ハジマリノウタ U






なんだってこんなことになったんだ?


そんな思いを抱きながら早歩きで歩く手塚の後ろから・・・その原因がついてくる。
ちらりと後ろに視線を投げかけた手塚は、小さくため息をついた。

透き通るような茶色の髪に縁どられた、誰が見ても整っていると証言するであろう顔。
少し大きめの学ランではっきりとは分からないが、華奢・・・と言っても反論する人間なんていないだろう、ほっそりとした体つき。
極めつけは、いつも絶えず浮かべている穏やかな微笑み。
いくら鈍い手塚でも気が付いた。
その微笑みに、クラス中が見惚れていたことに。
そんな・・・クラス中が注目している人物が。
何故か。
自分の後をついてくる。
しかも、あの爆弾発言。

”僕と友達になってくれないかな”

いったいなんだっていうんだ?

と、再度小さく溜め息をついた手塚に、不二が目聡く気付いた。

「どうかしたの?手塚君」
「いや・・・なんでもない」
「ふ〜ん・・・あ、ねぇ、君はどこの部活に入ってるのかな?」
「テニス部だが・・・?」

不二の唐突な質問に戸惑いながらも答えた手塚に、不二が嬉しそうに声を上げた。

「テニス?わーそれは偶然だね!」
「・・・む?不二君もするのか?」
「うん!少し・・・だけどね」

そう言ってふんわりと笑った不二は、そっかーテニス部なんだ・・・と嬉しそうに呟いている。

何がそんなに嬉しいんだ?

僅かに眉をひそめた手塚の前に、不二がにっこり笑って回り込んだ。
心なしか、周りにお星さまでも降っていそうな笑顔である。

「試合しよう?手塚君!」
「は?」
「試合だよ、試合」
「・・・いきなりだな」
「えーだってここのテニス部って全国狙えるくらい強いんだよね?手塚君も強いのかなーって思って・・・」
ダメかな?

そう言って小首を傾げて笑う不二に勝てる人間が果たしているかどうか・・・。
案の定手塚は、頷くこと以外できなかったのである・・・。





「わ〜広いんだね、テニスコート。5面もあるなんてすごいや」

放課後。
不二に押し切られた形の手塚に連れられてやってきたコートを見て、不二が感心したように呟いた。そんな不二の後ろで額を抑えている手塚。

まだ先輩達も来ていないコート。
一年生の自分達が黙って使用していいものかどうか・・・。
そもそも不二はテニス部に入部したわけでもない。
言ってしまえば部外者である。
先輩達に見つかったらなんと言われるか・・・。

なんでこんなことになったんだ?

この日何度目かの溜め息に、手塚は思わず空を見上げた。

「手塚君、あのコートでやろうよ」
「あ・・・ああ。・・・ではやるか」

振り返った不二に頷いて、手塚はようやく腹を決めた。
不二がどれほどの腕の持ち主かは分からないが、手塚にとってテニスをできる相手がいることは喜ばしいことなのだ。最近では、手塚に負けるのは当たり前・・・という風潮が当然のごとく受け入れられている中、相手になろうという人物もいないし、ましてや本気など出せるはずもない。

そんな中で、ほんの少し感じていた小さな苛立ち。
もっと強い相手と試合したい、本気を出せる相手と試合したい・・・!

この・・・柔らかな微笑を浮かべる転校生が、願わくばその本気でぶつかれる相手であることを、手塚は無意識に願っていた。

「ワンセットマッチでいいか?」
「うん、いいよ」



打ち出してすぐに手塚は思った。
打てば返るこの手応え。
華麗に、だが着実に決める不二の技に、純粋に感嘆の意を覚えた。
独創的な彼の技はどれも興味深いものであったし、はっとさせられるものがあった。

これは・・・!

先輩達にも感じたことのない手応えに、手塚は気がつけば夢中になってラリーをしていた。



最後のボールがネット際に落ちる。
結果はゲームカウント6-4で手塚の勝利・・・

ネットの向こうで、不二がにっこり笑う。

「手塚君・・・すごいね!強いや君!」
「不二君もな」
「あはは、ありがとう」
負けちゃったけど、楽しかったよ!


綺麗な笑顔を浮かべた不二に、手塚は久々に感じた充実感を、なくしたくない・・・そう思った。


「不二君、テニス部に入らないか?」
「え・・・手塚君?」

いきなりの言葉に戸惑ったように小首を傾げた不二に、手塚が真剣な表情で歩み寄った。
ネット越しに、不二の端正な顔を見つめる。

「俺は・・・全国を狙いたい!君がいれば、その夢に近づけるんじゃないかと思うんだ」
「手塚君・・・」

二人の間を風が静かに吹き抜けた。
煽られた髪を抑えて、不二がにっこりと笑う。

「うん、いいよ。テニス部に入る」
「本当か!」
「だって元々テニス部に入るつもりだったし・・・」
「え・・・?」
「まさか君に誘ってもらえるなんて思ってもみなかったよ」
嬉しいなv

唖然とした手塚に、それはそれは綺麗な微笑みでもって答えた不二に、手塚は少しの沈黙の後、くすりと笑みを零した。
それは口の端に浮かべただけの小さな笑いだったけれど。
二人の間の空気が変わったのが不二にも分かった。

「不二君は・・・変わってるな」
「そうかな?手塚君も相当なものだと思うよ」
「そうか・・・?」
「うん、なんだか楽しいや」
「楽しい・・・か」
「ねぇ、手塚君?」
「なんだ?」
「全国・・・行こうね」
「ああ、そのつもりだ」



お互いに顔を見合わせ、額の汗を拭いながらコートの端に座り込んだ二人。
見上げた空は・・・どこまでも澄んだ青空だった・・・。










2年後。

「あのさ、手塚」
「なんだ、不二?」
「あの時・・・どうしてボクが試合しよう!なんて言ったか知ってた?」
「いいや・・・?」
「ふふ、あのね、手塚がテニス好きそうだったからだよ」
「どういう意味だ?」
「手塚の好きなテニスで気を惹きたかった・・・って言ったら分かる?」
「・・・っ不二!?」
「ふふ、だってどうしても君と友達になりたかったんだもの」

そう言ってにっこりと微笑んだ不二に、手塚は照れくささを隠すように押し黙った。
目元がうっすらと赤いことに気が付いた不二はくすりと笑う。

だから君は楽しいって言うんだよv



相も変わらず手塚は不二に振り回される日々。
それも悪くない・・・なんて考えていることなど、不二にだけは知られるものか!
そう思う手塚と。
そんなことはとうの昔にお見通しの不二。
手塚の受難はまだまだ続きそうである。










END


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はい、「ハジマリノウタ U」でした。
手塚を書くのは初めてで、いったいどうすればいいのやら〜?とかなり焦ってしまいましたが・・・い、如何なものでしょうか、Marさん?(どきどき)
こんなものですが、受けとって頂ければ幸いです・・・(>_<)

書いていて思いました。
ちょっぴり塚不二風味???
いいえ、これは二人の友情物語です!!


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