≪≪≪ 恋  唄 ≫≫≫



覚えているよ

君のことは全部

誰よりも
何よりも

大好きで・・・大切な君のことだから



そう・・・君がこの世から消え去ってしまった今でも



僕は君を・・・忘れない



忘れられない




[第2話]




鉄の扉を押し開けたその先は、広い空間だった。
窓のない空間は、燭台に飾られた幾本もの蝋燭に照らされ、仄かな輝きを壁全体が放っている。
そしてその灯かりにより、幻想的な雰囲気を醸し出す・・・内部を飾るレリーフ。
扉と同じく、そこには王国の、そして世界の歴史が刻まれていると言われている。
リョーマは、ゆっくりと中へと歩を進めた。
背後で扉が閉まる音がする。
空間は、真実、閉じられた空間となったのだ。

揺れる蝋燭の向こうに、人影がゆっくりと浮かび上がる。
白い・・・服を全身に纏った人物。
リョーマは、その人物の側へと歩み寄った。


「久しぶりだね、おばば」
「元気そうだね、リョーマ王子。ふふ・・・生意気な口も相変わらずか」
「そういうおばばもね」
「そうかい」

そう言ってからからと笑った人物は、年の頃が50半ばと言ったところか。
白いローブのような服を身に纏い、額には赤い紋様が描かれている。
おばば、と呼ばれた人物は国で一番の実力を誇る、「大巫女」だった。

「しかし、本当に大きくなったよ。会うのは5年ぶりくらいかねぇ」
あれに似てきたよ

嬉しそうに、それでいてどこか寂しそうに見つめるその瞳に、リョーマはつまらなさそうに言った。

「思い出話をしにきたんじゃないんでしょ?おばば」
さっさと用件済ませてよ

生意気なその口調に、珍しくも感慨に浸るなんてセンチメンタルなことをしていた大巫女は苦笑して頷いた。
自分には思い出を語るよりももっと重要な使命がある。
それは大巫女としての、そして「聖跡」を預かる者としての責任。
今はこの「儀式の間」にて果たさなければならないことがあるのだ。
そこに感慨は・・・必要ない。
必要なものは巫女としての力。

「じゃぁ、始めようかね」
「いいよ、いつでも」

重い腰をあげるように、呟いた言葉にリョーマがあっさり頷く。

たいした奴だよ

大巫女は小さく笑って、リョーマをさらに奥へと、導いた。



――――13歳。
それはエチゼン王家にとっては、重要な意味を持つ年齢であった。

王家に生まれた直系の王子。
王子は13歳になると、この「儀式の間」の更に奥に在る、「聖なる礎」と呼ばれる場所である儀式を受けなければならないしきたりがあるのだ。
「儀式の間」には王家の者であれば、望めば入ることができる。
しかし、「聖なる礎」には王家の中でも直系の者のみしか入ることを許されない、秘された場所であった。
そこで・・・王子は王家に伝わる責任と義務を知ることになるのだ。



ゆっくりと・・・大巫女の先導により、暗く長い廊下を抜けて辿りついた「聖なる礎」。
唯一の入り口である、樫の木で作られた古ぼけた扉の前にリョーマは立っていた。
扉に刻まれた文字は、長い年月を象徴するかのように擦れ・・・とうに読めなくなっている。

ぎいぃ・・・という軋んだ音を立てて扉が開く。
隙間から洩れる微かな光・・・。

一歩、その中へと足を踏み入れた先に・・・リョーマはあるものを見つけた。
「聖なる礎」の中は、幾本もの蝋燭に照らされた「儀式の間」とは対称的に、灯かりを宿すものはない。
しかしそれは暗闇であることを意味しなかった。
何故なら、「聖なる礎」のほぼ中央。
そこに青く淡い燐光を放つ岩のようなものが存在していたのである。
神秘的な光を帯びた岩。
岩から、りぃぃーん・・・という澄んだ音が、微かだが部屋中に響いている。
その音に混じって・・・不意にリョーマに届いた囁き声・・・。



・・・ヤット・・・アエタ・・・



「・・・え?な・・・に・・・?」



それはあまりにも小さくて。
聞こえたことすら幻のような・・・そんな声だったから。
リョーマは空耳かとも思った。
だけど・・・空耳と思うには、耳に残る囁きが胸に残って・・・。
目を凝らして岩を見つめる。

頭の中で、りぃぃーん・・・という澄んだ音がまるで螺旋を描くように響き渡った。
その音に誘われるように・・・ふらりと伸ばされた指が岩に触れた。

瞬間。

胸を突如締め付ける、言葉にできない想いに絶えきれず片膝をついてしまった。


「どうしたんだい!王子!?」


慌てたように叫ぶ大巫女の声も、今のリョーマには届かなかった。
ただ・・・ただ胸が痛くて・・・苦しくて。
そして涙が溢れるくらいに・・・切なかった。


ただの・・・岩でしょ?
なのに・・・
なんで・・・?


頬を伝う涙の雫が、ぽたりと岩に落ちる。
と、その時。
突然岩がそれまで以上に光り輝き始めた。
それは決して目を射るような光ではない。
だけど瞼に・・・心に焼き付く光。
眩しさに瞳を閉じた、リョーマと大巫女が・・・ようやくその目を開けた時。



彼らの目の前に、一人の少年が立っていた。
端正な白い頬を縁どるさらさらの茶色の髪が、宙に微かに舞っている。
ふぁさりと・・・少年の身に纏う黒いローブがゆっくりと床に流れ落ちた。


「・・・っ!?」
「な・・・!」


呆気に取られたように目を丸くする大巫女には目もくれず・・・。
驚くリョーマに向かって、その少年がにっこりと微笑んだ。
それは・・・目にした者全てを魅了してやまない柔らかな微笑み。
思わず見惚れたリョーマの耳に、嬉しそうな・・・優しい囁きが聞こえた。



「会いたかった・・・リョーマ君」










・・・大丈夫・・・大丈夫

・・・きっと・・・また会えるよ・・・



どれほどの時が経とうとも・・・

ずっとずっと待っているから・・・約束、するよ



だから・・・だからもう泣かないで?










END


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はい、テニプリパラレル『恋 唄』の第2話でした〜!
あわわ、長らくお待たせして申し訳ありませんでした(汗)
なんとか第2話UPです。
しかし相変わらずなんだかよく分からないお話ですねι
って書いてる本人が言ったらまずいですか?(殴)
早く話が分かるようにしないと(汗)
続きは・・・すぐに書けるといいなぁ・・・などとかなり弱気に思っていたりしますが・・・(爆)
でも管理人が管理人ですからね・・・(死)


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