欠片さえ伺えない冷たい声音にアスマが煙草を咥えた唇を歪ませて答えた。

「何か用?とはないだろうが。探したんだぞ?」
ほら、今回の報酬だ!

そう言ってカカシに手渡された白い包み紙。
カカシは中身を確かめることもせず、己の懐へと無造作に放り込んだ。
そんなカカシにアスマがいかつい肩を竦ませて言った。

「お前な〜もうちょっとは嬉しそうな顔しろよ?小判10枚だぜ?しばらくは遊んでくらせるほどの大金だって言うのに・・・ちった〜有り難がれや?」

「人を殺して得た報酬に喜べ・・・そう言うのか?」

いつもなら何も言わずに無視するのに珍しく答えを返したカカシを驚いたように見つめてしまったアスマ。
我に返り苦笑しながら空を見上げた。

「そりゃ〜そうだがな・・・ま、なんて言うの?人生楽しまにゃ〜損ってね」
しかし・・・お前がそんなこと言うなんてな〜
いったいどういう風の吹き回しだ?

にやにやと笑いながらカカシの肩に腕をまわす。
少し嫌そうに眉をひそめその腕を払い除けたカカシにも何がおかしいのかアスマは笑いを止めない。
溜め息をついてその場を後にしたカカシをいまだ笑いながら追い掛け捕まえたアスマが言った。

「な〜カカシ?ちょっと付き合えや」
「断る」
「そう言うなっての!お前も楽しみの一つや二つ持った方が人生楽しいもんだって」

即座に答えたカカシの腕をを強引に掴みアスマが歩き出す。
カカシは深い溜め息をついた。










今日殺めた男は何の落ち度もない普通の人間・・・
その出生がある大名のご落胤でなければ?
その出自を利用しようとした輩さえいなければ?
きっと似合いの女を嫁にしてたくさんの子供を作り・・・
ごく普通の・・・まっとうな人生を終えることができたであろう、そんな一人の男。
まだ20を越えたばかりのその若い男の心臓を?
たった一刺しで無情にも刺し殺したのは・・・
家の安泰しか考えない・・・病床についていたその父によって依頼されたこの自分。
暗殺を請け負うことが自分の生きる糧を得る手段

それしか知らない・・・

それしか教えられなかった・・・










夜だというのにそこはまるで光の氾濫であった。

僅かに吹く風に揺れる幾つもの紅い提灯。
紅い格子から洩れる灯かりが夜道を照らし。
女達の嬌声が響き渡る賑やかで退廃的な雰囲気を醸し出す街
―――吉原

男も女も一夜の夢にその身を浸し、夜が明ければその全てが泡のように消え去るうたかたの幻。





「あらまぁ!アスマさまではありんせんか!」


「久しぶりだな〜玉葛」
「ほんに。もうあちきのことなんてお忘れになられたかと思うておりましたんえ?」

拗ねたように唇を尖らせ顔を見ようとしない玉葛を宥めるように手を取りながら、アスマが言った。

「すまん、すまん。ここの所何かと忙しくてな〜そう怒るな」
今日はお前に頼みがあって来たんだ。

「あちきでなくともよござんしょう?」

つんとすまして答えた女に苦笑しながらアスマが玉葛を引き寄せる。

「ここらで一番の器量良しで気風のいいお前でないとダメなんだよ」
「お世辞のお上手なこと」
「本当のことだろう」
「・・・アスマさまには負けましたえ。で、あちきに頼みとはなんでありんす?」

どうやらご機嫌の治ったようの女に自分の背後を示す。

「実はあいつのことなんだが・・・吉原が初めてのあいつに似合いの女を・・・」
「なんて綺麗な銀の髪でありやしょう!・・・・まぁ・・・・」

今は覆面をしていないカカシの顔を見つめ言葉もなく呆ける玉葛。

「こらこらこいつがいくら見たことも無い美形だからってオレを置いて呆けるな」

苦笑しながら玉葛の頬をぺちぺちと軽く叩いてアスマが言った。

「あちきとしたことが・・・」

いまだ夢見るようにカカシを見つめながらも玉葛はすぐに正気に戻りアスマに頷いた。

「アスマさま、分かりましたえ。こちらの方に似合いの女でありんすえ?でもそうなると太夫ぐらいしかお相手は無理そうでありんすが・・・」
「な〜にお足のことなら心配無用!」
「そうでありんすか。では・・・」
おっかさんに聞いて参りす。

