それは遠い記憶・・・ 細い腕に抱かれ 冷たく暗い夜道を逃げた幼い自分 逃げても逃げても・・・安住の地は無く 心休まる時はなかったけれど 優しい腕が自分をいつも包んでいてくれた それは・・・泣きたくなるほど優しい温もり あれは誰だったのか・・・ 思い出そうとしても思い出せないけれど あの時感じた温もりが今の自分を支えてくれる それは遠い遠い・・・記憶 花香炉 ほんのりと空が白み始めた。 軽やかにさえずる小鳥達の声が、夜の夢から目覚めさせていく。 気だるげな表情の女達に促され、男達は身支度を整える。 現実という名の世界へと戻っていく男を引き止めることなど許されないから。 女達は悲しげな心を抱いて だけど表面は無関心に見送るだけ・・・ 「また・・・来てもいいだろうか?」 囁くように蒼花の耳元でカカシは呟いた。 どこか柔らかな表情で自分を見つめるカカシに、蒼花は小さく頷いた。 しゃらりと・・・簪が音を立てる。 そっと伸ばした細い指先を、カカシの銀の髪に絡めた。 そして微笑みを浮かべたまま見つめる蒼花を、壊れ物にでも触るようにそっと抱きしめる。 腕の中の小さな存在 強く抱きしめれば壊れてしまいそうで・・・ 力をこめることさえできない 昨夜初めて出会ったこの少女に どうしてここまで心動かされるのか そんなことは分からない ただ・・・ また会いたかった これで終りにすることなど 自分には・・・考えられなかった ただ・・・それだけ・・・ 「カカシさま・・・」 カカシの男にしては細身の、だがしっかりとした胸に抱かれたまま・・・蒼花が呟いた。 「次にいらっしゃる時は・・・」 恥じらいを・・・そしてどこか憂いを含んだ眼差しでじっと蒼い瞳が見つめる。 その可憐な唇から零れ落ちる言葉がどんな言葉でも・・・カカシには至上の言葉。 じっと静かに言葉が紡がれるのを待っていた。 けれども? その先は紡がれることはなかった・・・ 木花屋の蒼花太夫・・・ 江戸一番と称えられる彼女を知らない者などいない。 しかし、蒼花は花魁道中を行うことさえしない異色の太夫。 その姿を見ることが出来た者ははたして幾人か・・・。 そして、ただ金を積んだだけでは蒼花に会うことなどできはしない。 それは・・・気まぐれな天女の胸一つ・・・。 それでも? 蒼花に会うためなら幾ら金を積んでも惜しくない・・・ そう思い、まだ見ぬ天女に恋焦がれる男達。 何がそうさせるのかは分からない。 しかしそう思わせる何かが蒼花にはあるのか・・・ 誰もが口を揃えて称えるのだ。 江戸一番は蒼花太夫と・・・ その姿を誰も見た者などいないのに・・・ 朝の柔らかな光の中。 そっと店を出て行く後姿。 銀の髪が光を浴びて輝くのを・・・そっと紅い格子の奥から蒼花は見つめていた。 初めて見たのにどこか懐かしくて・・・ 胸を占めたあたたかな気持ち。 会いたくて 会いたくて ただ会いたくて・・・ 思わず奥に戻ってきた玉葛姐さんを引き止めていた。 でも? 「オレに何ができるんだってばよ・・・」 しゅるりと解いた帯を足元に落としながらため息をついた。 あの人に自分が会えるのはこの姿でだけ。 けして本当の姿では会うことはない。 憂いを含んだ眼差しを伏せ・・・ 高く結い上げた金の髪にそっと手を差し入れ簪を抜いていく。 はらりと落ちて背中を流れるその長い金の髪を、紐で軽く結わえた。 そしてゆっくりとした動作で・・・ 一枚・・・また一枚・・・偽りという名の鎧を脱いでいく。 鮮やかな緋色の着物を纏ったあの美しい少女はそこにはいなかった。 その肌も その金の髪も そしてその蒼い蒼い瞳も・・・ 何一つ変わることはないけれど? そこに存在したのは・・・真っ白な着物を纏った一人の少年。 チチチ・・・・ 突然耳に届いた小鳥の声。 鳴き声の方に目を向ければ、格子の間に瑠璃色の羽を持つ小鳥が来ていた。 この時間になるとどこからともなくやってくる一羽の小鳥。 ここでの暮らしで自分に安らぎを与えてくれる小さな友達。 「お前・・・今日は早いじゃないか」 近づきいつものように手を差し伸べようとしたその時。 締め付けられるような胸の痛みに激しく咳き込んだ。 咄嗟に口を抑えた手の指の間から・・・零れ落ちる紅い雫。 「はは・・・最近・・・治まって・・・たのに・・・」 諦めたような表情でその血を眺め、そして小鳥に目を戻す。 チチ・・・ 愛らしく小首をかしげ・・・心配そうに見つめる小鳥をそっと手に乗せた。 「だい・・・じょうぶ・・・こんなの全然平気・・・」 自分はこんな痛みよりも酷い痛みを知ってしまったから。 それはあの人を偽る痛み。 優しくそっと抱きしめてくれた・・・あの人を。 あの人には本当の自分で会いたかった 偽りじゃない本当の自分 だけど それでも 偽るしかないこの身・・・ 昨夜会ったばかりのあの人に・・・ どうしてそこまで思ってしまうのか自分でも分からない。 ただ・・・ 月の光を映したようなあの銀の瞳が・・・ 心を捉えて離さない・・・ 第二話完 ようやく第二話書き上げました! うう、辛かったです(泣) なかなか話の流れがうまくいかなくて・・・ 入れたかったけれどどうしようもなく はぶいた箇所がいくつかι 本当ならもっと話が進むはずだったんですが、 何故だか朝別れた辺りまでしかないのです・・・(爆) とりあえず第二話で言える事は、 なんだかナルトには秘密があるのよ〜程度です。 あ、ちなみに・・・ カカシは花魁ナルトを抱いてません。 抱きしめただけです(この差は大きい) それでもってきっとキスもまだでしょう! まだまだ手は出せませんよ〜v 彼には!(笑) それでは続くかどうかは分かりませんが、 第三話は”カカシにナルトの正体がばれて・・・” みたいなお話にしたいですv →前 →戻 |