頷き奥へと消えて行った女の背中を見送りながらアスマがカカシに囁く。

「太夫だってよ?すごいじゃないか!ここ木花屋の太夫は江戸一番の・・・」
「くだらん」
「あはは、まぁいいさ。今日はとことん楽しんで来い!オレの奢りだ」

肩をばしばしと叩いた時、奥から女が戻ってきた。

「おっかさんにも許しを頂きましたんえ、こちらへどうぞ」
「ほら行って来い」

どんと背中を叩かれてカカシは女の前に押し出された。

「ほなアスマさま、少しお待ちくださんせ?」
「ああ」





急な階段を女に案内されて上り広い廊下へと進む。
カカシは心の中でなんでこんなことになったのだろうと疑問を抱きつつ、しかしこれであの男が満足し、自分に構わないでいてくれるなら少しの我慢だと思っていた。

「こちらでありんす」

連れてこられた目の前には、花や蝶をあしらった豪華な金箔張りの襖があった。

「どうぞ」

促され仕方なく襖を開ける。
僅かな行灯の灯かりしかない薄暗い部屋の奥に、こちらに背中を向けた一人の女が座っていた。
白い花と蒼い花をを散らした目にも鮮やかな緋色の着物を纏った小柄な女。
部屋に入ると背後で襖が静かに閉められる。
どうすればいいのかと思い見つめる先の女がゆっくりとこちらを向いた。


息を飲んだ。
その美しさに・・・


自分の身長の半分にも満たないような小さく華奢な身体はまだ少女のもの
暗がりでも鮮やかな金の髪に雪のような白い肌
まっすぐに自分を見つめる深い深い蒼い瞳はまるで海を映しているかのよう
そしてその唇からは言葉ではなく宝石が零れるのではないかと思わせる可憐な桃色の唇


すべてが夢のように美しい存在・・・


「蒼花太夫でありんす」

鈴を転がすかのような可憐な声。
その声に我に返る。
何か言おうと口を開くが、その時に咽喉がからからに乾いてしまっていることに気付く。
いったん口を開き、しかし何も言わず閉じてしまったカカシを、口元を袖で隠しながら蒼花は可笑しそうに見つめた。

「お名前を伺ってもようありんすか?」
くすくす・・・

「あ・・・ああ・・・カカシ・・・という」

「あい、カカシさまでありんすね?さぁ、どうぞお座りになってくださんし」

白く華奢な手で示された席へ、まるで夢でも見ているかのような心持ちで座る。
頭の芯が痺れたような甘い感覚にただ夢見心地で・・・

「どうぞ」

朱色の杯にそっと注がれた酒。
透明なそれを、太夫から目を逸らすことができないまま飲み干した。





豪奢な襖に映る・・・蝋燭の灯かりで頼りなく揺れる二つの影

夢か現か判然としないこの空間で・・・

静かに静かに時間だけが過ぎていく・・・










第一話完




はい!第一話終り!
副題”花魁ナルトに惚れる暗部カカシ”でした〜(をい)
いや、言ってることはほんとそれだけなんですがι
まぁ、冗談はここまでにして・・・
如何でしたでしょうか?(汗)
遊女の言葉とか・・・
江戸時代のこととか・・・
私にはちょっと(大分?)難しく・・・
随分といい加減なものとなっておりますが・・・
細かいことは広い心でお許し下さい。
一応念のために一言。
苦情は一切受け付けません!(真剣)
まぁ・・・でもきっと・・・
ここまで読んでくださった方は、
海よりも広い心の持ち主の方でしょうv(爆)

第二話は、”花魁ナルトの秘密に迫る!”
みたいな感じにしたいです・・・
続くかどうかは分かりませんが(殴)


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